もうやめよう【地震発生⇒火災発生⇒避難訓練】

今回のテーマは震災対策訓練です。多くの企業や病院・施設などでは、防災訓練といえば「地震発生⇒火災発生⇒避難」を想定した訓練で、訓練内容も例年同様。参加者も限定されるなど、マンネリ化していませんか。今回は、齋藤塾流「実践的な震災対策訓練」のポイントを、すべて公開します。次回は、「災害関連死ゼロを目指して」です。

編集部注:この記事は「リスク対策.com」本誌2014年11月25日号(Vol.46)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年6月7日)

1 形骸化している防災訓練
日本では、地震や台風といった自然災害に見舞われることが多いことや、消防法に基づく行政や消防署からの指導もあり、ほとんどの企業や病院・施設などで防災訓練が行われています。 

これまでの訓練の多くは、「○時○分、□□で火災発生、消火班による消火不能、直ちに△△へ避難」となっており、自衛消防隊隊長の指揮のもと、消火班、避難誘導班、救護班など、それぞれの役割に応じた訓練を行ってきました。予定された時間に必ず責任者がいて、必要な指揮を執り、必要な資機材もあらかじめ用意され、各参加者は何分後に何を実施するか決められており、何分後に火災発生、初期消火、避難誘導など、あらかじめ定められたシナリオに沿った行動が行われています。 

このような訓練では、次のような問題点が指摘されます。

 

○参加者が固定化し、参加意識も低く、形骸化している

○訓練のねらいが不明瞭である

○訓練回数が少ない

○勤務時間中の訓練で、夜間帯での訓練をしていない

○訓練シナリオに沿って行動しているだけである

○電気、通信等が停止した想定の訓練はしていない

○訓練の実態とマニュアル等とが合っていない

○訓練で得られた教訓等の記録や、改善がされていない 

 

こうした「シナリオを読み上げる訓練」または「シナリオに沿った行動訓練」を繰り返し行っても、実際の災害にはあまり役に立ちません。災害は訓練で想定していた通りに発生するのではなく、想定しない事態が発生することが多いからです。

 

2 訓練目標を明確にする
貴重な時間を使って訓練をするのであれば、より実践的で、かつ実効性が上がるようにするために、参加者には細かなシナリオを与えず、想定外の事態にどう行動をすべきかを考えさせる必要があります。 

では、どのようにしたら実効ある訓練ができるのかというと、まずは「訓練目標を明確化」することです。 

訓練は、目的に応じていくつかの分類に分けられます。目的に沿って、具体的な訓練目標を立てることが重要です。 

担当者や組織への習熟訓練は、人事異動があるたびに繰り返し行うことが必要です。
①テスト BCPやマニュアルが、実際に動くのかどうかを検証する
②習熟研修 BCPやマニュアルに基づき、職員に習熟させる
③演習 被害状況を想定した訓練等を実施し、その対応等を検証する
④連携 関係機関が参加した連携訓練を実施し、連携等を検証する 

3 訓練計画書の策定
目標を決めたのち、訓練の日時、場所、内容を決め、参加対象者を誰にするのか、訓練方法(「図上」か「実働」か)などを決め、表1の訓練計画書を作成します。また、訓練対象部門の責任者及び関係機関の了承を得るようにするとともに、表2の参加者(訓練統括者、コントローラー、評価者、記録者など)も定めます。

なお、訓練計画書の作成は、訓練日の1~3カ月前に作成するなど、あらかじめスケジュールを決めます(表3参照)。

 

4 訓練の想定 
訓練を実施する前に、具体的に訓練想定を定めます。 

地域における地震の規模やライフラインの被害状況は、国や自治体が発表した被害想定を参考に、所在する施設の被害が最も大きい地震を想定します。地震発生時間は、最悪の事態を想定しておくことが重要です。企業では従業員や来客者がいて工場・設備が稼働している「勤務時間中の地震発生」を想定することを、お勧めしています。 

停電、ガス・上下水道停止、通信不通、交通機関停止などのライフライン状況や設備等の被害状況、職員の参集状況、従業員の負傷者の有無などについても、具体的に想定することが肝要です。 

負傷者を想定する場合、負傷個所、負傷の程度、歩行の有無、意識状況など、負傷者役が演技できるよう、きめ細かく定めることが重要です。

 

5 訓練プログラムの策定(シナリオなき訓練の勧め) 
訓練の実施に当たっては、訓練目標を達成するため、実施する訓練項目と訓練の流れを定め、次に、実施場所、訓練に要する時間、訓練参加者、使用する資機材を定めます。 

次に、訓練項目ごとに、参加者の役割分担、大まかな動きが分かるような訓練プログラムを作成します。その際、参加者の発言を記した詳細なシナリオは作成せず、訓練参加者に、自らどのような行動をとるかを考えてもらうことが重要です。 

シナリオがない訓練では、次から次と起こる想定外の事態に対し、参加者があわてふためいたり、どうしてよいか分からなかったりして、多くの課題が明らかになります。 実際の災害時における失敗は命取りになる可能性がありますが、訓練ではいくら失敗してもそれが後々役に立ちます。想定外の事態が起こった時にどのように行動したらいいのかを理解し、失敗しながら覚えていくことが大切です。多くの失敗例や問題点が明らかになる訓練が、良い訓練といえます。 

「訓練でできないことは、災害発生時にできない」ことを、十分理解しておいてください。

 

6 訓練実施上の留意事項
(1)関係機関との調整
訓練計画書ができたら、所管の消防署へ届けるとともに、必要な指導を受けるようにしてください。また、警察署や関係行政機関などに連絡し、必要な助言を受けるようにします。さらに、必要に応じ、近隣の町会や自治会、関連団体に連絡し、協力を得るようにします。

