現役消防士により、実践現場的なマインドで開発された「ドールハウス」(Small Scale Fire Behavior Prop Demonstration(出典:Youtube))

消防士にとって火災防御の基本は、火・空気・煙をコントロールすること。開口部1つの破壊で、逃げ遅れた要救助者の命が失われる原因になることもあります。

「どのような建物火災で、どこが火点で、どこの開口部を空けると火と煙がどこに行くのか。バックドラフトやフラッシュオーバーのタイミングなど、火災防御活動全般のコンセプトを学ぶには、難しい本を読んだり大学の授業を聞くよりも実際に模型で試してみた方がわかりやすい」という消防士らしい実践現場的なマインドで作成されたのが「ドールハウス」です。

ドールハウスの開発者は、コネチカット州スタンフォード消防局のキャプテン、マット・パルマー氏。このドールハウスの設計図や動画、作成手順、指導方法まで、無償で提供しています。素晴らしいですよね!

マット・パルマー氏のホームページのスクリーンショット http://modernfirebehavior.com/new-style-dollhouse-w-plans-by-matt-palmer-and-pj-norwood/ Matt Palmer Captain, Stamford (CT) Fire Department Director of Training , Cheshire (CT) Fire Department

今では全米の消防学校の初任課教養や消防団、消防所署での火災防御訓練時のほか、小学校等で行う火災予防教室や企業の自衛消防隊訓練などで使用されています。基本的な火災のコンセプト(煙の怖さや火災特性)を教えたり、各種燃料やガス、危険物、各種化学薬品、毒物、劇物を使っての爆発燃焼火災等の現場対応訓練にも応用して使われています。



Small Scale Fire Behavior Prop Demonstration(出典:Youtube)

※このドールハウスを使って指導するとき、説明者のサポートを行う補助者(消防士2名)は空気呼吸器とフル装備で行うことが前提となっています。理由は、どのような可燃物を燃やすときにも煙を吸わないという健康管理が最優先されています。

Deputy Chief PJ Norwood demonstrating flow paths with this training prop.(出典:Youtube)

■Stop Believing Start Knowing
http://www.stopbelievingstartknowing.com/

■Stop Believing Start Lnowing FBページ
https://www.facebook.com/StopBelievingStartKnowing/


Doll House fire behavior, Birmingham Fire and Rescue(出典:Youtube)

このドールハウスの作り方は下記に設計図がありますが、すべてインチですので、センチメートルに置き換えて使うか、またはインチの巻き尺等を使う必要があります。なお、この設計図は無償で配布されていますが、商品化して販売するには開発者の許可が必要ですので、ご注意下さい。

■ドールハウス設計図
http://www.stopbelievingstartknowing.com/assets/sbsk-website-dollhouse-plans.pdf
http://www.stopbelievingstartknowing.com/assets/smokehouse-revised.pdf

なお、このドールハウスを作る段階で、チェンソー、のこぎり、ドリルやパワーツールの習熟訓練にもなり、パネル工場で商品検定に合格しなかった、廃材などを入手し、利用して作ることも可能です。


Lakeland College ETC - doll house fire demo(出典:Youtube)

Youtube.comで「doll house fire training」を検索すると、さまざまな教え方があり、使い方があることがわかりますが、長くても10分くらいで、わかりやすく教えるのがコツだと思います。

下記に教え方の手順や準備に必要なもの、シナリオの設定方法がありますが、現在、日本語に翻訳中ですので、後日、完成次第、ご紹介いたします。

■ドールハウスの教え方の手順や準備に必要なもの、シナリオの設定方法等
http://www.stopbelievingstartknowing.com/assets/sbsk-website-dollhouse-plans.pdf 

基本的には下記のような手順で火災・火点・煙・空気・開口部・ドアコントロールなど、火災防御や人命検索、延焼防止などのそれぞれの関係について具体的に学びます、アメリカのほとんどの消防学校では、ドールハウスを使ったコンセプトをしっかりと学んだ後、訓練等を使った実際の火災防御訓練に入ります。

