救急隊員により複数傷病者をトリアージする様子(出典:Youtube)

日本でもおなじみのトリアージ法、「START」(Simple triage and rapid treatment /簡単なトリアージと迅速な救急手当) は1983年にカルフォルニアで発明された。大規模殺傷事故や事件(MCI:Multi Casualty Incident)が起きた際、ファーストレスポンダーが、現場到着後いち早く傷病者を観察し、救急処置の優先順位や搬送先の判断の精度を高め、救命率を向上させるための手法だ。

■「平成23年度 社会全体で共有する緊急度判定 (トリアージ)体系のあり方検討会報告書」(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h23/shakai_triage_arikata/houkokusyo/houkokusyo.pdf

■「緊急度判定プロトコル Ver.1.1 救急現場」(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/filedList9_6/kinkyu_hantei/kyukyu.pdf

■「トリアージハンドブック」(東京都福祉保健局)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kyuukyuu/saigai/triage.files/toriaji.pdf


日本では、活動隊、または、評価者によって、上記のトリアージハンドブックにあるように救急救命士でなければ評価できないような解剖学的評価までをマニュアル化しているようが、アメリカの場合は、1人の負傷者に対するトリアージ評価タイムは30秒以内とされており、先着隊隊員に近い負傷者から「30-2-Can Do」の要領でトリアージを行っている。

まず、現場到着後、負傷者達に「歩ける人はこちらに来て下さい」と指示し、歩いて所定の位置(緑のシート)まで歩行できれば、緑色の「Minor:軽傷」のトリアージリボンとタグを付けるか、トリアージリボンとタグを手渡して自分で付けてもらう。

「30-2-Can Do」の30は、負傷者の呼吸が1分間に30回以上の場合、2は
CRT (Capillary Refill Time:毛細血管再充満時間)が2秒以上かかる場合、または負傷者が単純な動作指示に従わない場合、赤色の「Immediate:即時(搬送)」のトリアージリボンとタグを付ける。

それ以外は、黄色の「Delay:随時(搬送)」と黒色の「Mogue:遺体(不搬送)」と評価されて、それぞれの処置や対応を行う。

なぜ、評価を30秒以内にしているかという理由は、航空機などの墜落、爆破テロやラミングアタックテロ(車両で次々に人を轢いていく)等の大規模殺傷事件の場合、負傷者が広く何カ所かに散らばって倒れているケースもあり、トリアージのスピードが負傷者の救命率を左右することや2次的なテロや災害が発生すること、交通障害や人通りなどの生活環境障害を最小限にすることを目的としているためだとしている。

また、MCIの現場において、通報から平均7分前後で到着する消防の先着隊の消防隊員が現場でトリアージする目的は「意識と反応の確認」であり、救急道具は酸素と簡単な処置セットしか持っていない。トリアージ後に消防士が行える「圧迫止血」「呼吸管理」や解剖学的評価までの必要性はないことを前提としている。

詳しくは下記を参照。

■「START Triage with RPM(STARTトリアージと心身評価)」
https://www.fireengineering.com/articles/2014/02/start-triage-with-rpm.html

RPM:Respiration(呼吸回数), Profusion(毛細血管再充満時間), and Mental status assessment (理解反応)

大規模殺傷時のトリアージ手順について

このように日本でも既に取り入れられ、世界標準となっているトリアージ手法「START」だが、そのシステムは負傷者の救命率を高めるために年々進化している。

今回は、現役の救急救命士の方からリクエストをいただき、「Disaster Management Systems,Inc.」によって改良され、米カリフォルニア州が採用後、全米に広がっている最新のトリアージ・システムをご紹介したい。日本で使用されている従来のシステムを改善する際のひとつのアイデアとして、簡単ではあるが、少しでも参考になれば嬉しい。

まず観ていただきたいのは、米カリフォルニア州エルドラド郡救急局が作成した「大規模殺傷事故対応計画(MCIP:Multi Casualty Incident Command Plan)」だ。これは大規模殺傷事故(MCI)が発生した際、現在カリフォルニア州のすべての救急局が遂行する行動マニュアルの代表例だ。

■ 「大規模殺傷事故対応計画(MCIP:Multi Casualty Incident Command Plan)」(米カリフォルニア州エルドラド郡救急局)
www.edcgov.us/government/ems/mci/documents/2016%20MCI%20PLAN.pdf


もう一つは、カリフォルニア州が採用した最新トリアージ・システムを開発したDisaster Management Systems,Inc.社が作成した、教材ビデオだ。この動画は、トリアージ・システム運用の中核となる「MCI」キットの使い方を紹介している。

公式動画 All Risk® Triage Tag - START from DMS(出典:Youtube)


この2つを押さえたうえで、以下のシミュレーション動画を観てほしい。
この動画を観ていくと、まるで、その現場に居ながら、指揮下に入り、トリアージしながら、複数の傷病者の観察や処置を行い、搬送先を判断できるようになるまでの訓練を行うことができる。

公式動画 MCI The Movie - Extended Training Version (出典:Youtube)
 


このシミュレーション動画が素晴らしいのは、前後編の2バージョンで構成されていること。前編で一通りの手順を紹介したのち、後編は適宜ビデオを早送りして、特に大規模殺傷事故の現場で救急隊員が押さえるべきポイントを振り返って確認できる。さらに運用の核となるツール「MCIキット」の使い方が、ストーリーの中に巧みに組み込まれている。