損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント株式会社 西條聖史

 

レジリエンス・ポイント
1.現在、日本政府において、「ナショナル・レジリエンス懇談会」という国家全体のリスクマネジメントの取り組みが行われている。
2.ナショナル・レジリエンスの範囲は多岐にわたるが、巨大地震を想定することで、多くの範囲がカバーされる。
3.効果は①防災・減災効果・②デフレ脱却効果・③産業競争力の強化効果である。
4.①は将来起こりうる災害の被害を最小限に食い止める効果を持つことである。
5.②は積極的な金融緩和のもとで財政政策をとることにより、デフレを脱却する効果が発現されることである。
6.③は政府のリスクマネジメント力を高めることで、産業競争力が高まる可能性がある。


 

1.はじめに
2013年3月13日産業競争力懇談会から「レジリエントエコノミーの構築」に関する最終報告が提示された。本報告における提言として、「National Resilienceの持続的向上に資する国の危機管理の総合司令塔の設置(国の産業競争力が「Growth」「Resilience」で評価される時代の制度イノベーション)」があげられている。

今般、上記提言に対応すると考えられる取り組みの一つとして、内閣官房・国土強靭化推進室が事務局となり行っている「ナショナル・レジリエンス懇談会」を紹介したい。

本レポートにおいては、最初に政府のリスクマネジメントの取り組みとして、本懇談会の概要について説明する。次に、その効果であるリスクマネジメントの取り組みと経済成長の関係性にスコープを当てて説明する。

 

2.ナショナル・レジリエンス懇談会とは
ナショナル・レジリエンス懇談会は「救国のレジリエンス」で有名な藤井聡内閣官房参与・京都大教授が座長となり、2013年3月から開催されている。本懇談会の委員は防災、財政金融、国土、情報、エネルギー、地方行政など幅広い分野の有識者で構成されている。

本懇談会は国民の生命と財産を守り抜くために、事前防災・減災の考え方に基づき、強くてしなやかな国をつくるためのレジリエンス(強靭化)に関する総合的な施策の推進のあり方について意見を聞くことを目的としており、言い換えると巨大地震等の様々な災害を見据えながら「ナショナル・レジリエンス」を確保するために、何をどのようにすべきなのかを議論する場と言える。

本懇談会において、日本をとりまく国家的危機として、首都直下地震、南海トラフ地震等の巨大地震、笹子トンネル崩壊などに見られるインフラや民間施設の老朽化、ギリシャ危機、韓国経済危機等にみられる世界恐慌、ホルムズ海峡の封鎖危機等にみられるエネルギー危機等があげられている。このようにナショナル・レジリエンスの対象は多岐にわたるが、被害の甚大さを鑑みると巨大地震に対する「レジリエンス」を確保することは、ナショナル・レジリエンスの多くの部分が含まれることとなる。このイメージは図1をごらんいただきたい。


これらの数々の危機を乗り越えられる「強靭性」(レジリエンス)を「オールジャパン」で身につけるための国家的なプロジェクトが国土強靭化であって、国家を強靭にすることで、結果日本に「安寧」と「成長」がもたらされるとされている。そして、議論における留意点として、マクロな視野・協力の論理・統治の論理・危機管理の思想・迅速回復の視座が不可欠であり、過剰な「効率化」(短期利益の追求)は全体の脆弱化をもたらし、「強靭化」を見据えたときにはじめて、安定的な成長が可能となるといわれている。

現段階においては、「国土強靱化の推進に関する関係府省庁連絡会議」において、各省庁に対しリスクの洗い出しといった脆弱性の評価を依頼している。そして各省庁の施策にその対策を織り込むアンブレラ方式をとる計画を策定する段取りとなっている。藤井座長は脆弱性評価について、「例えば、人が身体の悪いところを調べるために、人間ドックに入り、病気になりそうなところを改善するように、日本全体を医療機器のMRI(磁気共鳴画像装置)に入れると言える」と説明されている。(建設通信新聞4月1日)

本取り組みは「全国総合開発計画をほうふつとさせる」といった意見も一部あるが、本懇談会におけるアプローチを見ると、本懇親会は開発計画というよりも、国家のリスクマネジメントというアプローチで議論されていると筆者は考える。企業のリスクマネジメントにおいて、最初にリスクを洗い出し、対策を検討しその対策を計画的に実行していくプロセス(PDCAサイクル)をとるが、まさに同様のプロセスを国家単位で実施しているものである。したがって、目的は国家のリスク管理であって、その手段としてたとえば、首都機能のバックアップ・分散化の計画がある点に留意すべきと考える。目的と手段を逆に取り違えないことが大切と筆者は考える。

 

3.政府のリスクマネジメントの効果について
本懇談会の議論においては、政府のリスクマネジメントの効果について、リスク発現時における被害軽減・回避効果のみならず経済成長について言及されている。本懇談会において、レジリエンスを強化することは以下の三つの効果があるといわれている。
①防災・減災効果
②デフレ脱却効果
③産業競争力の強化効果
以下、上記の三つの効果について、本懇談会の議論に触れつつ筆者なりの解釈を説明したい。

