BCPと危機対応のプロフェッショナルが語る最前線

弊誌リスク対策.comは2013年12月10日「危機管理カンファレンス2013」を、都内六本木のアカデミーヒルズ(六本木ヒルズ森タワー)にて開催した。 

東日本大震災など近年の巨大災害により想定を超える被害が発生していることや、首都直下地震・南海トラフ巨大地震に対する備えから、事業継続計画(BCP)や危機対応のあり方について見直しが進められている。BCPについては事業継続マネジメントの国際規格ISO22301が2012年5月に発行され、同規格が2013年10月に日本工業規格(JISQ22301)として制定された。また、これまで国内の事業継続マネジメントのガイドラインとして広く参考にされてきた内閣府の事業継続ガイドラインが改定され、地震が及ぼす被害を想定した従来の計画から、オールハザード(あらゆる脅威)対応の新しい計画へと方針が大きく見直されている。 

一方で、危機対応に目を向けると、国際標準規格としてISO22320が2011年に発行され、同規格が同じく2013年10月にJIS化された。国土強靭化を進める政府は、2013年6月に閣議決定された経済財政運営の基本方針に「災害対策の標準化」に向けた検討を進めるという内容を盛り込み、その方策を模索している。 

こうした中、2020年の東京オリンピック開催が決定し、災害対応に加え、テロや大規模事故なども含めた危機管理の一層の強化が求められている。

カンファレンスは、変化するBCP・危機対応の動向の最前線を、広く企業・自治体の担当者に伝える目的で開催した。協賛企業はプラチナスポンサーとしてニュートン・コンサルティング株式会社、BSIグループジャパン株式会社、ゴールドスポンサーとして日商エレクトロニクス株式会社、一般財団法人日本品質保証機構。 

来場者数は600人を超え、危機管理への関心の高さがうかがえた。 

カンファレンス前半は「基調講演」として3つの講演を行った。名古屋工業大学大学院教授の渡辺研司氏は、国として災害対応力を高めていくために不可欠な、BCMや危機対応力の強化に向けた各組織の連携の取り組みについて紹介。政府、自治体、民間企業、非営利団体、地域コミュニティ、こうした異なるレイヤーによる連携が機能して初めて、強くしなやかな社会が構築されるとし、必要な基本的な枠組みや手法など、各地の取り組み事例を交えながら解説した。 

次に、東京電力原子力運営管理部防災安全グループ課長の井上忠司氏が、福島第一原子力発電所事故について、同様の事態を再び招かないために同社が進めている安全対策について発表。米国で標準的に採用しているICS(インシデント・コマンド・システム)の考え方を取り入れた新たな緊急時の組織体制など、柏崎刈羽原子力発電所の運用における安全対策の概要を解説した。 

続いて、グローバル展開する企業におけるBCP構築を、ニュートン・コンサルティング株式会社取締役副社長の勝俣良介氏が、同社がBCP構築の支援を行った豊田通商株式会社総務部BCP推進室室長の山本浩幸氏とともに発表。グループ全体に展開するBCPの構築を、国内外500社以上の子会社・関連会社を持つグローバル企業の豊田通商がどのように実現したのかを話した。 

カンファレンス後半は、会場を「BCP」「危機対応」との2つのテーマに分けて実施。 

「BCP」は内閣府政策統括官参事官の四日市正俊氏の講演から開始。改定された内閣府事業継続ガイドラインを基に、首都直下地震、南海トラフ巨大地震などに向けた今後の取り組みについて語った。次いで発表を行った日商エレクトロニクス株式会社マーケティング本部、第二マーケティング部第二グループグループリーダーの青木俊氏は、BCPにおいてIT対策が盲点になっていることとその脆弱性を指摘し、効果的な対策を解説。一般財団法人日本品質保証機構のマネジメントシステム部門、審査事業センター情報セキュリティ審査部参与の中村春雄氏は、ISO22301で初採用されたハイレベルストラクチャー(HLS)によって、日常のマネジメントシステムで非日常の経営も管理できるようになると説明。株式会社ディスコのBCMプログラムリーダーで事業継続管理システム管理責任者の渋谷真弘氏は、BCMの取り組みを向上させるために同社が取り組んできた訓練・演習の経験から、簡単で様々な事象に対して実効性を高められる最新の手法を紹介した。最後にBSIグループジャパン株式会社営業本部部長の鎌苅隆志氏は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを企業がビジネスチャンスとするために、BCPと危機管理の要点をISOの視点から発表した。 

「危機対応」の最初の講演を務めた京都大学防災研究所教授の林春男氏は、異なる組織が協力・連携して災害対応にあたる際に不可欠な標準化の必要性と、その導入プロセスについて説明。次に、在日米陸軍消防本部次長の熊丸由布治氏は、危機対応の標準化された仕組みである米国のICSの有効性について解説し、日本型ICSの構築が急務と話した。元岩手県防災危機管理監で岩手大学地域防災研究センター教授の越野修三氏は、危機発生時に求められるのは迅速で的確なトップの意思決定力とし、東日本大震災の対応における意思決定のプロセスを解説。東日本大震災で岩手県災害対策本部医療班班長を務めた岩手県医科大学付属病院医師の秋冨慎司氏は、危機発生時には必要な情報だけをトップに伝える情報マネジメントが求められると話し、実際に医師として災害医療の現場に従事した経験を踏まえ互いを信じられる災害対応とは何かを解説した。 

カンファレンスの締めくくりには、林春男氏、渡辺研司氏、バークレイズ証券株式会社ヴァイスプレジデントの佐柳恭威氏の3名とリスク対策.com編集長の中澤幸介によるパネルディスカションを実施。2020年の東京オリンピック開催に向け、①首都直下地震対策はどの程度まで終わらせる必要があるのか? ②大会開催中の大規模事故、テロ、災害などに備え、どのような体制が必要か? ③オリンピックというビジネスチャンスを最大限生かすために企業はどのようなリスク対策をすべきか? という3つの視点から、企業と組織が取り組むべき危機管理のロードマップについて議論を行った。 次ページより、協賛企業による講演の内容を掲載する。