インド・ビジネスへの第一歩 
市場進出およびビジネス展開におけるリスクマネジメント

 

有限責任監査法人トーマツ/デロイト・インド

 

はじめに


本稿について
有限責任監査法人トーマツとデロイト・インドは、インドへの投資のさまざまな側面についてセミナーや各種情報提供を行っています。また、日系、外資系企業の子会社およびJV会社へのサービス提供を通じ、各社との経営者とのやりとりを、在インド企業におけるガバナンスについてのナレッジとして蓄積してきました。

昨今、日系企業のインド市場に対する関心がますます高まっている中、投資を検討中の企業から「合弁会社(JV会社)設立の際発生しうるリスクや障壁について進出済みの企業の事例を知りたい」というご要望を多数いただいております。そこで、JV会社設立と運営に関するリスクと先進事例を収集するために本調査を企画し、在インド日系、外資系のJV会社に対してインタビューやオンラインでの調査を実施しました。調査結果の概要を本稿にまとめましたので、皆様のインドにおける今後の活動に役立てていただければ幸いです。

 

 

概要


世界の注目を集める新興国であるインドは、増え続ける中流層の消費者をターゲットとする外資系企業にとって、非常に大きな可能性がある市場と考えられます。

現在、多くの企業がグローバル化戦略の一環として、新しい客層を求めて新興市場へ進出し、教育レベルが高くかつ低コストな労働力を活用し、現地における製品開発およびサプライチェーンの効率化を図っています。

新興市場における成功の鍵は、現地への販売だけでなく製品やサービスの開発のプロセスまでカバーする現地生産能力を確立させることにあります。

製品やサービスの観点から新興市場を理解し、中流・下流層のニーズに合った製品およびサービスを開発できる企業が成功に近いと言えます。

外資系企業にとって、インドは多岐にわたる事業分野においての投資機会があります。例としてインフラ事業、造製拠点開発、消費財などが挙げられます。

市場の急成長および人口の多さから、インドは外資系企業にとって非常に魅力的な市場ですが、潜在的なリスクに注意しなければなりません。

代表的なリスク領域として以下の3つが挙げられます:
 1.JVパートナー選定・提携リスク
 2.現地の商習慣に関するリスク
 3.人材管理(HR関連)リスク

パートナー候補のデューデリジェンスの実施やビジネス関連リスクに対する予防措置を実行することによって、市場進出を検討している企業は、こうしたリスクを軽減することが可能です。

デロイトが2012年に行った調査によると、インド進出に成功した外資系企業は、JVパートナーとの提携リスクを低減する施策について、事前にパートナー間の役割と責任を明確化し誤解を防いでいると答えています。また、人材管理リスクに対しては、徹底した人事管理およびトレーニングを実施して、従業員の離職を防いでいるという結果が出ています。さらに、先進企業は財務およびコンプライアンスを強化して、インドでの成功を収めていることも特徴的です。

インド進出におけるリスクおよび課題について事前に十分に理解し万全な準備を行うことにより、この国でのビジネスチャンスを活かして大いに成功できる可能性があると言えます。

 

インドの事例


■なぜインドに投資すべきか
デロイトが2011年に行った新興市場に関する調査によると、企業が今後3年間にもっとも収益成長を見込んでいる国々が「BIC」(ロシアを除くBRICs)の3カ国(ブラジル、インド、中国)という結果が出ています。調査対象企業のうち57%が、25%以上の収益成長率をインドに、56%の企業が同様の成長を中国に、49%の企業が同様の成長をブラジルに見込んでいます(※1)。インドは世界最大の民主主義国で、人口においては中国に次いで世界で2番目に多い国です。経済成長率が世界トップの国ということもあり、インドは今後のグローバル経済の発展に寄与する8大要因の1つにカウントされています。

現在、世界の陸地面積の75%と人口の80%以上が新興国によって占められています。先進国とは対照的に、人口が多い新興国はその大多数を若年層が占め、中流層への移行者が毎年増加しています。

インドの経済成長の主な要因は、中流層の増加にあります。アジア開発銀行の報告書によると、15年以内にインドの中流層は人口の70%に達するという結果が出ています。所得水準の向上により貯蓄と消費が増え、消費財および金融サービス業界に、多岐に渡るビジネスチャンスをもたらしています。高度成長に反して、未だインフラ整備は不十分であり、ここにも大きな投資の可能性があると言えます。

