経団連はこのほど「企業の事業活動の継続性強化に向けた報告書」をまとめ、災害時においても企業が事業活動を続けるために、企業と行政の双方に求められる取り組みを、具体的な先進事例を用いて示した。

経団連では昨年3月5日に、東日本大震災を受けて浮き彫りとなった多数の課題を示した提言「災害に強い経済社会の構築に向けて」をまとめているが、その後、アンケート調査や先進的な企業などへのヒアリングを重ねてきた。

報告書では、企業に求められる取り組みとして、①経営層の果たすべき役割、②BCPの実効的運用体制の確立、③組織の枠を超えた事業継続体制の構築の3項目、また行政に求められる取り組みとして④経済社会の強靭化、⑤企業・経済界の取り組みに対する支援の2項目の計5項目を挙げ、それぞれについて課題と先進的事例を解説している。

①の経営層の果たすべき役割としては、経営層のリーダーシップと発災時における限りある経営資源の有効活用を課題として取り挙げた。その上で、リーダーシップについては全社防災委員会を設け、全社的な防災活動を行っている例や、事業継続推進会議を設置し、トップの意識を正しく伝えるとともに各部署の進歩状況を定期的に検証している企業の実例を紹介した。経営資源の有効活用については、業務に優先順位を設けたり、「現実的に出社可能な社員」という限られた人員でBCPの構築を目指している取り組みなどが挙げられている。

②のBCPの実効的運用体制の確立については報告書が最も重視している項目である。経団連が行ったアンケートではBCPを「策定済みである」と回答した企業は7割を超えたものの、それが確実に実行できないという問題が浮かび上がった。報告書ではBCPを策定するための前提として社内外コミュニケーションの必要性を訴えている。先進事例としてはテレビ電話会議システムの構築、社内イントラネットでの災害時掲示板の設置、最先端ICT技術の活用などを挙げた。

③の組織の枠を超えた事業継続体制の構築では、一企業の脆弱性が社会全体の脆弱性につながりかねない問題に対処する手段を提示し、グループ企業やサプライチェーン間、地域等との連携が求められるとした。先進例として、汎用化された商品を業界内で緊急時に出荷できるようにしたり、共同利用できる施設を定めておく、共通のガイドラインを策定しておく取り組みを紹介した。

一方、行政に求められる取り組みについては、④の経済社会の強靭化を達成する手段に関してⅠ社会の体制強化、Ⅱ社会インフラの強靭化、Ⅲ経済社会の強靭化に資する法整備の3点が必要とした。なかでもⅠ社会の体制強化のための取り組みは非常に多岐に及んでいる。社会機能維持体制の構築のため、エネルギーの確保の重要性を掲げ、政府主導の優先供給体制を構築することを求めた。また公共データの二次利用可能な形での提供(オープン・データ)の早期実施が必要とし、民間のノウハウやアイデアを積極的に活用すべきであるとしている。このほか各府省のBCPに整合性がない点を問題点とし、事業継続性強化のため早急に「国家全体」としてのBCP策定が必要としている。

Ⅱ社会インフラの強靭化については学校など民間企業が保有する公的施設については、公費補助等のインセンティブ措置が求められるとした。

Ⅲ経済社会の強靭化に資する法整備については、災害発生時の規制等の一時緩和や弾力的運用を行うための法整備を行うべきとし、自治体と企業が一体となって対策に乗り出す姿勢を求めた。

⑤の企業・経済界の取り組みに対する支援に関しては、内閣府を中心としたBCPのガイドラインの策定・公表がされているものの、さらなる認知が必要とし、現行のガイドラインの改正にあたるべきだとした。単なる「計画策定」にとどまらずに、「マネジメント」の観点による取り組みを促すべきだとした。

 

以下、報告書から企業に求められる取り組みで紹介している先進事例を紹介する。

 

