基地局の流出などに対応

ソフトバンクグループの1 社で携帯電話事業のソフトバンクモバイル株式会社(本社:東京都港区、社長:孫正義)は、基地局が流失したり伝送路が切断するなど、広い範囲で被災した。通信インフラの脆弱性が指摘されながらも、同社ではBCP(事業継続計画)に基づいた対応により早期復旧に努めた。

3500 以上に及ぶ基地局の被害最も大きな被害となったのは、基地局の被災によるネットワークの断絶だ。地震と津波の影響により、基地局そのものが流失したり、伝送線の障害のため基地局が機能しなくなることが東北地方を中心とした各地で見られた。震災後の翌12 日には、3786 局で携帯電話が通じなくなるなどの影響が出たことが確認されている。

基地局の復旧作業は、同社のBCP に従い、被災した当日から開始した。BCP の中で、停電対策として基地局に予備電源や発電機を搭載していたことや、複数の基地局を結ぶ伝送路にバックアップ用の迂回路を設けるなど対策を整えていたことが復旧に役立ったという。作業に当たったのは、800 名近い技術者メンバー。甚大な被害を受けた地域の基地局に移動基地局車10 台を出動させたほか、伝送路が切断した基地局には衛星回線を活用した通信対策を施した(写真)。さらに、社内公募で集まった440 名のボランティアメンバー
が、現地で被災された人を対象に、携帯電話の貸し出しなどユーザーのサポート業務にあたった。

写真を拡大移動基地局車によるエリアカバー対策

会社の業務以外でも、仕事で身に付けたスキルを生かして被災地の復旧にあたった社員もいる。宮城県仙台市では、ボランティアとして参加した情報システム本部の社員が「出発前にやること」「現地でやること」「帰還後にやること」を簡単に確認できるサイトを構築。「状況ごとにやるべきことを明確にしたことでボランティアの効率が上がった」という意見も寄せられたという。

ソフトバンクモバイルが提供する携帯電話サービスのエリアカバーは4 月14 日までに、震災前とほぼ同じ状態に回復(図1)。4月28 日には、一部電力の復旧待ちや原発圏内の基地局を除き、ソフトバンクとしてできる基地局関連の復旧工事を完了させた。

■通信グループとして対応
ソフトバンクグループでは、通信インフラを担う立場として、早くから事業継続体制の構築に取り組んできた。固定電話サービス事業のソフトバンクテレコム株式会社では、2010 年2月に事業継続マネジメントシステムの国際的な認証規格であるBS25999 を国内の通信事業者として初めて取得している。さらに、グループ内の連携体制の強化を目的に、ソフトバンクモバイル、ソフトバンクテレコム、ソフトバンクBB の通信3社で毎年、地震や火災を想定した総合防災訓練やネットワーク障害対応訓練など災害時における横断的な訓練も実施してきた。実際に3月11 日の東日本大震災では、3社の総務本部が中心となり、グループ全体の災害対策事務局としての機能を担った。

■iPhone とiPad で安否確認
3社の総務本部で震災対応のリーダーを務めたソフトバンクモバイル総務本部の小笠原博明部長は、地震発生後すぐに各社社員の安否確認と被災状況の情報の収集にあたった。「3社は各事業部で、事故発生時に緊急対策本部と連絡を取り合う事故対策メンバーを事前に決めており、メール等を利用して被害状況の情報を収集しました」(小笠原氏)。当日は携帯電話がつながりにくかったため、パソコンによるメールも利用した。

ソフトバンクグループ通信3 社の社員全員にはiPhone とiPad が配布されている。そのため、外出している社員も携帯端末からメールの確認ができ、一部の東北地方で被災された社員を除けば、ほとん
どが震災当日中に安否の確認ができたという。最終的に3社の全社員の安否確認を終えたのは3月14日。震災から1 週間後の18 日までには全社員の家族および自宅の被害状況の確認も行った。

当日の帰宅困難者対応にも3 社全体であたった。「本社ビル内には、ソフトバンクグループの約1万1000 人の社員が働いていました。交通網の状況を鑑み、無理して帰宅しないよう指示をしたこともありますが、被災当日は備蓄品の配布状況から確
認すると7000 人くらい残っていたのではないかと思われます」(小笠原氏)。

震災当日から翌朝にかけ、総務本部から全社員に向けて、公共機関の交通復旧状況などを計17 回にわたりメール配信した。会社に待機している社員には、総勢450 名にのぼる自衛消防隊の協力を得て、備蓄品を配布した。

■Twitter で社長自らがメッセージ
小笠原氏は、同グループの震災対応の特長の1つに、トップのリーダーシップを挙げる。グループ全体のトップである孫正義社長は、震災後Twitterを通じて、震災に対するグループ全体としての対応について書き込みをし続けていた。「極限の状態の時に、指揮官がいなくなってしまったら、大混乱になってしまいます。事故・災害時も同様に、BCPをうまく活用するためにはリーダーシップが不可欠。今回の震災では、社長自らの書き込みによりグループ全体に震災対応の方針が提示されたことで全社員が一体になれました」(小笠原氏)。孫氏のリーダーシップが、同グループの早期復旧を後押ししたとする。

■連携体制の拡大が課題
ただ、グループ全体としていくつかの課題もあった。1つは、現地との連絡体制。東北支社には、緊急時の連絡手段として衛星電話を配備していたが、震災で棚が倒れてしまったことで取り出せず使用できなかった。結果的に固定電話で対応したが、今後はいくつかの代替手段でスムーズに情報が伝達できるように準備が必要とする。

もう1 つは、地方拠点の体制強化。今回、本社で実現した連携体制を、地方拠点も一層強化していくことが、早期の復旧を実現する上で重要となるとする。「備蓄品の配備や情報の一元化、自衛消防隊の活用などは多くの企業でも準備をしていると思いますが、実際に起きた時に本当に機能するためには日頃からコミュニケーションが非常に重要だと思っています」(小笠原氏)。また、こうした課題を克服する前提として、小笠原氏は社員全員の理解が必要とし、そのためにも経営トップの関わりが今後の事業継続性を高める上で大きなポイントになるとした。