東芝が開発した自立型水素エネルギー供給システム「H2One™(エイチツーワン)」は、太陽光や風力などで生まれた再生可能エネルギーを、水素の形に変えて安定貯蔵し、災害などの非常時に必要に応じて電気と温水にして供給するというもの。気象条件により左右される再生可能エネルギーは、電力供給が不安定になりやすいという課題があるが、H2One™は、再生可能エネルギーである電気によって水を分解して水素をつくり、その水素をタンク内に貯めておいて、いざというときには、その水素と酸素を反応させ電気と熱を作り出す燃料電池の仕組みを応用している。電気を蓄える方法としては、蓄電池もあるが、特に大規模なものではコスト面に課題があることから、長期間貯蔵できる水素活用モデルとした。 

今年の4月から川崎市で始まった実証実験では、水素エネルギーのBCPモデルとして帰宅困難者の一時滞在施設になる川崎マリエンにH2One™が設置された。大きさは20フィートコンテナが3個分。公園には、30kWhの太陽光発電のパネルも設置され(テニスコート半面ほど)、この電力によって作り出された水素がタンク内に貯蔵されている。災害でライフラインが寸断すると、システム内にある燃料電池ユニットが、貯めた水素を電気と熱エネルギーに変換する。これにより、300人に約1週間分の電気と温水を供給することができるという。 

300人という想定は、同施設への避難者を想定したものだ。体育館の照明、温風ヒーター、全員の携帯電話とスマートフォンの充電、40型液晶テレビ5台、複合機1台、パソコン数台分の電気を1週間まかなえる計算になる。加えて熱エネルギーで温水シャワーも利用できる。太陽光が差し込まない状況で1週間分使うエネルギーを貯蔵しているので、天候次第ではこれよりも長い期間の利用が可能だという。仮にすべての水素を使い終わったとしても、一定期間、出力を止めれば、再び水素が作りだされる。水素を作りだすためのエネルギーは太陽光である必要はない。他の再生可能エネルギーを使ったり、商用電力を用いることもできる。 

東芝次世代エネルギー事業開発プロジェクトチーム統括部長の大田裕之氏は「水素はエネルギーの貯蔵に適している。その特性を災害時に活用する意味は大きい」と語る。

運べるエネルギー
太陽光パネルを除いたH2One™の各ユニットは20フィートコンテナを基準に設計されており、トレーラーでシステム自体を被災地に輸送することが可能だ。 

水素を高圧縮すれば、容量を増やしたり、逆にコンパクトなサイズも実現できるが、高圧縮水素を扱うには資格者が常駐しなければならず、運営コストを考慮し最適化した。 

太陽光パネルを設置せず、夜間電力を使って水素を蓄えることや、プロパンガスのように水素タンクをセットし非常時のみに作動させるシステムなど、既存技術との組み合わせでカスタマイズも可能だという。点検やメンテナンスを行えば、10年以上の長期に渡り使用できるという。

ハウステンボスでも導入


H2One™の導入は民間でも始まった。長崎のハウステンボスにあり、恐竜や人型のロボットが受付にいることで話題になった「変なホテル」もH2One™システムを導入し、一棟全12室で使うエネルギーを自立型でまかなう計画が進んでいる。敷地面積や景観などを考慮し、水素を高密度で吸収できる水素吸蔵合金を使った水素貯蔵タンクを利用。川崎マリエンに設置された水素タンクに比べ、同一体積で約10倍の水素を貯蔵する。夏場の太陽光発電でエネルギーを水素で貯蔵し、日照が少ない冬には蓄えた水素を徐々に消費する。1年という長い期間でエネルギー収支を合わせる計画だ。 

さらなる大容量水素電力貯蔵システムの開発も進む。水素を金属に吸収させ2020年ごろの商品化を目指すH2Omega™は5MW級の水素電力貯蔵装置で1万世帯が8時間使える計算だという。 

東芝は水素貯蔵を中心としたビルエネルギーマネジメントや離島でのエネルギーの自給自足モデルや水素活用のスマートコミュニティでレジリエンス強化なども提案している。4月には水素エネルギー研究開発センターを府中に開設した。「経産省水素ロードマップによると第一フェーズは今から2020年代で、燃料電池や燃料電池自動車の普及に主眼を置いている。東芝としても2020年度には水素関連事業で売上高1000億円を目指していく」と大田氏は話す。

開発元:株式会社東芝(☎03-3457-2100)