【先進事例A】経営層の意識向上に向けた取組み


○全社的な防災・減災活動を推進するべく、全社防災委員会を設置している。また、同委員会において、世界中で発生した他社災害事例の点検等を実施している。

○社長をトップとした事業継続推進会議体を設置し、トップの意識を正しく伝えるとともに、各部署の事業継続性強化に向けた取組みの進捗状況を定期的に検証している。

○事業継続性強化に向けた取組みを徹底するため、自社幹部と国内グループ会社社長を対象とした、事業継続に関する研修・訓練を実施している。

○クライシスマネジメントの機能強化に関し、経営の指示を受けて各種施策を遂行しており、四半期ごとに経営のレビューを受けている。

 

【先進事例B】経営資源の有効活用


○業務に優先順位をつけ、災害時に中断する業務の要員を災害対応要員に割り当てるなど、全社が一丸となって重要業務に集中する体制を構築している。

○職場の近隣に居住する「現実的に出社可能な社員」という限られた要員での業務遂行を前提としたBCPの構築を目指している。その際、日常業務の簡素化・スリム化、多能工化を通じたバックアップ人材の育成などに取り組んでいる。

○意思決定者である社長と連絡がとれない場合に備え、副社長以下、第5順位まで代行権限者を定め、多重の通信手段を確保している。

○平時より、本社主導による中央集権的な組織とせず、できる限りの権限を現場レベルに移譲している。

 

【先進事例C】就業時間外の災害発生に向けた取組み


○夜間は宿直人員、休日は日直者を配備し、要員が不足する場合、周辺居住者の出勤、支店単位での要員確保などの体制を整備している。

○多くの従業員が居住する、集合住宅の1つを暫定的な拠点として、緊急対策本部の設置に向けた初動対応を行うこととしている。

○首都直下地震の発生に際し、災害対策本部の設置場所および本部長の権限を、本社以外の拠点(関西等)に移すことを定めている。

○実際に夜間・休日の時間帯に、事業活動の復旧、継続に係る訓練を実施している。

○災害対策本部の要員参集が困難な状況を想定し、社外でも活用可能な電話会議やチャット等を利用することとしている。

 

 

【先進事例D】社内コミュニケーションの充実に向けた取組み


○災害対策本部やバックアップオフィスなどの主要拠点において、テレビ会議システムを利用して、コミュニケーションをとる体制を確立している。

○社内イントラネット内に災害専用掲示板等を設置するなどして、全社的な災害関連情報の共有、情報伝達の迅速化、情報の一元管理を図っている。

○社内イントラにおいて、経営メッセージの発信、安否確認に係る情報、被災状況の情報発信、被災地からの支援要請等を実施している。

○災害発生時のコミュニケーションツールとして活用する、テレビ会議、MCA(マルチ・チャネル・アクセス)無線を用いた訓練を実施している。

○モバイルPC、携帯情報端末、安否確認システム等を活用して、全社員と直接コミュニケーションがとれる体制を整備している。

 

【先進事例E】社外のステークホルダーとのコミュニケーション


○BCPにおいて社外広報の項目を規定し、災害発生時における投資家向け想定問答集を作成しており、それに基づいた対応を行うこととしている。

○災害発生時におけるマスコミ対応方針、情報提供ガイドライン、同アクションプラン、開示・プレスリリース文例等をあらかじめ策定している。

○災害対策本部に広報部署を配置し、迅速に情報開示する体制を構築している。

○地震の規模(大・中・小)に応じた、標準的な情報発信のタイミングを定めている。

○ウェブサイトのトップページに災害関連情報を掲載することとしている。また、当該担当者には複数名を配置し、社外からの処理も可能としている。

○グローバルへの情報発信は、海外現地法人の役員が行うことを検討している。

○社員だけでなく顧客も対象とした、安否確認システムを導入している。

 

【先進事例F】災害に強い通信手段等の確保


○通信ネットワークの途絶を想定し、主要拠点に衛星ネットワークを構築済。また、海外アクセスポイントを活用した電話会議システムを構築している。

○社外からアクセス可能となる、リモートアクセスシステムを導入している。

○本社、バックアップオフィスを含む主要拠点、役員、災害対策本部要員等に対し、衛星携帯電話、災害時優先携帯電話、タブレット型端末等を配備している。

○自営無線や社内専用回線の設置、通信回線の多重化等に取り組んでいる。

○全社員にスマートフォン等の携帯情報端末を配布し、社内回線として利用している。また、パケット通信網を用いた音声通話アプリケーションを導入している。

○重要データ等のバックアップに関し、データセンターの活用、施設の地域分散(海外を含む)等を行っている。

○小型の店舗等において、蓄電池の設置を進めている。

 

