井上社長は「オクレンジャー」を使いやすく、伝わりやすい安否確認にすることに注力したことを語った

大手システムメーカーや通信、IT、警備会社など様々な企業が参入し、百花繚乱の様相を呈しているのが、災害時に従業員の無事を調べる安否確認システムだ。数多くある安否確認システムの中でユニークなルーツを持つ株式会社パスカルの「オクレンジャー」が、使いやすさで支持を集めている。

学校の連絡網から発展

「オクレンジャー開発で最も気を配ったのは操作性。見ただけで誰でも簡単に操作できるよう、シンプルで見やすいデザインにしました。表示される言葉もわかりやすさと伝わりやすさを追求し、厳選した」と語るのは、株式会社パスカル代表取締役社長・井上隆氏。従業員数100人ほどの長野県発の企業、パスカルが開発した安否確認システム「オクレンジャー」がユニークなのは、システムのベースが学校向けに開発した連絡網に由来するからだ。ひと昔前までは、生徒自宅の電話番号を数珠つなぎにし、学校からの連絡事項を保護者から保護者へ伝えていた連絡網だが、時代が進むとメールを一斉配信する方法が加わった。また、スマートフォンが登場すると連絡にアプリを使うところも増えてきた。

「コミュニケーションツールで社会の役に立ちたい」と考えていたパスカルでも連絡網アプリを開発。幅広い年齢層の学校関係者や保護者が快適に使えるようにと、力を注いだのが操作性の向上だったのだ。単語1つの表記にも熱心に議論を重ね、マニュアルを見ずに使えるアプリを目指した。

学校にパスカルの連絡網アプリが導入され、便利で信頼できると評価されると、教員の転勤先の学校や保護者の勤務先での導入が広がっていった。このアプリが評価されたのには、もう1つの理由がある。操作性の良さに加え、アプリの利用に厳重管理が求められる電話番号やメールアドレスの登録の必要がなかったからだ。同社は学校や保護者が電話番号やメールアドレスに直接タッチせずに管理できる連絡網アプリに仕上げたのだ。

安否確認のオクレンジャーもこの延長線上にある。操作性を最優先に考えられている。そして従業員がプライベートで使っている電話番号やメールアドレスの登録を必要としない。災害時の連絡手段を二重に確保するためメールアドレスも登録できるが、管理者はその個人情報にアクセスできない仕組みになっている。オクレンジャーが災害時の安否確認アプリとして何よりも優れている理由は、メッセージの未着を同社開発の特許技術を使って防いでいるところにある。

高梨氏はユーザーに未着の情報が ないようにする工夫を語った

新製品開発部次長の高梨健一氏は「一般的なアプリに使われている情報伝達方法はプッシュ通知と呼ばれ、情報はサーバーからアプリへ一方的に流れるだけ。

この方法の弱点は、一時的にでも通信が途切れたときに流れた情報がアプリに届かないままになる点がある。しかし、弊社のシステムならアプリが定期的にサーバーにアクセスし、スマートフォンに未着の情報がないか確認しているので、情報伝達の『漏れ』を防ぐ。

システムとしてはメールソフトに近いが、個人情報でもあるプライベートのメールアドレスに直接タッチする必要がない」と説明する。

掲示板機能で被害を把握

オクレンジャーは2006年の販売開始からこれまでに約2400団体、90万を超える多くのユーザーに利用されてきた。同社にはときに感謝の声が届く。2018年6月の大阪北部地震で震度6弱の揺れで製造拠点が被災したある企業は、オクレンジャーの掲示板機能が非常に役に立ったと伝えてくれたという。

その製造拠点では従業員の安否確認はオクレンジャーで地震発生から30分ほどで完了。安否確認と同時活用したのがオクレンジャーの掲示板機能だった。首都圏にある本社への被災状況を報告するため、破損箇所などをスマートフォンで撮影。そのままオクレンジャーの掲示版に文字情報とともに写真を掲載して本社に伝えた。おかげで本社では被害状況を素早く把握でき、いち早く復旧に乗り出せた。写真も含めた正確な被害情報をHPでスピーディに開示したところ、ガバナンスが評価され、より信頼されるようになったという。

サプライチェーン全体の情報共有にも「オクレンジャー」は有効だとする藤巻氏

また、ひとつの企業の枠を超えて、企業間で連携する先進的なBCP対策にオクレンジャーを採用している企業もある。「豊田自動織機では、取引されているサプライチェーン企業の被害状況の確認にオクレンジャーが使われている」と総務部部長の藤巻一敏氏は話す。

サプライチェーンの寸断は地震のたびにクローズアップされる問題だ。

例えば、製造業なら自社の工場が被災エリア外で問題なく稼働できるのに原料の仕入れや部品の調達で取引のある企業が被災すると、製品の製造そのものを停止しなければならない。

同社では災害対策として、復旧の第一歩である被害状況の把握にオクレンジャーを採用。発災時のより早い事業再開に備えている。また、150を超える全国のイオンモールでも、モール運営事務所とテナントとの間でリスク情報をはじめとした情報共有のために、オクレンジャーが利用されている。

オクレンジャーはメッセージを受け取る側だけでなく管理側にも見やすく、使いやすい仕様になっている。送信するメッセージのテンプレートが用意され、英語版も料金追加なしで備えている。必要に応じて内容変更もでき、全く新しいメッセージの作成も可能だ。メッセージの未読・既読の確認から返答の集計、グラフ化にまで対応している。管理システムの閲覧権限は担当部門のみなどと細かく設定できる。

システムは堅牢に運用されている。サーバーは海外2カ所、国内1カ所に設置され、国内で南海トラフ地震のような大地震が起こっても問題なく稼働する。災害時には行き交うデータの増大で通信回線は停滞しがちになるが、その対策に震度5弱以上の地震が発生したときには送受信のデータを最小限に抑える仕組みを備え、確実な情報伝達をサポートする。

写真を拡大 パスカルでは安否確認に関する特許も取得している

メンタルヘルスチェックも可能

スマートフォンのGPS機能を生かし、特定の場所から最大半径100kmまでの任意エリアを設定し、エリア内の従業員だけにメッセージを送ることもできる。プライバシーに配慮し、GPS情報は従業員が同意して提示したときのみ管理者側に提供され、常に追跡されることはない。

オクレンジャーの集計機能を生かしたオプションとして2018年から提供を開始したのが、メンタルヘルス対策のストレスチェックだ。2015年度から50人以上の事業者の実施が義務づけられた。57項目の質問からなるチェックをオクレンジャーアプリ内で実施できる。回答結果もすぐに確認でき、管理者が行う集計にも連動。労働基準監督署への提出フォーマットでの印刷もできる。

パスカルでは今後も人の役に立つ商品開発に努める

パスカルの井上社長は「当社は、基本理念である『人と人のコミュニケーションを原点に考え行動する』にこだわっている。オクレンジャーもその想いが結実した1つ。今後も人の役に立つ商品をリリースする予定としている」と締めくくった。

(了)