一般市民レベルにも救護活動の知識と技術を啓蒙し、拡散していかなければならない(出典:Wikimedia Commons)

読者の方もご存知だと思うが、あの阪神・淡路大震災では自助・共助により命が助かった割合はなんと95%にも上る。(下グラフ参照)


一体この数字から何が読み取れるのだろうか? 筆者はこの数字を“人間が本能的に持つ善の心がもたらした勇気ある行動の結果”だと思っている。つまり、一旦災害が発生し自分の命が助かった者は、好む・好まざるに関わらず、自発的に救助活動を始めるということである。しかしその側面では大変な悲劇を招きかねない危険が潜んでいる。

阪神・淡路大震災での正確なデータがないので、メキシコ大震災のデータを引用する。1985年9月19日にメキシコで発生したマグニチュード8.0の地震は1万人以上の犠牲者を出し、全・半壊の建物は約9万8000棟に及んだ。犠牲者の数で言うと阪神・淡路での6434名を上回る規模だ。同じようにこの震災でも近隣住民による救出活動により800人以上の市民が救出されたが、救出に向かった約100名の住民がその尊い命を2次災害で失った。ここに自助・共助の「力」と「盲点」があるということである。要約すると「生存者は自発的に自らの知識で危険を顧みず、救助活動を行う」という。この前提をよく認識しなければならない。 

また、多くの要救助者が発生し、助ける側より助けられる側の人数が多いケースがある。この2つの災害現場での大前提を鑑み、一般市民レベルにもしっかりとした災害時における救護活動の知識と技術を啓蒙し、拡散していかなければならないのだ。本連載シリーズのサブタイトルである“市民・従業員のためのファーストレスポンダー化計画”がまさしくその部分でもある。さて、正しい技術と知識を学ぶ必要性はご理解いただけたと思うが、この章では特に災害時における要救助者に対する正しいファーストエイドに焦点をあてて説明していこう。

【時間との戦い~START法~】

言うまでもないことであるが、人命を助けるということは時間との戦いでもある。一般市民レベルでできることにも限界があるが、それは医療機関でも同じである。ならば、市民レベルでの救助活動からスムーズに医療機関と連携を取らなければならない。要救助者には重症で数分の命しか持たない人(フェーズ1)もいるだろうが、大量出血のため、数時間の命の人(フェーズ2)や、感染症などにより数日か数週間の命の人(フェーズ3)もいる。ここで強調したいのはフェーズ2とフェーズ3の要救助者に対しては市民による迅速でシンプルな処置で死を防ぐことができるということである。中でも生命危機に陥った要救助者に対する正しい処置方法を学ぶことの価値は極めて大きいといえる。 

START法とは英語のそれぞれの頭文字を取ったもので、最初のSTは“Simple Triage”シンプルトリアージ※:簡易(的患者選別)で次のARTは“And”(そして)とRT “Rapid Treatment”(迅速な処置)を表している。米国のデータによると、このSTART法(シンプルなトリアージと迅速な処置法の実践)で救命率が40%もアップすることが証明されている。 

災害救護における最大の目標は、最短の時間で最大の効果を上げることは言うまでもないことである。

※トリアージとは、患者を選別し治療等の優先順位をつけること。戦場でもその効果が証明されている。

■阪神淡路大震災で得た教訓 

•救出現場など病院外でのトリアージ(患者選別)がほとんど行われなかったため、医療機関には死者や軽症者、重傷者などの患者が選別されずに殺到した。

•医療機関に運び込まれた患者が圧死者と治療可能な負傷者に二分されており、集中治療の必要な患者は比較的少なかったことから、災害現場でのトリアージの必要性に関する指摘がなされた。

•圧挫症候群(クラッシュシンドローム)が発生したが、救急医療関係者以外にはあまり知られておらず、適切な対処がとられなかった例もあった。

•厚生省研究班の調査によると、圧挫症候群の患者は327例、うち50例(13%)が死亡したとされている。 

(出典:内閣府防災情報のページ)

内閣府も指摘しているように、一人でも多くの人命を救うためには、住民による正しい災害救護とトリアージ、そして効率のよい医療機関との連携を図らなければならないのだ。それでは具体的にどのような手法でそれらを実践すれば良いのかを解説しよう。