3.1 防災・減災効果
2013年3月の内閣府・南海トラフ巨大地震の被害想定(第二次報告)において、資産等の被害額が最大約170兆円、生産・サービス低下による被害額が最大約45兆円と試算されている。一方で、この報告では防災・減災対策を推進することによる被害軽減効果として、建物の耐震化率の向上・出火防止対策等の施策をとることで、資産等の被害額は約170兆円から約80兆円と半減することや、上記施策に加え、津波避難の迅速化や家具などの転倒・落下防止対策等を行うことで、生産・サービス低下による被害額が約45兆円から約32兆円と3割程度減尐することが試算されている。

3.2 デフレ脱却効果
現在、日本は15年間デフレに苦しんでいるといわれている。デフレに対する効果的な処方箋のヒントは1929年世界大恐慌にあるものと考える。歴史を紐解くと、1930年代における日本の高橋是清財政・アメリカにおけるニューディール政策に見られるように、積極的な金融・財政政策はデフレ脱却効果をもたらすと考えられる。言い換えると、積極的な金融緩和の元で、財政政策である強靭化プロジェクトを推進することで内需が拡大し、デフレ脱却となり、結果として経済成長につながると考えられる。一方で、積極財政による「経済破綻」を恐れ、緊縮財政を推進する考え方もある。しかしながら、緊縮財政の唯一の論理的根拠となっているロゴフ=ラインハート論文は本年4月に「集計表のコーディングミス」という不備が指摘され、緊縮財政は論理的根拠を失ったものと考えられる。デフレに苦しんでいる現状を打破するうえでは、積極的な金融・財政政策が有効であるものと考える。本議論に関しては、5月2日参議院予算委員会公聴会公述人上念司氏の説明をご覧頂きたい。

3.3 産業競争力の強化効果
本懇談会における議論では、有事における危機対応力の向上はもちろんのこと、平時においては生産性・競争力の向上を図り、良質な社会インフラは平時の経済成長を導き、多様な連携がイノベーションを導くといわれている。実際に、平時においても大小さまざまなリスクは存在し、すべてに対処できた企業・産業だけが生産性を挙げ、競争力をつけることができると言われている。

この議論は、世界経済フォーラム(ダボス会議)や産業競争力懇談会においても行われている。世界経済フォーラム(ダボス会議)において、レジリエンスを携えた国家・地域・企業だけが、成長の恩恵にあずかることができるという提言がなされている。図2は世界経済フォーラム(ダボス会議)グローバル・リスク2013「グローバル・リスクに対する国家的レジリエンスの構築」における政府のリスクマネジメント力と国際競争力の関係を表した図表である。


同報告書において、政府のリスクマネジメント力と国際競争力は正の相関があることを示している。一方、唯一の例外として、日本は比較的高い国際競争力を持ちつつも、政府のリスクマネジメント力は低いと評価され、政府のリスクマネジメント力を高めることは、更なる国際競争力向上をもたらすことが示唆される。

産業競争力懇談会「レジリエントエコノミー」によると、「東日本大震災以降、各企業は、レジリエンスの強化を企業競争力の根源として位置付け、事業継続力を強化するBCPの策定が進めている。」とされている。多くの企業において、BCPを策定する上で復旧目標はインフラ復旧が前提となっているが、インフラ復旧が早期にできれば企業の復旧が早まることから、政府のレジリエンス確保が企業のレジリエンス確保に繋がることは容易に想像できるものと筆者は考える。

 

4.最後に
筆者が考えるに、本懇談会の取り組みは、国家全体(政府・企業・個人)を包含したリスクマネジメントを目的とし、その手段として基礎インフラの整備・メンテナンスなどの財政出動があり、効果としてリスク対策と経済成長があるものと考えている。「誰かの支出が誰かの所得となっている」ことも考慮すると、政府のリスク管理の取り組みと経済成長はトレードオフの関係にあらず、政府のリスク管理の取り組みが前提となって経済成長があるものと考える。

本稿寄稿時(2013年5月13日)において、本懇談会は残り2回を予定しており、評価結果を踏まえ、5月末までに短期的対応と長期的方策を含めた「国土の強靱化(ナショナル・レジリエンス)に向けた当面の対応」をまとめる予定となっている。今後は、本結果を受け、ナショナル・レジリエンス懇談会の取り組みについて、筆者の意見を述べたい。

 

【執筆者プロフィール】
西條聖史
損保ジャパン日本興亜リスクマネジメントコンサルティング部所属主任コンサルタント
【略歴・実績等】
2003年一橋大学経済学部卒外資系生保、国内信託銀行(経営管理部門、システム企画・システム運用部門、BCP推進)を経て、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメントに入社。2012年中小企業診断士試験合格

 

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転載元 レジリエンス協会 会報 レジリエンス・ビュー 第7号
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