低コストで豊富な労働力を持つインドは、製造業および輸出産業に大きく依存しています。そのため、製造業に限らず、通信やテクノロジー産業を始めとする比較的普及率の低い分野において、今後さらなる投資の機会が見込まれます。

近年インド政府は教育分野に多額の投資を行っており、高学歴で高度なスキルを備えた労働者の大量供給に貢献しています。また、インドは多くの外注業務の拠点にもなっています。

他の新興国と同様、インドはより高い経済成長と発展を目指し、経済の自由化、民営化および国際貿易に関する市場の開放を達成すべく、経済や政治の改革を進めています。目覚しい成長を続けるインド経済は、投資により高いリターンを期待でき、投資家を惹きつけています。発展途上期にある新興国は、通常、先進国の2∼3倍の速度で経済成長を遂げています。

新興国における投資先上位4産業分野は、製造、テクノロジー、消費財、エネルギー・天然資源です。インドでも同様のパターンが見られ、製造、テクノロジー、銀行・金融、公共事業インフラ分野に投資が集中しています。

(※1) Deloitte Fortress and footholds, emerging market growth strategies,practices and outlook, 2011

 


デロイトによる新興市場に関する調査(2011)
海外営業拠点を設立し既存製品やサービスを提供するだけでは、新興市場において成功することはできません。調査対象となった海外進出企業は、各市場における顧客の特殊なニーズを把握し、それに見合った製品・サービスを適正市場価格で提供したことにより成功しています。成功の鍵は、新興市場において生産、サービス、販路、R&Dやその他のオペレーションを構築し自社で所有することです。そうすることで、現地のビジネスコミュニティに溶け込み、顧客により近い距離で事業を進めることができます。


 

 

新興市場の成長モデル


 

■理想的な成長モデル
インド市場での成長戦略を立てる以前に、企業はまずビジネス・アプローチの設計を考えることになります。オペレーションのグローバル化を図る企業は、まず、未知の新規市場へ進出・事業拡大するための最善の方法を考える必要があります。有機的成長を追及するべきか? 現地企業を買収するべきか? JVパートナーとの提携、もしくはライセンス契約を結ぶべきか? 調査対象企業のほとんどが、有機的成長がインド市場進出戦略に最適なシナリオだと答えています。しかし、全ての企業が現地におけるパートナー、または現地ビジネスに関する充分な知識を得ることなく新規市場へ進出できるだけのリソースを持っているとは限りません。そうした企業にとって、JV会社設立は最善の進出戦略といえます。本稿においては、現地でJV会社を設立した企業の経験をもとに、成功に必要な要件を紐解いていきます。

 

■現地のニーズを把握する
新興市場へ進出する企業の多くが、自社の既存製品やサービスに若干の変更を加えるのみで現地の法規制に対応しようとしています。この方法は有効ですが、企業の潜在価値を最大限に活用できない恐れがあります。先進国で既に普及しているこうした製品やサービスを購入する余裕があるのは新興市場では富裕層のみであり、中・低所得層のニーズは満たせません。

新興市場で長期的に成功するためには、特筆すべき戦略として次のふたつがあげられます。
・新興市場の特定の国や地域をターゲットにした製品又はサービスの設計をする
・市場と顧客に対する理解を深め、消費者に対して異なる価値を提供する

新興市場進出に成功した企業は、現地代理店又は自社営業・流通拠点を活用して、現地での強い存在感を確立しています。そのためには、一定の期間をかけて現地のビジネスコミュニティーの一員となり、顧客との距離を縮め、現地のビジネス環境に精通することが必要です。

 

 

JV会社設立


外資規制によりJV会社設立が必須の産業分野もあります。しかし、外資規制対象外の産業分野であっても、JV会社設立によって現地のサプライヤーやサービスネットワークが利用可能になり、現地のビジネス文化に適合しやすくなります。したがって、市場進出やオペレーションシステムの立ち上げを迅速に進めることができます。

有限責任監査法人トーマツとデロイト・インドは、インドでJV会社を設立した外資系企業を対象としたリスク調査を2012年に行ないました。この調査結果をふまえ、インドで外資系企業が現地パートナーとJV会社を設立した理由とJV設立と運営に関わるリスクについて考察します。

 

