リスクマネジメント最前線より

 

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、未曾有の甚大な被害をもたらし、その結果、国や地方公共団体の災害対策のあり方に大きな転換を迫ることとなった。災害対策の見直しの中で、法制上の対応が必要な課題も浮かび上がったが、それらの課題に対応するための「第2弾」の法改正として、「災害対策基本法等の一部を改正する法律案」(以下、「本改正法案」という。)が4月12日に閣議決定された。本稿では、災害対策基本法の基本的な枠組みを確認しつつ、東日本大震災と災害対策法制の見直しの方向性、本改正法案の概要、本改正法案が企業の防災対策に与える影響について記述する。

 

1.災害対策基本法の枠組み


災害対策基本法は、1959年の伊勢湾台風を契機として、1960年に制定された法律である。国民の生命、身体及び財産を災害から保護することにより、社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的としており、災害対策の体系、防災行政の計画等を定める災害関連法制の基本法である。具体的には、以下の表1に示すような事項を定めている。

 

2.東日本大震災と災害対策法制の見直し


東日本大震災を踏まえた災害対策の見直しの検討は、中央防災会議の下に設置された専門調査会である「防災対策推進検討会議」(以下「検討会議」という。)で進められた。具体的には、同会議において、東日本大震災における政府の対応の検証結果やその教訓の総括、首都直下地震や東海・東南海・南海地震といった大規模災害等への備えの視点から、防災対策の充実・強化について検討された。2012年3月に中間報告、同年7月に最終報告が出されたが、報告内容に沿って災害対策を見直すためには法制上の対応が必要なものも存在した。

このうち、以下のような緊急を要するものについては、同年6月に公布・施行された災害対策基本法の改正(「第1弾」)で対処された。
・大規模広域な災害に対する即応力の強化
(災害発生時の情報収集等の強化、地方公共団体間の応援体制の強化(対象業務拡充など)等)
・大規模広域な災害時における被災者対応の改善
(被災住民の受入れ(広域避難)に関する調整規定の創設等)
・教訓伝承、防災教育の強化や多様な主体の参画による地域の防災力の向上
(災害への備えにかかる自助努力などの住民の責務に、災害教訓の伝承を明記等)

その一方で、国民の権利義務に関するもの、費用負担も含めた国の役割のあり方に関わるものなど、検討に時間を要する課題については、追って対応すると整理された。残された課題のうち、復興の枠組みの整備にかかる事項については、別途新たな法律案(「大規模災害からの復興に関する法律案」:本法改正法案と同日に閣議決定)が作成されたが、それ以外については、本改正法案で対処された。

 

3.本改正法案の概要


本改正法案の内容は、内閣府の整理にしたがっても小項目で15(「その他」に分類されているものを除く)あり、多岐にわたっているため、主な項目についてポイントを絞って説明する。(本改正法案の全体像については、表2を参照されたい。)

(1)国による災害応急対策の代行制度
東日本大震災における被害は、甚大かつ広域に及び、被災した地方公共団体の中には行政機能が麻痺し、必要な災害対応を実施することが困難となるケースも見られた。このため、災害の発生によって、市町村や当該市町村の存する都道府県が全部又は大部分の業務を行うことができなくなった場合に、国が、本来は市町村長が行うとされている応急措置(救助、救援活動の妨げとなる障害物の除去等の特に急を要する措置)を代行する仕組みが創設された。

(2)避難行動要支援者の名簿の作成義務
災害時には、高齢者や障がい者などのうち自力で避難ができない者(以下、「避難行動要支援者」という。)に対して行政による支援を行うことが求められるため、行政の支援の対象となる者を把握するための名簿の作成が必要との声があった。その一方で、個人情報保護法制との関係で地方公共団体の対応がなかなか進まないとの指摘もなされていた。このため、本改正法案により、避難行動要支援者の名簿の作成が市町村長に義務付けられるとともに、名簿の作成に際し個人情報の目的外利用を行うことが可能となった。また、市町村長は、本人の同意を得た上で、消防、警察、民生委員等に名簿情報を提供することとなった。

