御岳にかかるオリオン座

南の空にオリオン座やシリウスが見えるようになってきて、冬にむかって季節は動いていますね!

星は正確に移っていきますが、みなさんの防寒対策は順調ですか?この時期、アウトドア的には全く防寒がなってないなあと思う人に遭遇する率が高く思えます(笑)。

前回、防風のことを書きましたが、これは、相変わらずご存知ない方が多いようです。残念!

■『風の強い日にフリースをアウターに着るのは間違い?!水と空気と風をコントロール。アウトドア流着こなし術を身に着けよう!』(2016年10月5日付記事)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2071

今回はインナーと水をコントロールするお話。インナーは外からはわからないですが、例えば雨の日でもジーンスはいている人が多いのを見ると、水の知恵はまだまだ理解されていないのだなと感じます。

ジーンズの多くはコットンです。水に濡れると保水します。保水すると液体を気体に変える際に熱を奪う気化熱という現象が起きるので、体温が低下します。人間は恒温動物であるため、体温が維持できず低体温症になると命を落とすこともあります。着替えが用意できない山や災害時、濡れることが命を奪うこともある、これにつてはレインウエアの記事で書きました。

■『災害時も役立つレインウェアを普段使いに「寝るな、寝ると死ぬぞ!」は間違い?』(2016年6月5日付記事)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1839

雨の日にジーンズをはいて濡れると、乾かず濡れた状態を維持してしまいます。普段の生活ではやりすごせますが、これが山だったり、暖房が使えない災害時だと命を落とす事につながります。でも、保水しない素材を雨の日に使っていただければ普段から寒くない生活を手に入れられます。

アウトドアの世界では、「保水させない」「濡れない」という事を、アウターだけではなくインナーでも徹底させます。「でも」というより、インナー「こそ」最重要といえるほどです。

アウトドアではインナーこそ重要。山登りにはコットンのインナーは着ないということを知ってますか?


山登りにはコットンの下着を着ないということを、どれだけの人がご存知でしょうか?山では常識中の常識ですが、防災講座では知らなかったと答える方がほとんどです。

もちろんアウトドアの世界でも最初から常識だった訳ではありません。年代ははっきりしないものの、すでに戦前の段階で、経験値として、冬山にはウールのほうがいいと知られていた形跡はあります。

八甲田雪中行軍遭難事件(1902年 明治35年)

雪中行軍時、将兵の装備は、特務曹長(准士官)以上が「毛糸の外套1着」「毛糸の軍帽」「ネル生地の冬軍服」「軍手1足」「長脚型軍靴」「長靴型雪沓」、下士卒が「毛糸の外套2着重ね着」「フェルト地の普通軍帽」「小倉生地の普通軍服」「軍手1足」「短脚型軍靴」と、冬山登山の防寒に対応しているとは言い難い装備であった。とくに下士官兵卒の防寒装備に至っては、毛糸の外套2枚を渡されただけである。

https://ja.wikipedia.org/wiki/八甲田雪中行軍遭難事件 より引用


ウールがあたたかい事については意識されていたようですが、アウターの防水(現在では透湿防水)は全く考えられていなかったのですね。

ただ、なぜコットンだと体温が下がるのか。どんな下着だったらよいかが分析されるようになったのはもっと後になります。

1935年にデュポン社がナイロンを開発しました。1950年に人類がヒマラヤ山脈にある8000m級のアンナプルナを初登頂した際、フランス隊がこのナイロンの衣類を着ていたことが話題になりました。

そして、1960年にはいっての遭難事故あたりから、コットンの下着を着ている人が遭難死していることが注目されはじめ、1972年55人の登山者中24人が死亡・行方不明となった富士山大量遭難死事件の初期報道で、大半の人がコットンの下着だったので遭難したと報道されました。

もっとも、この遭難は、気象が主原因の遭難と分析されており、下着がウールの人でも亡くなくなっていました。そのため、現在では初期報道は正しくなかったと考えられていますが、誤報とはいえ、下着に警鐘を鳴らすことにはなり、ベテラン登山者たちは下着に気をつかうようになったと言われています。

<参考文献>
「新補版 山岳遭難の教訓」(岳書房/出海栄三著/1990年から引用)

