4対策

ア 野次馬による無断撮影が上記軽犯罪法により検挙されたとの裁判例は見当たらない。また現実問題として軽犯罪法の検挙数自体が多くない(変事非協力の罪(2014年0件、2015年1件、2016年0件)、追随等の罪(2014年451件、2015年387件、同28年437件)、業務妨害の罪(2014年715件、2015年647件、2016年678件)。

イ しかし、裁判例が見当たらないからといって対応が不可能なわけではない。実際、軽犯罪法によって既存の法令では対応しにくい犯罪を抑止した先駆的事例がある。

迷惑行為禁止条例違反では検挙できない盗撮行為である。

(ご参考)
新宿のマンションでベランダ越しに女性宅を盗撮 最高裁の事務官が逮捕されたワケ
https://news.yahoo.co.jp/byline/maedatsunehiko/20190715-00134275/

■電車内で女性を無断撮影しただけ なぜ書類送検され、停職5日の処分に?
https://www.j-cast.com/2013/02/14165407.html?p=all

電車内で顔を撮影するような場合、卑わいな行為とは言いにくいため、迷惑行為禁止条例では対応が困難である。しかしこれを軽犯罪法によって抑止しようとしたものだ。

これにならい、野次馬による無断撮影についても軽犯罪法によって対応していくことが考えられる。

ウ そのためには以下のような対策を消防広報として積み重ねていくことが効果的である。
(1)ウェブサイト、ポスターなどによる無断撮影防止の啓発活動
これは世論を味方につけ、捜査当局・司法当局が積極的に動きやすくするとともに、また無断撮影者の悪質性を基礎づけるため、ひいては検挙しやすくすることに役立つ。

(2)場の担当者の負担軽減措置
JR新宿駅の記事のように、現場駅の担当者がその場の判断で撮影しないようにとのアナウンスをそのたびにしなければいけないというのは負担が重すぎる。

そこで、公共施設や駅構内などの事案では、撮影をしないようにとのメッセージを自動音声で流したり、立ち入り禁止のカラーコーンにあらかじめ無断撮影をしないようにとの文字をシールなどで貼り付けておくなどの措置が考えられる。

消防の場合、先着隊は人命救助を優先するため、災害規模や出動態勢に応じた活動人員にもよるが、スマホでの撮影禁止アナウンスなどの野次馬対応は指揮隊、または、救急隊、消防団などが行うことができるかもしれない。

また、消防車の自動アナウンスシステム装置を生かすことで、スマホでの撮影禁止アナウンスをはじめ、活動に支障のある警戒区域外への野次馬や関係者などの避難誘導、付近住民への消防活動内容説明、活動に支障となる車両の移動、現場における火災予防広報など、活動内容に応じたアナウンスをあらかじめ作成しておき、活動のタイミングや種別ごとに用いることで、可能な限りではあるが、消防活動に支障を生じさせないためのさまざまな先手を打つことができる。

消防活動現場の指揮隊や隊員の負担を軽減しつつ、無視して撮影しようとする無断撮影者の悪質性を基礎づけるため、ひいては検挙しやすくすることに役立つ。

(3)無断撮影事案の収集と分析
無断撮影といっても火災現場、自殺、交通事故、公共の場における犯罪、被疑者の護送などで状況が異なる。そのため状況に応じて上記軽犯罪法の変事非協力の罪(8号)、追随等の罪(28号)、業務妨害の罪(31号)のどれが成立し得るかが違ってくる。

そこで現場関係者に事故対応時の野次馬対応について、アンケートをとるなどして状況をあらかじめ整理しておくことで、いざというときにどの類型に当たるかを把握しておき、検挙のための対応マニュアルを作成して現場の担当者の負担を軽くし、また警察などへ協力を求めやすくすることが考えられる。

消防活動上、無線や指揮板を用いたり、口頭での現場指揮命令内容もスマホで録画され、SNSやYouTubeで公開されてしまう時代に、いかにできる限りの工夫をして、活動上に知り得た守秘情報である被災者や負傷者などのプライバシーの保護を行うため、消防の不手際とニュース沙汰になる前にまずは既存の装置を使って、具体的にスマホでの撮影禁止アナウンスなど、実践して見てはいかがだろうか。

法的アドバイスについては、法律事務所アイディペンデント 弁護士 南部弘樹先生監修。

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(了)


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