■インドについて理解しておくべきこと
市場進出を考える以前に、企業は的確な意思決定を行なうために必要な要因(マクロ/ミクロ経済要因、社会・文化的要因、消費者行動、従業員への期待、法規制など)を考慮する必要があります。現地の習慣や紛争解決のメカニズムは場所によって異なり、事業活動、さらには企業の業績に悪影響をもたらす恐れがあります。また、税法の改正案なども、外資系企業にとっては大きな関心事です。したがって、企業は、投資を決定する前にこれら複数の要因を考慮することが非常に重要です。

インドで事業展開する非インド系企業に対するデロイトのインタビューより
「インドは中国とは違います。」
新興国すべてを一括りにして、中国と同じ戦略がインドでも通用すると思い込むのは危険です。各新興国特有の文化を理解し、それに合わせたビジネスモデルを展開する必要があります。

 

■外資規制によりJV会社設立が必須の場合


インドの外国直接投資規制はさまざまな業界に適用されており、出資上限率もさまざまです。該当する業界で事業展開するには現地企業とJV会社を設立する以外選択肢がありません。

 

■JV環境において考慮すべき事項
JV会社設立によるインド進出を決定する上で、以下の事項を特に検討しなければいけません。

 

パートナー提携に関する現地の法規制の確認
提携するパートナーが現地ビジネスのノウハウ、法規制に関する知識を有しており、迅速にインドで事業を立ち上げられるよう、サプライチェーン・人的資源・営業ネットワークへのアクセスなどのサポートを得られるかどうか。

 

インド側パートナーのJV会社設立動機
豊富な資金を持つ海外事業パートナーと提携することによる自社の事業拡大、外国の先進的な技術へのアクセス、経営ノウハウと製品の獲得など、JV会社設立におけるパートナーの動機はさまざまです。パートナーの動機が自社のJV設立の目的と整合しているかを確認することが重要です。

 

■市場進出における主な課題とリスク
2012年に行ったデロイトのリスク調査によると、JVパートナーが認識するリスクがインド進出前と進出後で異なることがわかりました。進出準備段階では、法規制に関するリスクが最重要課題として挙げられました。しかし、事業運営段階に入ると、外資系企業にとって財務リスクが一番の課題となるようです。

・パートナー提携に関するリスクは進出前は2位、進出後は4位に後退しています。賄賂と汚職に関するリスクは進出前後どちらも3位でした。2011年のTransparency Internationalのレポートによるとインドは汚職腐敗度指数が3.1(10が最も透明性が高い)で、調査対象183カ国中95番目に透明性が低い結果となっています。
一方、人材管理リスクはJV設立前の段階ではあまり重視されていないようですが、JV設立後は4位に急上昇しています。

インド市場進出を検討する上では、進出前後を通して重要なリスクとして認識されている「JVパートナーとの提携リスク」、「法規制等のインドビジネス環境に関するリスク」、「人材管理リスク」の3つに留意すべきと言えるでしょう。

 

■JVパートナーとの提携リスク
JV会社を設立するにあたり、インド側パートナー選定の段階で外資系企業は家族経営の企業と交渉することが多々あります。その際、意思決定プロセスの違いや後継者決定や資産相続に関する問題に直面します。インドの家族経営の企業は経営者が創業者や2代目までは、会社の存続率が高いですが、3代目以降が経営者の場合、会社の存続率が10%以下という統計結果が出ています。したがって、外資系企業は、パートナー選定のためのリスクアセスメントを行うにあたって、パートナー候補の意思決定プロセス、企業存続期間、後継者リスクをデューデリジェンスに採り入れる必要があります。

また、外資系企業が家族経営企業のキーパーソンと交渉する際には、ある程度の年齢に達していて、意思決定権を持った人材を交渉の代表者とすることで、交渉から合意までの期間を短縮することができる可能性があります。

インドの家族経営企業における意思決定プロセスは、家族間のコミュニケーションを通して行われることが多く、外資系企業にとって理解するのは非常に難しい面があります。さらに、インド側パートナーは外国人からの提案やアイディアを受け入れることに対して非常に消極的で、自分たちで問題解決することを好みます。こうした文化的差異による誤解から不満が蓄積する可能性があります。

最後に、長期的な成長戦略を重視する外資系企業と、短期的収益を重視する傾向にあるインドの家族経営企業の間には決定的な考え方の違いがあり、合意に到達するのは難しいことがあります。