(2)通常業務の変更
訓練実施に伴い通常の業務を変更する場合、少なくとも1週間前までに従業員や関係者へ周知し、理解を得ます。

(3)訓練の中止
訓練当日が雨天や悪天候などの場合、いつの時点で、誰が訓練を中止・延期するかについても、あらかじめ決めておきます。

(4)訓練当日 
訓練統括者の進行により訓練を開始します。必要に応じて「訓練を中断」する場合や訓練終了時も、訓練統括者が指示します。 

訓練当日、実災害が発生した場合、または業務上重大な支障が生じた場合、訓練統括者の指示により、訓練を中断または中止します。 

訓練が終了したら、訓練統括者のもとで意見交換会(反省会)を開催し、訓練評価者による講評や訓練参加者の意見や感想を出し合うようにします。

(5)訓練終了後 
訓練終了後は速やかに訓練実施報告書を作成し、所管の消防署へ提出します。また、必要に応じ、警察署や関係行政機関、近隣の町会や自治会に報告します。 

さらに、訓練の成果に基づき、必要なBCPやマニュアルの改善を行います。 

なお、BCPやマニュアルへ反映のポイントは、次の通りです。

・手順書の記載にしたがって動けたか⇒記載内容の追加・修正
・臨機応変の対応をしたか⇒その手順を追加
・手順書の記載の順序が適切だったか⇒記載内容の修正
・手順書記載事項を省略したか⇒記載内容の削除

7 直ちにできる訓練 
あまりコストをかけずに直ちにできる訓練を、表4に示しましたので、参考にしてください。

8 これからの訓練

訓練計画作成等の事前準備に3割、訓練の実施に6割、訓練結果の評価や改善が1割の比率という企業が多いのではないでしょうか。 

 

これからは、この割合を、4割:3割:3割にしていくことで、実践的でかつ効果的な訓練が実現できると、確信しています。


 

【参考資料】
(参考1) 地震発生後、30分以内の行動の確認 
ビル内にある事務所で、勤務時間内に地震が発生したことを想定した訓練内容を考えてみます。建物構造や設備状況等により実施内容は異なるものの、地震発生後30分以内に実施すべき事項を例示すると、次の通りです。 

なお、こうした行動は、対策本部設置前に本部長の指示なしで行うものです。
①自らの安全確認
②お客様と同僚社員の安全確保
③負傷者への応急救護
④フロアごとのお客様と全社員の安否確認
⑤館内放送
⑥火災発生の有無の確認
⑦危険物の状況確認
⑧エレベータ内閉じ込めの有無の確認
⑨エレベータの使用禁止の措置
⑩電気、通信、上下水道が使用できるかどうかの確認
⑪トイレの使用中止の措置
⑫避難口、非常階段の使用状況の確認
⑬建物周囲の状況確認
⑭ラジオからの情報収集
⑮これらの状況を把握した上で、建物内の安全確認
⑯対策本部会議(建物の安全確認がされたので、建物内に留まる旨の指示)

 

(参考2)施設内防災マップと施設設備の点検訓練 
被害状況等を迅速に把握するため、施設内の「防災マップ」を作成します。作成にあたっては、火器の使用場所、危険物の設置個所等の危険個所は「赤」で、消火器、避難場所、備蓄倉庫、掲示板等の安全個所は「青」で表示します。 

また、地震直後に実施する施設設備等の点検や、非常階段や避難口、避難ルートの図示や、設備業者等の関係者の連絡先リストも作成します。 

施設設備の点検訓練は、点検者を複数定め定期的に実施し、点検の結果、不備があれば改善します。

 

(参考3)情報の収集と記録
地震発生直後から、対策本部には、安否情報や被害情報等が数多く上がってきます。これらの情報を、時系列にかつ緊急度に応じて整理することが重要で、情報収集と整理を担当する専門の班編成が必要です。 

また、収集した情報は、ホワイトボードに記録し、対策本部内で共有し、緊急対応が必要なものは「赤」で、一定の措置が講じられたものは、赤字を見え消しにして「青」で、その他の情報は「黒」で記載すると、一目で現況が分かります。さらに一定時間ごとにデジカメで記録し、時系列に整理しておきます。 

こうした情報収集・記録の実施方法をマニュアル化しておき、対策本部運営訓練に併せて訓練を実施することで、担当者の資質の向上に努めます。

 

(参考4)対策本部運営マニュアルの作成と訓練
対策本部会議の運営方法をあらかじめ決めておき、マニュアル化しておくことが重要です。マニュアルに記載する事項は次の通りです。
①本部室の設置場所と使用できない場合の代替場所
②本部会議に必要な資機材(例:机、イス、パソコン、電話、コピー機、用紙類、筆記具、ラジオ、懐中電灯、メガホン、ホワイトボード、従業員名簿、関係者業者リスト、対応マニュアル、各種報告様式類等)
③資機材の設置場所と準備担当者
④本部会議の招集時期、招集者とその代行者
⑤本部長とその代行者⑥本部員とその代行者
⑦第1回会議での報告事項と決定事項
⑧本部会議の記録者
⑨本部会議での決定事項の伝達方法 

本部会議運営訓練を実施する場合、本部長や本部要員は、執務室で勤務中に地震が発生したら、まず自らの安全を確認し、次にお客様や周辺の同僚社員の安全を確保したうえで、本部室に集合します。その際、エレベータは使用しません。 

なお、対策本部会議は、概ね10分程度で終了する訓練も必要です。

(了)

 

 

参考資料
拙書「想定外を想定する危機管理」
東京都社会福祉協議会「高齢者福祉施設におけるBCP訓練ガイドライン」