水産物の水揚げから小売まで

静岡県で新たな挑戦!

マグロやカツオの漁獲で有名な静岡県焼津市で、水産物の水揚げから加工、流通、小売と、漁業に関わる川上から川下までの企業を集めてBCP(事業継続計画)の策定を支援することで、災害にも強い地域ブランドを構築しようという試みが進められている。

この取り組みは静岡銀行が経済産業省の地域力連携拠点事業を受け実施しているもの。静岡銀行がコンサルティング会社である東京海上日動リスクコンサルティング㈱へ委託し、商工会議所を通じて会員企業のBCP策定を支援している。国の補助金を活用することに加え、まとまった企業を同時に支援することで費用負担を少なく抑えられるメリットがある。参加企業は資料代として5万円だけ支払えばBCPを策定できる。

静岡銀行では、一昨年にも、同じ方法で沼津市の工業団地で組合に入る企業を対象にBCPの策定を支援した実績がある。同行法人営業支援グループの内藤正英氏は「銀行としては融資先である県内企業に元気になってもらわなくては困る。ところが、5年程前に県内企業の経営者を対象にアンケートを行ったところ、回答企業の約3分の2が後継者のいないことで悩んでいることが分かった。そこで、融資以外にもできるお手伝いとして、事業承継をはじめ、相続や、その他さまざまなリスクについて学んでもらう勉強会を開催するとともに、地震などの災害に対してはBCPを構築してもらうよう働きかけてきた」と説明する。



一方、焼津商工会議所では、冷凍倉庫業を営む会員企業の1社が、先進的にBCPを構築し、商工会議所に対して、地域全体での取り組みの必要性を呼びかけていた。この動きを聞いた静岡銀行が焼津商工会議所に提案し、沼津工業団地と同じ支援をすることが決まった。

焼津市は、カツオの水揚げ日本一を誇る漁業の町。しかし、近年、少子高齢化や過疎化、後継者不足などにより地域経済は疲弊。他方、東海地震の発生確率は年々高まっており、商工会議所の岡本康夫事務局長は「東海地震により地域が大規模な被害を受ければ、水産物の出荷ができないばかりか、地域ブランドが立て直せなくなるという危機感があった」と振り返る。

商工会議所では昨年、水産ブランドの普及や町中再生と併せて、危機管理を重点施策の1つに掲げ、8月からBCP策定集中講座を開催することを決めた。参加企業を募ったところ、集まったのは12社。水揚げや加工を担う漁業協同組合に加え、倉庫業や、卸、鰹節などの製造業者、さらには水産業と直接関係がない自動車販売や船のエンジン製造会社、地元新聞店も顔を連ねた。自発的に申し込んだ企業だけではない。水揚げから加工、流通まで漁業全般を幅広くカバーするコンセプトを実現させるため、参加してほしい企業には直接出向いて理解を呼びかけたという。

BCP策定講義は、2週間に1回で、木曜日か金曜日の午後1時から4時までの約3時間。計6回、3カ月間でBCPを策定する。毎回テーマを変え、最初の1時間半は、一般的な基礎知識や考え方を講師が説明。残った時間はグループディスカッションや演習の時間にあて、さらに講義終了時には宿題を与え、次の講義までに考えてきてもらうという流れ。講師を担当した東京海上日動リスクコンサルティングの小林俊介氏は「一般的なBCPの概念を教えるような講座と違い、とにかく中小企業に自社のBCPを作りこんでもらうことを優先した」と説明する。

具体的な内容は、1回目が事業継続の基本方針の策定、2回目が重要事業の選定、3回目が業務プロセスの分析・被害想定、4回目が戦略・対策検討、5回目がBCM基本文書の作成、6回目は作り上げたBCP文書の確認と個別相談(上図表)。比較的に早い段階から、ビジネスインパクト分析による優先業務の選定など、BCPの中核的な作業を盛り込んでいるのが特徴だ。

参加企業のほとんどは3カ月の講座でBCPを完成させることに成功した。ただ、一度きりの取り組みで終わらせないため、同商工会議所ではフォローアップ事業として、1社1社をコンサルティング会社と訪問し悩みや課題を聞くとともに、継続的な向上のアドバイスを行っている。岡本事務局長は「とりあえず第一歩は踏み出したが、この後が大事。次のステップとして、自分たちの策定した計画を、訓練するなどして企業活動の中に定着させることができるよう、商工会議所としてもできることを考えていきたい」と話す。

既にいくつかの企業に対しては、BCPを維持させる新たな試みにも挑戦してもらっている。その1つが、静岡県信用保証協会が2007年4月に創設した災害時における資金支援制度「災害時発動型保証予約システム」の活用。同制度は、BCPの内容が信用保証協会に認められれば、大規模地震などによる被災時に最大2億8000万円の資金支援が受けられるというもの。被災時に、事業再建に必要な運転資金を即座に借りることができるというメリットに加え、有効期限が1年間で、毎年更新の必要があるためBCPを継続的に向上させていく仕組みとして有効だというわけだ。静岡銀行の内藤氏は、「BCPを構築するのに大手企業なら個別にコンサルティング会社を使うこともできるが、中小零細企業はお金がかかりすぎて無理。今回の事業をモデルに、グループコンサルティングのような手法が確立でき、仮に1社が10万円∼20万円を負担すればコンサルティングを受けられるようにすれば、最終的には補助金に頼らなくても広く中小企業にBCPを普及できるようになるかもしれない」と話している。

 

 

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