【先進事例G】最先端ICT技術活用事例


○安否確認システム、メールサービス、災害関連情報掲示板等に関し、クラウドサービスを活用している。

○災害関連情報の共有化にあたり、Facebook、Twitter等のSNSを活用している。

○災害後の業務支援の観点から、シンクライアントシステムを導入している。

○地図情報を活用し、安否確認システムにおいて、社員の被災時点の所在地から出社先(最寄りの事業所等)を割り当てるシステムを構築している。

○クラウド型の緊急情報共有システムを全グループ内の主要拠点に設置している。同システムを通じて、災害対策本部のメンバーや連絡先等を共有し、被災状況等の確認にも活用している。

○自社が保有・管理する施設等の被災状況等を一括で管理するシステムを構築しており、従業員等は社外でも、携帯電話等を用いて被災に係る情報を登録することが可能である。

○平時のコスト軽減や事業継続性強化の観点から、グループウェアにおいてSaaS(Software as a Service)型システムを活用している。

 

【先進事例H】現場力の向上に向けた取ri組み


○実践的な訓練の実施を目的として、訓練当日まで、参加者に訓練内容を開示しない「ブラインド訓練」を実施している。

○災害が発生した際、社員が被災して負傷することを想定し、避難訓練とあわせて、救護訓練も実施している。

○外出時や在宅時の行動など、集合訓練で実施できない事項に関し、WEBによるシミュレーション訓練を実施している。

○全従業員を対象としたe-learning等による継続的な防災教育に取り組んでいる。

○習熟度や職位等に応じた、レベル別の各種教育訓練プログラムを実施している。

○東日本大震災の教訓等を風化させないため、復旧・復興に係る取り組みを記録し、全社員が共有できるよう、社内イントラネット上に掲載している。

○自職場における自然災害リスクに関し、メンバーが主体的に検討する「防災ミーティング」の実施を検討している。

○携帯用の緊急連絡カードを複数の言語で作成し、社員と家族に配布している。

○災害発生時等における個人の判断材料とするべく、自治体の定める地域防災計画と自社の定める防災計画の関連性を全社員にあらかじめ周知している。

 

【先進事例I】企業内・グル―プ内の連携強化に向けた取り組み


○非被災拠点に災害対策本部を設置し、被災拠点に現地対策本部を設置することとしている。非被災拠点は支援要員の編成、物資の確保等を実施し、現地対策本部は道路網等を含む被災状況に係る情報提供を行うこととしている。

○被災地域や拠点の被災状況に応じて、災害対策本部の設置場所を柔軟に変更できるような計画を策定している。

○自社開発のシステムを用いた、被災拠点の工程進捗や部材納品情報等の照合により、不足する部材・量、必要な要員が把握できる仕組みを構築している。

○重要業務に関し、東西への地域分散や複線化に取り組んでいる。

○発災直後に自社の復旧対応チームと顧客の事業継続支援チームが立ち上がり、それぞれが収集・集約した情報を共有して対策を実施する体制を構築している。

○グループ会社間で本社機能の代替提供、拠点の相互運用を取り決めている。

○国内グループ会社において、同一の安否確認システムを導入し、情報の一元管理に努めている。

 

【先進事例J】業界内の連携強化に向けた取り組み


○品質設計が汎用化された商品に関し、同業他社による代替生産が可能であるため、業界内で緊急時の交換出荷やOEMを実施している。

○災害発生時における代替生産拠点を確保するため、地方自治体が同業他社間の相互応援を支援するネットワークに参画している。

○石油業界では、業界団体を中心に業界内の連携体制を構築し、災害発生時において、業界内の情報共有、行政からの要請への対応、施設の共同利用、輸送協力、被災地等への物資供給等を行うこととしている。

