リスクマネジメント最前線より

 

東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 
ビジネスリスク事業部 危機管理・海外グループ

 

広報部門におけるリスク対策の重要性とポイント

ソーシャルメディアの浸透により、個人の消費に関する体験が広く発信されるようになった結果、企業の製品やサービス等に関するネガティブな情報についても瞬く間に広がるようになった。また、昨年10月には、消費者の生命・身体に危害を及ぼした製品等について原因調査等を行う消費者安全調査委員会が発足したこと等からも、企業に対する外部の目はより厳しさを増しているといえる。

企業の価値を毀損してしまうようなネガティブ情報への対応において、対外的な情報発信を担う広報部門の重要度は増している。本稿では、広報部門におけるリスク対策の重要性と、そのポイントについてまとめる。

 

1.企業に対する消費者の影響力増大


(1)ソーシャルメディアの浸透
Facebook、Twitterに代表されるソーシャルメディアは、様々な形で浸透を見せている。統計によって若干の差は見られるが、Facebook、Twitterともに、日本においては現在、1500万人前後の利用者がいるとされている。(図表1)

また、口コミやお気に入りの紹介機能により購買促進を図る「ソーシャルコマースサービス」と呼ばれる商品販売サイトや、放送中にソーシャルメディア上の発言を紹介するテレビ番組の増加など、インターネット上での一個人の発言が、様々な形で伝播・活用されるようになってきている。

一方、ソーシャルメディアの浸透により、企業は新たなリスクにも晒されるようになった。謝罪会見において不手際があった場合等には、謝罪会見に参加した記者によるリアルタイムの投稿や、その後のテレビ映像を見た視聴者による投稿により、その企業に対する批判が瞬く間に広がる危険性がある。その他にも、「やらせ投稿」への批判、プレスリリース前のフライング投稿、社長によるTwitter上の発言に対する批判、社員によるソーシャルメディア上での情報漏えい等、ソーシャルメディア浸透の裏で、これまでにも様々なトラブルが発生している。

このようなトラブルをできる限り避けるため、企業においては、ソーシャルメディアの即時性を踏まえたリスク対策、および、それに付随する広報体制等の整備を進めるとともに、ソーシャルメディアの活用方法と注意点について役員・従業員に対して意識啓発を行うことが不可欠であると言える。

 

(2)消費者安全調査委員会(消費者事故調)の設置
昨年10月に、消費者安全調査委員会(消費者事故調)が発足した。同委員会は、内閣総理大臣が任命する7人の委員で構成され、消費者事故の原因調査を行い、再発防止策について内閣総理大臣や関係省庁に勧告や意見具申を行う。(図表2) これまで航空・鉄道・船舶の分野については運輸安全委員会が同様の役割を担っていたが、同委員会の発足により、その他の様々な消費者事故に対しても、原因究明・再発防止の検討が進むことが期待されている。

昨年11月の同委員会第2回会合では、被害者からの申し出等に基づき5件の調査対象を選定し、既に活動が開始されている。なお同委員会は原因調査のため、必要な限度において、報告徴収、立入検査、質問、物件提出・留置、物件保全・移動禁止、現場立入禁止といった調査権限を有している。

同委員会の調査による個別企業への影響については今後を待つ必要があるが、少なくとも自社の製品やサービス等の安全性に関する情報に対し、より一層の意識・注意が求められることとなる。

 

 

2.企業における課題


(1)スピード:有事における迅速な対応体制の確立
特にソーシャルメディアに関する特徴として、情報の伝播が非常に速いという点が挙げられる。一例として、2011年に中国で発生した高速列車の追突・脱線事故においては、インターネット上に記事が掲載されだすまでに数時間を要したが、ソーシャルメディア上には事故の数分後より乗客による書き込みが行われていたとされる。

有事の際には、場合によっては記者会見前にソーシャルメディア上で情報が伝播することも想定される。一方、企業として対外的に情報の公開行う際には、例えばインサイダー取引規制上問題が無いかなど、様々な観点からの配慮も必要となる。このような環境の中、有事において「スピード」感をもって対応していくためには、ホームページ上での情報公開に関するルールの検討等、対策を事前に協議しておく必要がある。

 

(2)公平性:様々なチャネルを通して寄せられる意見への対応
ソーシャルメディアをはじめとした、消費者が情報を伝える・発信する方法の多様化も、企業にとっては無視できないものとなっている。消費者が企業に対して何らかの不満を持った場合には、ソーシャルメディアを通して、大勢の人と簡単にその不満を共有することができる。また、前述の消費者安全調査委員会のように、消費者が行政に対して、企業に対する調査を依頼する窓口体制等も整いつつある。

一方、例えばソーシャルメディアに良い書き込みがあった場合のみ丁寧に対応する、行政から指摘を受けてはじめて対応する等、消費者が意見を申し出る方法によって対応が異なっては、企業の姿勢を問われかねない。企業においては、様々なチャネルから寄せられる消費者からの意見に対して、不平を生じさせないようどのように「公平」に対応していくべきか、方針を検討することが重要となる。

 

(3)透明性:真摯なコミュニケーション
消費者間で情報が広がるようになったことで、企業が発信する情報における誇張や虚偽に対しても、非常に厳しい目が注がれるようになった。特に「やらせ」や「さくら」といった行為については、発覚するとすぐさまソーシャルメディア上で多くの批判を浴びせられ、大炎上に至るという事態が度々発生している。

