2019/12/06
リスクは連鎖する!
3. コンプライアンス上の課題としてのサイバーリスクへの理解
もちろんGDPRやカリフォルニアでの個人情報保護規制への対応が重要なのは言うまでない。しかしながら、課題や取り組む内容があまりにも大きすぎるために、十分な対応ができていない場合もあるかもしれない。リスクマネジメントの基本に立ち返り、事業展開の状況に応じて、社内でリスクの優先順位付けを行い、対応が切実に求められる地域の法規制対応から着手していくべきであろう。もし欧米よりもアジア域内における事業展開に重きを置いている場合は、まずは同域内の法規制への対応こそが急務である。罰則金などはGDPRに比べてはるかに軽微であり、対応しやすい。たとえ罰則金などが軽微であっても、進出国におけるコンプライアンスに抵触する行為は、企業の信頼を大きく揺るがす可能性がある。
4. 最適な防御は正にナレッジである
サイバーリスクというとITやテクノロジーの問題だと思いがちだ。ソーシャルエンジニアリングに代表される、人間の心理的油断や理解不足によって引き起こされるサイバーリスクの方がより深刻であり、対策も実施しやすい。米国大手のサイバーセキュリティ企業も認めている通り、社員や取引先のサイバーリスク教育をはじめとしたナレッジこそが防御としての最大の施策かつ根幹である。
5. インシデントパネルを自ら迅速に用意できるか?
インシデントパネルとは、ITフォレンジックの専門家に代表されるサイバーインシデントが発生した際に絶対必要とされる「人財」である。例えば、サイバーリスクに精通した弁護士、危機対応コンサルタント、コールセンター、PRのプロ、損害額査定のプロ、国によって違いはあるが行政対応のプロ、モニタリング(特に米国)のプロなどである。こうしたそれぞれの分野の専門家をインシデント発生時に首尾よく配置されているかが、事後対応の鍵となってくる。
前述のポイントは基本的なものであるが、一歩ずつ着実に具体的な施策を積み上げ、サイバーリスクマネジメント実施のチェックリストの項目として役立てていただきたい。
(了)
マーシュジャパン株式会社
シニアバイスプレジデント
佐藤徳之
リスクは連鎖する!の他の記事
- 投資協定仲裁とその執行
- サイバーリスク対策を考える(後編)
- サイバーリスク対策を考える(前編)
- 持続可能な開発目標の達成に向けて
- 南海トラフ地震に向けたリスクファイナンス
おすすめ記事
-
医療機能の維持を可能にした徹底的なハード対策非常時の代替ライフラインはチェック表で管理
元日の能登半島地震で激震に襲われた恵寿総合病院では、地震後も業務を止めることなく、充実した医療を提供し続けた。10年をかけて整備してきた、徹底的なハードとソフト対策のおかげだった。
2024/05/20
-
目まぐるしい状況変化 懸命に向き合った3カ月
市立輪島病院は能登半島地震で被災しながらも、懸命の処置により、運び込まれる負傷者や感染症に苦しむ患者の命をつなぎました。超急性期・急性期を乗り切ると医療需要は急減し、代わって介護機能の維持が深刻な課題に浮上。発災から介護医療院開設までの約4カ月、病院で何が起きたのかを同院事務部長の河﨑国幸氏に聞きました。
2024/05/20
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年5月14日配信アーカイブ】
【5月14日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:行動指針の意義
2024/05/14
-
-
情報セキュリティーは個人のリスク目線では通用しない
学生時代からパソコンを使いこなしてきた人が新入社員に多くいる昨今ですが、当然、個人と会社ではセキュリティーの重心が違います。また、人事異動で新たに着任した社員も、業務が変われば情報資産との関わり方が変わり、以前と同じ意識でのぞめばよいとは限りません。新年度にあたり、情報セキュリティーのルールは特に徹底したいところです。
2024/05/10
-
-
サイバーインシデント対応の基本知識と準備
本勉強会では、一般的な情報セキュリティインシデントとサイバーインシデントの違いや、その初動対応について事前に準備すべきことと合わせて、自社で手軽に訓練・演習を実施するためのポイントを解説します。2024年5月8日開催。
2024/05/09
-
-
炎上の原因はSNS上の振る舞いのみにあらず
新年度から仲間に加わった新入社員は「デジタルネイティブ」と呼ばれ、友人とSNS で交流するのがあたり前の世代です。が、学生時代と違い、社会人になれば取り巻く環境が変わり、自身の立場も変わる。うかつな投稿が「炎上」につながるケースは少なくありません。新人研修のテーマにSNSリスクを組み込むなどして教育を徹底したいところです。
2024/05/08
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方