「しかし、当時、新聞で誤報されたように「大半」のあるいは「ほとんど」の登山者が木綿の下着だったから、疲労凍死したと断定できる事実はない。表1(あんどうりす注 亡くなった方の装備が表になったもの)をご覧いただければ、そのことははっきり証明できるからである」
富士山大量遭難死事件 (1972(昭和47)年3月20日)

日本山岳史上、一般の登山者による最大の大量遭難が、それも日本のシンボル富士山で 起きた。


その日山陰沖で、午前3時頃から台風並みに急速に発達した低気圧が、 日本海を北東方向に進み、この低気圧に向かって強い南風が吹き込むという典型的な“春一 番”が全国的に吹き荒れた。特に富士山では19日夜半から横殴りの冷たい雨が降り、翌日 も前夜からの雨が降り止まず、午後になると風速31~35m/秒の猛烈な風雨となり、瞬間 風速50m/秒という突風が吹いたという。

そのため雨に対する装備がほとんど無 かった遭難者の濡れた身体の体感温度は、マイナス30~40度になったと推定され、体力を 急速に奪われた。

遭難した静岡頂山山岳会の9人は、ビバーク(野宿)していたが 防水の装備がなかったためびしょ濡れになり、朝方下山したが、激しい雨に打たれ7人が睡 眠不足と疲労で凍死した。

清水勤労者山岳会の11人は、風雨の合間を見て単独登山者とと もに下山したが、午後になり強い風雨のため7人が衰弱して死亡、5人が雪崩に襲われてば らばらになり1人がようやく御殿場署にたどり着いた。そのほか6人が行方不明となったが 雪崩による死亡と断定されている。当時55人が登山中でそのうち半数近い24人が死亡・行 方不明となった。

(防災情報新聞無料版より引用)
http://www.bosaijoho.jp/reading/item_6192.html


また、1989年 立山中高年登山者遭難事件では、10名中8名が死亡し、助かった2人が、革製登山靴に透湿防水素材の雨具、ウールの手袋に対し、亡くなった8人は、綿のズボンやビニール雨具だったため、登山の場合の衣類の重要性が再認識されることになりました。

<参考文献>
「ドキュメント 気象遭難」(ヤマケイ文庫/ 羽根田治著から引用)

「個人装備については、革製の登山靴を履いている者、布製の軽登山靴を履いている者、ニッカーズボンの者、綿のズボンの者、透湿性防水素材の雨具を持っている者、ビニールの雨具で間に合わせた者など、それぞれバラバラであった。その装備の差が、結果的に明暗を分ける一因にもなった。」


とはいえ一般の方はといえば、2003年に講演をはじめた当初は下着といえば「コットン」。それ以外ありえないという風潮でした。化学繊維は汗を吸わないと信じていた人も多かったです。

すでにアウトドア界では、ポリエステルであっても、汗を吸い取り、毛細管現象によって拡散させ、汗を外に排出できる吸乾拡散素材が一般的になっていたのですが、一般の方のコットン以外を着る風潮が広がったのは、ファストファッションの機能性インナーが発売されたあたりではないでしょうか?

■JCFA(日本化学繊維協会)ホームページ
「よくわかる化学せんい」吸乾拡散素材など、化学繊維の機能について
http://www.jcfa.gr.jp/fiber/topics/vol02.html

機能性インナーの下にコットンを着ている人が54%も!


で、ついに一般にも広がったと思っていたのですが、2014年12月26日マイナビ記事でコメントする際、衝撃的な事を教えていただきました。機能性インナーの中にコットンを着ている人が54%いるそうです・・・。(小学生ならここで絶対「ちーん」って言いそう)

コットンを下に着て汗をかくと保水してしまうので、上に何を着ても、暖かくなりませんよー。

■『綿肌着の上にヒートテック、その重ね着では意味がない!? 
機能性インナーの効果を最大限に引き出すコツ』(2014年12月26日付マイナビニュース)
http://news.livedoor.com/article/detail/9619592/

「マイナビニュース」記事を参考に著者作成

製品名だけ覚えて、これを着ると暖かいという発想だけでは、こんな風に間違ってしまうのではないでしょうか?なぜ寒くないのか仕組みをわかっていないとせっかく持っていても役にたっていないですよね。

逆に、アウトドアの下着にコットンは着ないというと「コットンはよくない!」みたいに理解されてしまうのも不本意です。夏は涼しくて気持ちのよい素材です。肌さわりもよいです。でも保水するので、冬に濡れたら着替えてほしいだけなのです。

着替えられないアウトドアや災害時に、そして普段から寒がりな人ならば、汗を吸うけど保水しない他の素材も試してほしい。そういうことなのです。

伸びるシルクやちくちくしないウールも登場。体感して、自分に合ったインナーを探してみよう!