1、火災防御コンセプトトレーニングセッション準備要領(概略)
準備するもの:新聞紙、松や杉などの安い木ぎれ、着火トーチ、微量の燃料(サラダオイル等安価なもの)。なお、ドールハウスを作成したときの合板を燃やすと接着剤の成分により、有毒ガスを発生するため風向きに注意。

①すべての窓(内側の開口部を含む)を閉じて、火煙から隔離し、屋根部分の2つのスライドドアも閉じた状態にしておく。

②左下1番の窓内にわらや新聞紙など着火しやすいものと木片に火を付け、微量の着火燃料等で、火災防御の説明をするのに十分な火炎と煙を発生させる。

着火するときから説明を開始し、季節に応じた火災事情などを話したり、最近起こった火災事例など、参加者に身近な話題を提供して興味を引きつける。

なお、新聞紙や木片は最初に使い切らず、十分に準備しておくこと。
2、煙の色、速度、密度および圧力のデモと説明
①左下のたき火が十分に着火したら、1番の窓の開口部を制御し、火がゆっくりと成長するようにする調整する。窓を開閉して、単に空気を排除して火を消す方法を示し、窒息消火のコンセプトを教える。


②1番のたき火が勢いよく燃え始めたら、1番の窓を90%閉じます。これは、開口部での「煙の吹き出し」および「呼吸」の実証を可能にするためです。1番の窓を30%、50%、70%などの割合で開閉し、流入する酸素の量に基づいて煙の量と発火量の違いを説明する。

③箱の外側の煙を消すためにトーチの試みを利用する。この時点で、煙は燃焼してはならず、燃焼を持続させてはならない
3、煙は燃焼ガスとして、火の燃料になることの説明
① 発泡スチロールのフォームカップを1番の窓に入れます。


②煙の色、速度、密度および圧力を火の燃焼ペースを見ながら、火煙の状態の変化に応じてタイミング良く、説明します。

③この時点から、各窓内の区画を異なる割合と時間で開閉し火煙の調整をする必要があります。時にはただ一つの区画を他の区画から隔離したり、また、複数の窓内部の開口部を全開したり、閉じたりします。

④各内側開口部の蓋をゆっくりと開閉し、また、外側の4つの窓を異なる時間と異なる開口割合で開閉し、煙の色や濃度の違いと理由、延焼速度と空気(酸素)との関係、要救助者の居場所によって、開口部を開ける優先順位が違うこと、また、開口部の大きさ、ドアコントロールによる空気の流入調整により、内部進入した隊員の安全なども教えます。

⑤各開口部の開閉をパターンを変えて行うことで、より多くの発火作用が生成されますが、一度に燃やしてしまわないようにドールハウスの燃焼実験を管理するには時間と練習が必要です。

⑥補助者はドールハウスが講習終了前に燃え尽きてしまわないようにスプレーボトルなどで水を拭きかけたり、説明している以外の処に吹き出してくる火煙を消したり制御する必要があります。

⑦講習時間にもよりますが、最後はドールハウスを箱を燃やしてしまいますが、最低でも下記のことを教えて下さい。

・ベントポイント点火:開口部から吹き出す煙に含まれる可燃性ガスにトーチで着火し、煙は燃料であることを見せる。

・換気誘導:開口部の割合や開口部を開ける場所によって、火煙が延焼ルートを変えたり、色の違う煙がどこからどこに流れるかを教える。考えもせず、適当に開口部を開けては危険であることと、開口部を開ける優先順位を教えることで人命検索し、救助する際、内部活動隊員に有利なように火煙をコントロールする。

・バックドラフトとフラッシュオーバー:どちらも軽く起こすことで、大規模な爆発燃焼を起こさないこと、開口部の予防開放の重要性を教える。

・ニュートラルプレーン(中性帯):煙の重さと上方へ動く水蒸気の行方等、火煙のバランスを見せる。バリエーションは多い。

・単方向および双方向の火煙フロー:一つの開口部の開放、二つ目の開口部の開放など、各窓や屋根を順番に開閉して、火煙の流れを見せる。

・慣れないうちは、ドールハウスを使った火災実験や避難誘導方法、火災防御ためのコンセプトを教えるために燃やしながら教えるのは難しいと思いますので、まずは、燃えていない状態で配分した時間内に何を説明するかシナリオを決めます。

