2020/02/07
危機管理の神髄
三振なのに瓦礫の山でまだ仕事をしている
しかし足りないのは実施に移すことであった。瓦礫の山におけるマスクの要件をいかに実効あらしめるかが問題であった。なぜ必要なのかという疑問を呈する者もいる。マスクの装着によって安全を確保するというのはそれぞれのファーストレスポンダーと建設労働者の責任であるという。しかし、それはとんでもない誤りである。ファーストレスポンダーと建設労働者は私心なく厳粛な使命に献身しており、他の人と同様に矛盾したメッセージによって混乱させられていたのだから。
「EPAが大気は安全だと言っているのに、なぜこの顔マスクをつける必要があるのか?」
「自分の周りでは、ほとんど全ての人が、警官も消防士も建設労働者もマスクは口や鼻を覆うのではなく首からぶら下げている。なぜ自分だけが例外でなければならないのか?」
「ここにはOSHAとニューヨーク州労働局がいる。もし顔マスクをつけるというのが規則であるなら、誰も現場から追い出されないのはなぜなのか?」
はじめからマスクを拒絶する作業者には現場に入ることを禁じるという三振法が必要だということは分かっていた。スタテン島では終日それがあったので、それならうまくいくということを知っていた。
毎日グラウンド・ゼロからの残骸はブルックリン・バッテリー・トンネルを通って、ヴェラザーノ・ナローズ橋の向かいのブルックリンへトラックで運ばれた。スタテン島のかつてのフレッシュキルズゴミ埋立地に着くとニューヨーク市警が証拠物や人間の遺物を選別する作業を監督した。副検査官のジェームズ・ルオンゴは現場指揮官だった。ピーク時には900名もの警察関係者が24時間体制で従事した。
ルオンゴはその規則を施行するのに誰の援助も必要としなかった。マスクを着用していない者は直ちに解任されて現場から永久追放となった。例外はなかった。
「紳士淑女諸君、これはベースボールではない」というのがルオンゴの好んで使った言葉である。「私のゲームではワンストライクでアウトだ」
それらの瓦礫を積んだトラックは、ワールドトレードセンターの現場と市内の通りから200万トンに及ぶ塵埃と残骸を運搬した。保健局は作業者の安全規則を施行することはできなかったが、トラックが通り道のトンネル、橋、ストリートを汚染するのを禁止する独自の規則に関してはそれを施行するための広範な権限を有していた。
われわれはその権限を行使して残骸に封印も洗浄も行わないで現場を離れるトラックに500ドルの罰金チケットを数百枚切った。これは私に“グラウンド・ゼロで最も嫌われている人”という自慢にはならない特別な地位をもたらした。しかしそれはうまくいった。ニューヨーク市のストリートには汚染された塵埃を一切認めないという方針を実行した。しかしこの後述べるように健康検査官が作業者に違反チケットを切るというのはあり得なかった。
多大な努力にもかかわらずワールドトレードセンターの現場にいる全てのファーストレスポンダーと建設労働者に常時P100マスクを装着させることはできなかった。彼らの安全を確保するためにはゼロ・トレランス方式(毅然たる対応方式)が必要だった。われわれはスタテン島そしてWTC現場周辺のストリートではそれが機能するのを見ていたのだし、瓦礫の山でも有効だということは分かっていた。
しかし早い段階で、政府の上層部で施行しないとの方針が決定されていた。ワールドトレードセンターの現場でファーストレスポンダーと建設労働者を守ることができなかったことの責めはこの施行しないとの方針に帰せられるものである。
(続く)
翻訳:杉野文俊
この連載について http://www.risktaisaku.com/articles/-/15300
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