機能性インナーは石油製品なので、もっと自然素材がいいという方は、シルクとウールの機能も知っておいてください。

シルクはコットンの1.5倍の汗を吸って放出します。ですが、肌の水分量以上は保水しないので、体を冷やさないのです。絹が着物として日本で愛用されていたのは、高温多湿な気候に一番あっていたからかもしれませんね。

タンパク質の構造も皮膚と似ているため、アレルギーを起こしにくい素材とも言われています。伸びない、洗濯による劣化が早いという欠点があるため、ポリウレタンを入れてのびる機能をもたせたシルクもあります。授乳服や妊婦さんの大きくなるお腹に対応したシルクのインナーもあるくらいです。

シルクのインナー。左は授乳やマタニティ時期にも着ることができるポリウレタン10% 入りの伸びるシルク(※サンプル品としてメーカーからお借りしているものです)

ウールは天然の元祖発熱素材という事は、あまり知られていないように思います。なんとなくあったかいと思われていたウールは、水分を吸うと保水しないばかりか、発熱までしていたのですね。だから、最近よく見かけるあったかインナーとか発熱素材と言われるものは、このウールの繊維の構造を化学繊維で再現しています。生物模倣のバイオミメティクスってことですよね。

でも、そんなに昔から信頼されていたウールがなぜ、コットンよりも活用されていなかったかというと、チクチクしたからなのです。ウールの繊維のでこぼこが、肌にあたって痛かったわけですが、最近はこのでこぼこをカットする技術がありますので、さらさらすべすべなウールなんていうのも出てきています。

そして、かつての遭難事故を調べていると、「ラクダシャツ」とか「ラクダのウール」という言葉がでてきて、キャメル素材だったのか、ウールをラクダ色に染めたものなのか、記述からはよくわからなかったりするのですが、ともかく、ウールといえば「ラクダ色」とか、単色ってイメージの方も少なくないようです。

でも、ウール、色もデザインも豊富ですよ♪花柄とかストライプとか。さらっとしているので、見た瞬間にウールだとはわからないです。ウールには消臭作用もありますし、5年以上使っているなんて人もいるくらい長持ちします。インナーにしては初期投資が高いですが、山素材としても最新の技術がつぎ込まれているので、いままでのインナーに満足できない人は試してみるといいかもしれません。

見た目ウールに見えない?ウール素材のインナー

その他、アウトドアのウエアは更に進化していて、インナーの中に着る撥水素材の服で、まったく濡れた感じがしないものもでてきていて、選ぶのに困るくらいです。

インナーについて、いろんな製品をカタログ的に紹介するのもいいのかなと思ったのですが、そうすると、製品名だけで選んで仕組みを理解しないまま使われてしまってもなあ・・と思い、文章メインにしてみました。

ネットでなんでも調べられたり、おすすめ商品が書かれてますが、着心地のよさは、自分で触って体感してみてほしいです。

体感を信じていないのかなと思ったケースは、冬にコットンの5本指ソックスを履いている方の感想でした。「寒いと感じていたけど、暖かいと言われているから暖かいはずと思って使っていました。やっぱり寒かったんですね」と。

みなさん、カタログを信じて気合いで頑張りすぎかも(笑)。コットン素材だから汗で保水してしまうし、指の間すべて保水してしまって冷え続けるし、そもそも、熱源である指と指がくっついているほうが、離しているよりあったかいのです。手袋は5本指より、ミトンのほうがあったかいです。体感も、もっと信じてほしいです!

インナーの素材の性能を理解して、自然の状況にあわせて、自然を感じて、自在に素材を選べるようになっていれば、きっと普段も災害時も寒くないですよ!

(了)