【対応策】
実際のJV交渉に入る前に、外資系企業はパートナー候補のデューデリジェンスを実施する必要があります。その際、経営管理体制および 主要な利害関係者の役割について重点的に調査すべきです。なお、最も重要な点として挙げられるのが、インド側パートナーのキーパーソンの特定です。それに 応じて、外資系企業も同じ年齢層のカウンターパートを割り当て、パートナーと同じ「目線」での協議が実現できるようにすることが重要です。

イ ンド側パートナーと強い関係を構築するには長い期間を要しますが、キーパーソンとの関係を築くことで意思決定権者とのリレーションを得ることができます。 それにより、パートナー企業や事業に関する情報・データを新たに入手できるため、経営プロセスの全体的な透明性を高めることができます。このように、現地 の事業環境や社会環境について理解するための文化的配慮が必要です。

人的リレーションは築きつつ、JV契約締結の際は、外資系企業は詳細な 契約条項を作成し明文化すべきです。そして、契約履行をモニタリングするプロセスが含まれていることを確認する必要があります。このような対策を講じるこ とで、JV会社設立後のトラブルを回避することができます。

 

■インドビジネス環境に関するリスク
事業を設立する際、外資系企業がまず念頭に置くべきことは、インドのビジネス社会において賄賂や汚職は慣例となっているということです。企業は現状の政府の汚職の状況や政府の許認可プロセスにおける不透明性について認識しておくことが必要です。外資系企業が、賄賂・汚職で摘発された場合、米国のFCPA(連邦海外腐敗行為防止法)又はUK Bribery Act (英国贈収賄防止法)が適用される可能性があるため留意が必要です。

このため、外資系企業はインドでの商習慣をよく理解し、トラブルの要因又はリスクとなりうる要因を認識しておくことが大切です。

【対応策】
インドで事業を進める上で何らかの賄賂に対応する局面があります。インド進出においては、こうした習慣があることを認識し、適切なコ ンプライアンスのフレームワークを構築してリスクに対処することが必要です。外資系企業は本社の要件をふまえた社内決裁と内部統制プロセスを構築することにより、贈収賄に対する包括的なモニタリングを実施できるように備えることが望まれます。例えば、事業許認可や不動産所有権などの取得プロセスをモニタリ ングすることにより、事業の透明性の向上が期待できます。

また、すべての承認や支払に関して根拠資料を作成することにより、FCPA(連邦海外腐敗行為防止法)を始めとする世界の贈収賄防止規制への違反の疑いで調査を受けることになった場合に備えることができます。

頻繁に変更される法規制に適時に対応するためには、現地の法規制に精通する外部専門家を利用することで違反のリスクを防止するとともに、新たな規制に備えることも可能となります。

ベンダー選定プロセスにおいては癒着が発生しやすいと言えます。外資系企業は包括的なデューデリジェンスを実施し、明確かつ透明性のある選定プロセスおよび 購買プロセスを構築することをインド側のパートナーと合意することが必要です。これに加え、外資系企業は、違反防止のために強固なモニタリングプロセスを 導入し、自社のコンプライアンス・ポリシーを適用することでリスクを低減すべきです。

 

■人材管理リスク
多くの外資系企業にとって現地従業員の高い離職率は大きな課題です。高学歴で高度なスキルを持つ人材は機会があれば頻繁に職場を移ります。そのような高い能力を持つ人材は外資系大企業に就職し、トレーニングを受け、スキルアップして、より高い報酬を求めて他社へ転職していきます。さらに、インドの企業文化の性質上、実績と待遇を紐づける評価システムを導入していない企業が多く、有能な人材であっても管理職に就けないケースもあります。また、デロイトのリスク調査によると、文化的差異を乗り越えコミュニケーションをとることが最も難しいという結果が出ています。出身階級による待遇の差別や、直接的な対立を避ける傾向など、インド人特有の根強い文化的ルールが日常のコミュニケーションをさらに困難なものにしています。

会社の方針やルールの欠如は、業務の品質を下げる要因になりかねません。従業員向けに実施する研修は、単発的に実施していては短期的な効果しか得られないため、定期的かつ継続的に実施する必要があります。

高度なスキルを持つ人材を確保できるかどうかは地域によって違いがありますが、一般的に言ってブルーカラーの労働者は日系企業を含む外資系企業が求めている品質の製品を製造できるだけのスキルを十分に持ち合わせていない場合が多いのが現状です。