(3)「減災」の考え方等の基本理念の制定
検討会議最終報告においては、例えば、「減災」について、『災害の発生を防ぎきることは不可能で「ある』との基本認識に立ち、災害対策のあらゆる分野で、予防対策、応急対策、復旧・復興対策等の一連の取組を通じてできるだけ被害の最小化を図る「減災」の考え方を徹底」する必要があるとされるなど、災害対策法制の基本法において、防災の基本理念をあらためて明確化すべきであるという考えが示された。このため、本改正法案では、目的規定及び用語定義規定の次に新たな条項(第二条の二)を設け、以下のような災害対策の基本理念が定められた。

【災害対策基本法に位置付けられた基本理念の要点】
・災害の発生を常に想定すること、災害が発生した場合の被害の最小化と迅速な回復
・国、地方公共団体等の適切な役割分担と相互の連携協力の確保、住民一人一人の防災活動や多様な主体が自発的に行う防災活動の促進
・災害に備えるための措置の一体的実施と科学的知見及び過去の災害からの教訓を踏まえた改善
・災害の状況把握と人材、物資等の適切な配分による人命及び身体の優先的な保護
・被災者の事情を踏まえた適切な被災者の援護
・災害発生時における速やかな復旧、復興等

(4)災害応急対策等に関する事業者の事業活動の継続についての努力義務
災害時における行政の責任は大きいものの、行政だけによる対応には限界があるのも事実である。検討会議最終報告においては、企業の能力や保有資源の活用、企業が担う社会的機能の維持等が災害時には必要であることから、災害時に企業の果たすべき役割や責務について、法的位置付けを検討する必要があるとされた。このため、本改正法案においては、企業等の事業者(災害応急対策又は災害復旧に必要な物資若しくは資材又は役務の供給又は提供を業とする者)(※1)に対して、災害時における事業活動の継続と国や地方公共団体が実施する防災に関する施策に協力するよう努めなければならないとする努力義務規定が創設された。

 

※1 自治体と災害協定を締結しているコンビニ、食品メーカー、建設業団体などが典型例であるが、災害応急対策や災害復旧に関連する事業を営む企業は広く含まれるとの考え方に立っている。

4.本改正法案が企業の防災対策に与える影響


本改正法案では、災害緊急事態(※2)において国民に協力することを要求(重要な物資をみだりに購入しないなど)できる規定が盛り込まれたものの、企業の防災関連の活動を新たに直接的に規制するような規定は創設されてはいない。しかしながら、3.(4)で記したとおり、災害応急対策等に関する事業者については、前述の基本理念にのっとり、災害時において事業活動を継続する責務を有することが災害対策法制の中に位置づけられた。また、国や地方公共団体が災害対策関連の施策を実施する上で配慮すべき事項として、新たに民間の事業者等の協力の確保に関する協定の締結も盛り込まれた。

これまでの説明で明らかなように、東日本大震災を踏まえて政府の災害対策の考え方は大きく変化した。このため、今後本改正法案が成立すれば、災害発生時には、官民が連携し、必要な資源の大量・集中投入を行う必要があるとの観点から、行政は、企業に対して、災害時の応急対策や災害からの復旧・復興のために必要な対応について、積極的に依頼していく方向にさらに舵を切っていくと言っても過言ではない。

政府が主導する災害に強くしなやかな国づくりに向けた動きに対してあらかじめ備えておくとすれば、BCP(事業継続計画)をまだ策定していない企業については、その策定作業を進めることを通じ、事業継続の取組みの第一歩を踏み出すことが必要である。また、BCPをすでに策定済みの企業については、訓練やBCPの見直しなどBCM(事業継続マネジメント)の高度化を図ることが求められている。

 

※2 非常災害が発生し、かつ、当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合において、当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときは、内閣総理大臣は、閣議にかけて、関係地域の全部または一部について災害緊急事態の布告を発することができるとされている(災害対策基本法第105条)布告を発した後は、。政令を制定すれば、生活必需物資の譲渡制限等も可能であるとされているが、これまで布告された事例はない。

               〔2013年5月27日発行〕

 

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転載元:東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 リスクマネジメント最前線2013 No.24
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社