企業においては「透明性」を重視し、誇張や虚偽の無い宣伝・広報を行う、企業の製品やサービス等に関するネガティブな情報についても必要に応じて伝えるといった、消費者に対して真摯なコミュニケーションを図る姿勢が求められる。

 

 

3.リスク対策のポイント


(1)リスクの把握
リスク対策において、まず重要となるのがリスクの把握である。企業全体を俯瞰したリスクについては広報部門以外の部署が洗い出しを行っているケースも多いが、広報の視点からは特に「自社および業界が、世間からどのように見られているか」という点について気を配り、企業におけるリスクの把握に役立てることが重要である。

そのためには、自社で有事が発生した場合はもとより、同業他社で有事が発生した場合の自社への影響、企業における様々な事件を踏まえた自社の体制見直しの是非等、様々な方面にアンテナを張り巡らせることが重要である。世論や時勢を踏まえ、自社がどのような批判に晒される可能性があるかといったリスク情報について、平時より積極的に情報収集することが求められる。

具体的には、新聞やニュースサイト等をチェックする際に、同業他社、あるいは、他業界も含めて、良い事例だけではなく不祥事等の悪い事例についてもアンテナを張り、リスクに対する感性を磨いておくことが重要である。

 

(2)エスカレーションルール、リスク別広報対応資料等の整備
把握したリスクについて、被害・影響が大きく、かつ、謝罪対応等が必要となるものについては、組織として一定レベル以上の対応を行うためのルール整備が必要となる。特に近年、ソーシャルメディアの浸透等を受けて情報伝播の速度が速くなっていることから、企業の情報リリースの速度に対して、世間の要求レベルはかなり高いものとなっている。そのため、リスクの顕在化を察知する「エスカレーションルール」と、その後の素早い対応を行うための「リスク別広報対応資料」については特に重要である。

「エスカレーションルール」については、事態を察知した社員からの迅速な報告を徹底させるために、明確な基準が必要となる。具体的に「○○の事態が生じた際」は「直ちに上司に報告する」といった基準を設け、しっかりと周知を行うことが必要となる。

「リスク別広報対応資料」については、必要なものとして「プレス資料(事件の要点をまとめた広報発表資料で「ポジションペーパー」「ステートメント」と呼ばれることもある。)」および「想定問答集」等が挙げられる。企業の有事対応に対するメディアの指摘によく見られる語句に「対応遅れ」「隠蔽体質」等が挙げられるが、この様な指摘に備えた対応の一つとして「プレス資料」「想定問答集」等の雛形を準備しておくことで、重要な情報を素早く対外的に示すことが可能となる。

 

(3)レピュテーション管理
ソーシャルメディアの浸透により、企業が新たなリスクに晒されるようになった背景等は前述の通りである。Facebook、Twitterの利用者数を見ても、新聞や雑誌などの既存メディアを凌ぐ存在となり得ている一方で、企業におけるソーシャルメディア上のレピュテーション管理のノウハウ蓄積と対応強化はこれからの課題といえる。

企業においてはまず、自社あるいは業界に対して、ソーシャルメディア上でどのような書き込み・つぶやき等が行われているかを把握する必要がある。さらにそこから得られた情報や、これまでに様々な業界・企業で発生しているソーシャルメディアを巡るトラブル事例を踏まえ、自社としての「ソーシャルメディアポリシー」の策定、および、役員・従業員に対する教育啓発を早急に行うことが求められる。

 

(4)有事対応に備えた訓練の実施
企業においてリスク対策を講じていても、有事の発生可能性をゼロにすることは困難である。いざ有事が発生した際に備え、準備したルールや対応資料等が機能するかどうか、訓練等を通して定期的に確認しておくことが重要である。

訓練では、より発生しそうな現実味のあるリスクシナリオをもとに、実際の有事にできる限り近い想定で実施することにより、組織としての対応力向上を図ることができる。また、「情報が揃わない中で、記者の質問にどのように答えるか」「法的な責任があるかどうかが曖昧な中で、会社としてどこまで責任をもって対応するか」「監督官庁とどのような調整が必要となるか」等、難しい状況にどのように対応するかを検証するという観点も重要となる。

 

 

4.最後に


ソーシャルメディアの浸透等により、消費者の感想・意見等が短い時間で伝播するようになった昨今、企業の消費者に対する対応においては、より一層の「スピード」「公平性」「透明性」が求められている。また、トラブル等の発生時に企業に対して問われることは、「普段からどのように管理をしていたのか」「防げなかったのか」「もっと早く気付かなかったのか」「しっかりと対応できているのか」「今後、しっかりと対応できるのか」といった、リスク対策の基本に関することである。

一方、企業のリスク対策に関する消費者からの期待・要望に対して、事態が発生してから対策を練るのでは、十分に応えることは不可能である。平素より、リスク対策が十分に行われていること、その対応結果をしっかりと対外的に伝えるための準備が行われていることが重要であり、広報部門が果たす役割は非常に大きなものであると言える。 

                   (2013年2月15日発行)

 

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転載元:東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 リスクマネジメント最前線2013-4
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