 

【対応策】
有能で高度なスキルを持つインド人従業員を引き止めるために、企業は新しいスキームを考える必要があります。インド人はタイトルにこ だわる傾向にあるため、離職率を抑える目的で組織内の役職レベルを増やし、管理職レベルの役職をより多くの従業員に与えることにした企業もあります。この ような方策は、インドにおける会社への定着率増加の成功例として挙げられます。

また、同業他社の平均以上の給与と福利厚生待遇を有能な社員に与えることも成功例として挙げられています。

知名度の高い外資系企業にはより長期間従業員が留まっています。一方で、知名度が低い企業は離職率増加を防ぐためにより工夫を凝らしたスキームを策定する必要に迫られています。

 

 

■外資系企業が直面するその他のリスク


中国市場にすでに進出している企業がその経験を活かしてインドで事業を始めようとすると、2つの国の違いに驚かれるでしょう。インドは第二の中国ではありません。企業は中国進出で得た経験と知識がどのようにインド進出に役立つかを考え直さなければなりません。JV契約締結の際には、事前にJV解消に関する条項を規定しておかないと、JV会社設立後に何らかの理由で契約解消や事業撤退の手続きを進めることが難しくなります。

インドにおける複雑なビジネス環境により、外資系企業はパートナー候補に対する包括的なデューデリジェンスをなかなか実施できず、客観的な判断を下すことができないことがあります。さらに、インド側パートナーにとって交渉は現在進行形なものであるため、契約が締結した後も、契約条項は絶対的なものではないと解釈する傾向にあることがJVの成功を困難にしています。

デロイトのリスク調査によると、法規制が複雑でかつ頻繁に変更されるため、外資系企業は法規制の遵守に苦戦しているという結果が出ています。税務・財務報告は法規制の遵守を実践するにあたって、法規制に次ぐ重要課題です。しかしながら、こうした状況を打開するための正確なデータや情報を入手することも困難な状況です。

さらに、インドでは意思決定はトップダウンでおこなわれる場合が多く、欧米諸国ほどではないものの、一般的にはボトムアップで意思決定がなされることが多い日本企業とは異なります。

外資系企業にとっての最重要化課題は、インド法規制遵守である。

 

 

事業進出における課題有効な解決策


 ■JV事業に伴うリスク

リスクはJV事業の各フェーズによって異なります。

フェーズ1‒市場進出
リスクはJV事業の各フェーズによって異なります。フェーズ1の事業進出段階においては、外資系企業とJVパートナーの間で事業目的が一致しない可能性があります。JVパートナー候補を選定した後においても、JV契約交渉のための鍵となる基準と条件を確立しなければなりません。契約には正確な市場情報と徹底的な分析に基づいた事業計画を含める必要があります。

さらに、インドの法制度はまだ確立されておらず、訴訟になった場合、非常に時間がかかります。したがって、JV解消時または事業撤退時に発生しうるリスクを軽減するために、事業撤退時を意識したJV契約を締結する必要があります。

フェーズ2‒事業設立
フェーズ2の事業設立段階においては、ガバナンス体制の設計や、インドと本国両方の関連法規に準拠した効率的なプロセスの設計を行うにあたって、インドビジネス環境におけるリスクに直面するでしょう。ガバナンス体制および関連プロセス設計の失敗により企業の内部統制の有効性が損なわれ、結果的に不正行為を誘引する恐れがあります。したがって、誤った取引や不正行為を摘発するリスクマネジメント活動により、そうしたリスクを低減しなければなりません。リスクマネジメント活動の一環として、業務プロセスは内外の法令遵守に必要な条件に応える内部統制を組み込む必要があります。

フェーズ3‒事業展開
フェーズ3の事業展開段階におけるリスクは、フェーズ1・2と性質が異なります。フェーズ3は企業の成長段階であり、ここでは法規制の遵守、財務、オペレーション全てを健全な状態に保たなければなりません。外資系企業・JV会社の高い離職率を考えると、誠実性や内部統制のレベルが保持されているか確認するためのモニタリングを継続的に実施しなければなりません。

フェーズ4‒事業撤退
フェーズ4の事業撤退段階では、外資系企業が事業撤退を決断するという最悪の事態に備えます。撤退コストを軽減するために、事業撤退の選択肢をJV契約に含めなければなりません。スムーズな撤退プロセスは損失を軽減し、自社の持分の売却に欠かせない資産評価も迅速に進められます。