○石油業界では、業界団体において、平時より災害時に共同利用する可能性がある施設をリスト化し、業界内で共有している。

○ガス業界では、工事用材料等に関し、業界内で仕様の統一に取り組んでいる。

○ガス業界では、業界団体の主導により、加盟事業者間で「相互支援協定」を締結し、製品・サービスの安定供給に懸念が生じた際の事業者間の応援態勢を構築している。

○銀行業界では、業界団体が、有事の際、サービスの提供が失われる空白地域を確認するとともに、加盟企業の防災・減災対策の準備状況の確認を行っている。

○銀行業界では、業界内の合同訓練を実施し、企業単体の訓練では得られない気づきを同業他社との比較等を通じて、得ることができている。

○損害保険業界では、業界団体が、会員会社の顧客との契約データを一部共有している。くわえて、地震保険の支払いを迅速に履行するための処理計画を定め、災害発生時に合同対策本部を設置し、履行基準の統一、共同照会センターの設置等を行うこととしている。

○複数の業界で、業界団体を通じて、業界内で復旧に必要な要員・資機材を相互に融通する体制を構築している。被災事業者は、業界団体に対し支援要請を行うこととしている。

○複数の業界で、業界団体が、加盟事業者向けの事業継続に関するガイドラインを策定している。

 

【先進事例K】サプライチェーンの連携強化に向けた取組み


○主要取引先に対し、災害発生時の生産体制維持・確立を要請するとともに、平時より共同で防災に係る勉強会などを開催し、連携強化を図っている。

○BCPの実効性向上に向けて、部品の供給元のみならず、冶工具や重機、検査剤などの供給元とも連携して、災害時対応を図っている。

○1次、2次以降のサプライヤーリストやマップの作成による「見える化」を推進し、代替調達先の確保、調達先の多様化、調達品の在庫量の見直し等を実施している。

○調達先との緊急時連絡体制を整備するとともに、調達先の協力会社(2次、3次調達先)の情報をデータベースとして整備している。

○重要製品のサプライチェーンのうち、特に影響の大きい取引先に対し、一体となってBCPの策定やリスク低減対策を実施する予定である。

○取引先に対する事業継続マネジメントに関するアンケート調査を通じて、事業継続能力を評価するとともに、取引先の事業継続性強化を支援している。

○BCPの実効性検証のため、サプライチェーンベースの机上訓練を実施している。

○取引先のBCP策定に向けた、情報交換会や勉強会を実施している。

○取引先に対して、衛星携帯電話の導入を推奨し、災害時に通信手段が途絶することがないような環境整備に取り組んでいる。

○取引先との間で、BCPコンセプト、被害想定、優先生産製品、支援・受援のルール等の共有化を図っている。

○サプライチェーンを構成する複数の業界で、業界団体を中心とした連絡体制を構築し、業界を超えた連携による対策の実施、共通認識の醸成等に努めている。

 

【先進事例L】地域・行政との連携強化に向けた取り組み


○自社が所在する駅周辺の企業等を中心に「防災隣組」を組成し、平時から関係者間の情報共有、地域への普及啓発等を行っている。災害発生時には、情報連絡本部を立ち上げ、災害関連情報の収集・提供に努めることとしている。

○近隣地域の自治会と災害時協力協定を締結し、合同で訓練を実施している。

○社宅、寮、研修施設等の厚生施設を、地域の避難者向けに提供している。

○本社が所在する自治体との間で、帰宅困難者に対する支援や津波避難場所の提供に関する協定を締結している。

○災害発生時の地域の重要施設への円滑な商品・サービスの提供のため、業界団体と自治体との間で、当該施設等の情報共有に関する協定を締結している。

○業界団体と自治体との間で、製品の優先提供に関する協定を締結している。

○自社の従業員以外の帰宅困難者等に対する、一時滞在施設の提供に関する協定を締結している。

○自治体が主催する帰宅困難者対策協議会に参加し、帰宅困難者対策のあり方や帰宅困難者受け入れ時の運用方法を協議している。