・シナリオに応じて補助者が行うサポートのタイミングと必要な道具、配置、説明位置なども風向き等に応じて決めておきます。

・補助者は、説明者の内容に応じて、デモンストレーション中に燃料と水の入ったスプレーボトルを使用して、左下の区画の周りに火を燃やしたり、ボックスの外側に吹き出す火を消す必要があります。

・左下のコンパートメント(窓枠2番)の背面と側面等外面に水を塗布することも良い考えです。忍耐と実践を持って練習してください。一度、タイミングとコツを掴むととてもわかりやすい訓練になります。

⑧屋根部分の開口部についての説明

・屋根など建物上部の開口部を一つずつ、開けたときの煙の量、速度、密度、煙の色を見せます。


・屋根部分の開口部を開放したときの火煙の中立面の同定と排煙目的で一度に早く開口部を開けると大量の空気が流入し、開口部が大きすぎると火煙が急激に増すことも見せる。

・換気により冷たい空気が一度に内部へ流入することで起こる縦穴方向の火煙の燃焼と煙の流動変化を見せる。

・全ての通気口を閉鎖し、可燃性ガスの濃度を高めて、バックドラフトを起こし、ドアコントロールの重要性とタイミング、コツ、内部進入隊員をバックドラフトによる爆発燃焼から守る方法などを教える。

・可燃性ガスが発生する理由と爆発限界に達する前に故意に燃やしたり、開口部から排出させて可燃性ガスの濃度を低くする方法も教える。薄く吹き出す煙の可燃性ガスに着火トーチで火を付けるとわかりやすい。

・受講対象者によって話す内容は異なります。また、講習場所や雨等の気象条件で、外でのドールハウスによるデモンストレーションが難しい場合は、ビデオを準備しておいて、室内で教えることも考えておきます。


以上、簡略的ですが概要です。詳細は現在翻訳中です。

いかがでしたか?

ドールハウスによるデモンストレーションの目的は、火煙の行動とその消火戦術との関係を指摘しながら、皆で議論することです。一方的な説明では、説明者の自己満足に終わってしまい、受講者にとっては退屈で、非常につまらない時間を過ごすことになってしまいます。

教えるのでは無く、窓の開放など、各動作を行う前に

「この窓を開けたらどうなると思いますか?」
「火煙はどこからどこに行きますか?」
「あなたの隊はどの開口部をどの程度開放し、どこから消火開始しますか?」
「内部進入隊員が屋内のどこに居る場合、どの開口部を開けると危険ですか?」
「要救助者が屋内のどこかに居る場合、まず、何をしますか?」
「屋内進入後のドアコントロール要員は何を優先するべきですか?」

などの質問を応用し、準備しておくことで、受講者のイメージマインドはグルグルと動き出し、火災防御に必要な最低限の知識が身につくと思います。

過去においては多くの場合、特定の火災事例の詳細な結果を用いて、その対象物に適した火災防御戦術を教えてきたと思います。しかし建物の構造や内容物、火煙の行動と消火戦術、排煙する開口部の選定と開放優先順位、救助活動を別々の教訓として伝えてきたのではないかと思います。

特定の火災事例は参考にはなりますが、特殊な対象物の火災防御戦術を学ぶ際、特異すぎてプラスの影響とマイナスの影響を与えることがあります。

ドールハウスは一般的な住居火災を想定していますが、世界中どの消防局も一般住居火災への出動が一番多く、また身近な守るべき命がそこにあります。

大切なのは、ドールハウス等を用いた小規模の火災特性を支柱にして、自分たちが行っている火災防御戦術の正と負の両方を概観し、活動隊員にとっても安全で、また、生命・身体・財産を守るオリジナルの火災防御戦術を身につけることで、隊員に消防活動に自信を持たせること。

そして、ドールハウスを用いて、若い隊員にも指導要領等を身につけさせ、自ら学んだことを教え、知識を共有する癖を育てることが必要だと思います。

(了)


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