 

■試練を克服するために
JV会社として事業を行なう上で考慮すべきポイント

・財務諸表の妥当性を実証するためにインドのJVパートナーと専門家からフィードバックを得る
・資源の活用と保持
グローバル化が進む現在、労働力、資本、技術的資源へのアクセスは、規模の経済を達成目標とする現代企業の機動力となっています。クロスボーダー案件はますます厳しい環境におかれている中で、最善の策として買収またはJV契約を締結することにより研究費や製造コストの削減を図る

能力と専門性の共有
JV提携関係にある企業同士が補完的なスキルまたは能力を持っている、または違う業界での経験がある場合、シナジー効果が期待できます。JVの基本信条は、双方の合意の基、お互いの専門知識および能力を共有することです。

負債の共有
JVは新規事業に伴うリスクをJV当事者同士で共同管理する機会を提供します。JV契約を通じ負債をパートナーと共有することで、個々のリスクを低減することができます。負債とリスクを共有することで各パートナーに対するプレッシャーも軽減されます。

事業の多様化
新規市場に進出する過程で、戦略的投資家とJV提携することにより、外資系企業は現地パートナーを通じてインフラ設備の提供を受けたり、現地の知見を深めることができます。しかし、将来的には、JV会社の業務を自社に統合することを視野に入れると良いでしょう。外資系企業は現地市場に自らのオペレーションを確立することができ、現地パートナーは事業のスムーズな売却ができるので、どちらにとっても有益な方法といえます。

 

 

今後に向けて


■外資系企業がインド市場へ進出する際のヒント
・複雑なインド経済や文化的な違いを考えると、事業進出を考える投資家は、意思決定をする前に時間をかけて徹底的な市場調査を実施する必要があります。
・重要な課題については細部にわたって確認することです。例として挙げられるのが、パートナー候補者が賄賂や汚職に関与していないか、財務的な問題がないかについての確認です。インド市場での機会を有効活用するために、資源に限りがある企業であってもJV形態による市場進出が可能です。事前にデューデリジェンスを実施することで、パートナーが抱える課題を認識することができます。
・他の新興市場での経験が必ずしもインド市場進出に活かされるとは限りません。したがって、デューデリジェンスや重要な意思決定をする際は、正確で客観的なデータと情報の提供を受けられるよう、現地の有能な専門家を確保しておく必要があります。
・同業他社でインド事業進出に成功した企業から学ぶことも重要です。

デロイトが2012年に行なったリスク調査によると、調査対象企業のほぼ40%がJVで成功するために最も重要な要因として、役割と責任についてパートナー間で明確にすることを挙げています。また、25%の企業が、JVにおけるパートナーシップを成功に導くためには以下の分野を強化すべきだと回答しました:

・業務の品質を向上させるために必従業員の離職を防ぎ、要な人事管理およびトレーニングの実施
・ガバナンスと財務
・定期的な監査と継続的な財務状況
・業務プロセスのモニタリングを含む積極的なリスクマネジメント
・ガバナンスおよびコンプライアンスの強化

これらの点は、事業展開する上でのハードルを乗り越え、ビジネスチャンスをつかんだ北米、ヨーロッパ、日本企業の教訓です。

 

※本稿および資料は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありま せん。また、本稿および資料の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するため には、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本稿の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、 適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

 

【執筆者】
Sumit Makhija
Senior Director Deloitte Touche Tohmatsu India Pvt., Ltd.
Forensic and Dispute Services, New Delhi
sumitmakhija@deloitte.com

 

【協力者】
梅村 久美子
パートナー
有限責任監査法人トーマツ
エンタープライズリスクサービス
kumiko.umemura@tohmatsu.co.jp

梅山 裕子
シニアマネジャー
有限責任監査法人トーマツ
エンタープライズリスクサービス
yuko.umeyama@tohmatsu.co.jp

 

【本稿に対するお問い合わせ】
有限責任監査法人トーマツ 
東京 〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-3-1新東京ビル
Tel:03-6213-1112
URL www.tohmatsu.com

デロイト トーマツ  リスクサービス株式会社 
本社〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-3-1新東京ビル
Tel:03-6213-1300

 

 

Appendix‒オンラインリスク調査のまとめ