2020/04/01
気象予報の観点から見た防災のポイント
霜害の本質
通常の気象観測では、地上約1.5メートルの高さで気温を測ることになっている。気象庁のアメダスなどの観測値は、どれもそうである。だが、放射冷却が顕著に進行しているとき、地表面近くの物体の温度は、地上約1.5メートルの気温より数度低くなっていることに注意しなければならない。晴れた日の夜間の場合、経験的には、地上約1.5メートルでの気温がおおむね摂氏4度以下になると、地表面近くの物体の温度が氷点下になり、露ではなく霜の降りる可能性がある。
では、露ではなく霜が降りると、どうして植物がダメージを受けるのか。それは、霜が降りると、植物の葉や茎の水分が凍結するからである。葉や茎は、水分が凍結すれば組織の機能が低下し、枯死に至る。それは、霜そのものが影響を与えるのではなく、低温が主因であり、葉や茎が低温になって水分が凍結すれば、霜が降りなくても被害が発生する。また、地表面近くの物体の温度が摂氏0度以上で、霜ではなく露が生じた場合でも、その後温度が下がって氷点下になり、露が凍結(凍露=とうろという)すれば、被害は発生する。その意味では、霜害の本質は「凍害」である(「凍霜害」という言葉もある)。
気象台の霜注意報
春、農作業が始まった頃、テレビの天気予報などで「霜注意報」という言葉を聞くことがある。霜によって農作物に被害の発生する恐れのあるとき、気象台は霜注意報を発表する。気象台が行う霜注意報は農業被害を対象としており、農作物への影響がある期間に限定して発表される。だから、農耕期間以外は、霜が降りると予想される場合でも注意報は発表されない。冬期、積雪のない関東平野などは、ほぼ連日、霜の可能性があるが、農耕期間ではないので霜注意報は発表されない。
主な地域の霜注意報の基準を表1に示す。基準要素には最低気温が用いられ、基準値は摂氏2度から4度の範囲でばらつきがある。これは、それぞれの地域で栽培されている農作物の種類や耐寒性の違いによると考えられる。

表1でお分かりのように、霜注意報の基準に、実施期間が明記されている地域がある(関東以西に多い)。春のおそ霜に関してはどの地域も注意報が出されるが、関東以西では秋の早霜に関する注意報が想定されていない地域がある。これは、農耕期間の終了後に初霜を迎える地域に相当する。
霜注意報の基準に実施期間が明記されている場合、それは、これまでの経験ではそれでよかったということであって、その期間以外でも霜による農業被害の可能性が出てくれば、霜注意報が行われる必要がある。例えば、東京地方の霜注意報の実施期間は4月10日から5月15日までとなっているが、春の訪れが早い年は農作業の開始時期が早まり、4月9日以前でも霜注意報が必要になる場合があるのだ。実際、本年(2020年)は3月24日に霜注意報が発表された。また、もし5月16日以降に霜が降りるほどの異常な「寒の戻り」があれば、それこそ農作物は大被害を受けるから、霜注意報が発表されなければならない。だから、「想定されていない無防備状態」を取り除く意味では、霜注意報の基準における発表期間の条件にはこだわらない方がよい。
気象予報の観点から見た防災のポイントの他の記事
おすすめ記事
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方