写真を拡大 図2. サプライチェーン・レジリエンスの能力の評価に関する研究の変遷 (出典:Y. Han et al. (2020) )

サプライチェーン・レジリエンスのパフォーマンス指標

著者はこれらを含む153の論文の内容を精査して統合し、サプライチェーン・レジリエンスのパフォーマンス指標のフレームワークを図3のように構成した。まず最上位にPonomarovとHolcombによる論文(注6)で示されている3つの側面が置かれ、この下にサプライチェーン・レジリエンスに求められる8つの能力(capabilities)が関連付けられている。さらにその下には11のパフォーマンス指標が配置されている。なおパフォーマンス指標の枠内に書かれているのは、個々の論文で挙げられている具体的な指標の例である。

写真を拡大 図3. サプライチェーン・レジリエンスのパフォーマンス指標のフレームワーク(出典:Y. Han et al. (2020) )

著者がこのフレームワークにたどり着くまでには膨大な時間と労力が費やされたと思われるが、今後は多くの研究者がこのフレームワークをさまざまな事例と突き合せることによって、このフレームワークの検証が進められるかもしれない。そう考えれば本論文は、今後のサプライチェーン・レジリエンスの研究をさらに進めるための重要なステップとなる可能性があるであろう。

また、このフレームワークは過去の153もの文献の集大成とも言えるものであるから、たとえ未検証であっても相応の妥当性が期待できるとも考えられる。したがって企業においては、自社のサプライチェーン・マネジメントの状況をこのフレームワークに当てはめてみることで、改善すべき課題が見えてくるかもしれない。

本稿では掲載を省略させていただくが、本論文ではこのフレームワークに含まれる8つの能力と11のパフォーマンス指標について、どの論文で言及されているかが全て表で示されており、この分野における論文のカタログのようになっている。また図2のところでも説明させていただいたとおり、本論文ではサプライチェーン・レジリエンスの評価に関する研究の歴史がつづられている。正味12ページ半の本論文を読めば、サプライチェーン・レジリエンスの評価やパフォーマンス指標に関する研究の経緯や現状があらかた分かるという大変貴重な論文だと思うので、この分野にご興味のある方にはご一読をおすすめしたい。

■ 報告書本文の入手先(PDF 27ページ/約2.8MB)
https://doi.org/10.1080/00207543.2020.1785034

注1)Yu Han, Woon Kian Chong & Dong Li (2020) A systematic literature review of the capabilities and performance metrics of supply chain resilience, International Journal of Production Research, DOI: 10.1080/00207543.2020.1785034

注2)https://www.tandfonline.com/toc/tprs20/current

注3)第51回:組織のレジリエンスの概念や評価手法に関する系統的レビュー
What we know and do not know about organizational resilience
https://www.risktaisaku.com/articles/-/7319 (2018年7月3日掲載)

注4)Rice, B. J., and F. Caniato. 2003. “Building a Secure and Resilient Supply Network.” Supply Chain Management Review 7 (5): 22–30.

注5)Datta, P. P., P. M. Allen, and M. G. Christopher. 2007. “Agent- Based Modelling of Complex Production/Distribution Sys- tems to Improve Resilience.” International Journal of Logis- tics Research and Applications 10 (3): 187–203.

注6)Ponomarov, Y. S., and M. C. Holcomb. 2009. “Understanding the Concept of Supply Chain Resilience.” The International Journal of Logistics Management 20 (1): 124–143.

注7)Hohenstein, N. O., E. Feisel, E. Hartmann, and L. Giunipero. 2015. “Research on the Phenomenon of Supply Chain Resilience: A Systematic Review and Paths for Further Inves- tigation.” International Journal of Physical Distribution and Logistics Management 45 (1/2): 90–117.

注8)Chowdhury, M. M. H., and M. Quaddus. 2016. “Supply Chain Readiness, Response and Recovery for Resilience.” Supply Chain Management 21 (6): 1–46.