2022/09/05
アウトドア防災ガイド あんどうりすのゆるっと防災CAMP
そして、ライフジャケットの着用を根拠ある溺水対策とする一方で、膨張式アームバンド等が代用になりえないという記載もあります。この部分、これがまさしくアメリカらしい危機管理思考だと私は思ったのです。膨張式アームバンドについては、国内では、「腕浮き輪」で検索すると該当商品が出てきます。空気を入れて膨らませ、腕につける浮き輪です。プールなどで使用されるものとして、100円ショップでも販売されています。
なぜアメリカ小児科学会がアームバンドでは、代用となり得ないことを明記しているかというと、「空気が抜ける可能性があり、安全を守る設計になっていないため」と説明されています。
ここで、聡明な方であれば「アームバンドは、どう見ても空気抜けそうだから、代用にならないのはあたりまえなのでは?」と思われるかもしれません。
でも、このような場合ではいかがでしょうか?
仮にです。国内で川の事故があったとして、この膨張式アームバンドをつけていて助かった子どもがいたとしましょう。そうすると、100円ショップでも入手できる便利な方法として、アームバンド推しの話題がSNSでシェアされたりしないでしょうか? さらに「私もこれで助かりました!」という声も出てきたとします。すると今度は、助かった人の体験談として、マスコミで報道されすぎたりはしないでしょうか? 考えすぎだと言われるかもしれませんが、「とっさの時にできるライフハック」、「身近なもので対策」という報道の方が、本質的な対策よりも好まれる国内傾向があるんじゃないかなと危惧しています。川用として泳ぐことも想定しているライフジャケットの浮力は、設計の考え方から違うのでアームバンドとは比較になりません。アームバンドでは代用ではきないことを明記して、地道にライフジャケットの着用を強く推奨しているアメリカ小児科学会声明には、とっさの時の対処的な対策に頼らず、王道をしっかり啓発しようとする危機管理のお手本を見せてもらった気がして、ちょっとジェラシーまで感じてしまいました。
さらに、そのジェラシーを燃え上がらせた一文もありました。
出典 American Academy of Pediatrics
「すべての著者に、利益相反はありません。あっても解決されています。商業的関与もないです」ということがさらっと書かれてあるのです。アメリカ小児科学会の他の声明にもいつも書かれていることではありますが、声明の客観性を担保するためにとても重要なことだと思うのです。ネットでさまざまな情報が入手できる昨今、信頼性が高い情報かどうかを判断するとき、このような利益相反の排除条項は、防災現場でもっと増えてもいいのかもと思いました。
さて、ふたたびライフジャケットに話を戻します。コロナ禍の感染症対策の話題で、国内でも認知されるようになったCDC(アメリカ疾病予防センター)も溺水防止として、ライフジャケット着用について言及していることをご存知でしょうか?
(中略)
Not wearing life jackets ライフジャケットを装着していないこと
Life jackets can prevent drowning during water activities, especially boating and swimming.
ライフジャケットは水辺のアクティビティ、特に、ボートや水泳の際に溺死を防ぐ。
https://www.cdc.gov/drowning/facts/index.html
なぜCDCがライフジャケット推し?と思ったのですが、溺水については、「防ぐことのできる公衆衛生」の問題として捉えられていることが以下の文からもわかります。
溺死は予防できる公衆衛生の大きな問題です。
Life jackets should be used by children for all activities while in and around natural water.
子供は、水中や水辺でのすべての活動でライフジャケットを使用する必要があります。
https://www.cdc.gov/drowning/prevention/index.html
アウトドア防災ガイド あんどうりすのゆるっと防災CAMPの他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年5月14日配信アーカイブ】
【5月14日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:行動指針の意義
2024/05/14
-
-
情報セキュリティーは個人のリスク目線では通用しない
学生時代からパソコンを使いこなしてきた人が新入社員に多くいる昨今ですが、当然、個人と会社ではセキュリティーの重心が違います。また、人事異動で新たに着任した社員も、業務が変われば情報資産との関わり方が変わり、以前と同じ意識でのぞめばよいとは限りません。新年度にあたり、情報セキュリティーのルールは特に徹底したいところです。
2024/05/10
-
-
サイバーインシデント対応の基本知識と準備
本勉強会では、一般的な情報セキュリティインシデントとサイバーインシデントの違いや、その初動対応について事前に準備すべきことと合わせて、自社で手軽に訓練・演習を実施するためのポイントを解説します。2024年5月8日開催。
2024/05/09
-
-
炎上の原因はSNS上の振る舞いのみにあらず
新年度から仲間に加わった新入社員は「デジタルネイティブ」と呼ばれ、友人とSNS で交流するのがあたり前の世代です。が、学生時代と違い、社会人になれば取り巻く環境が変わり、自身の立場も変わる。うかつな投稿が「炎上」につながるケースは少なくありません。新人研修のテーマにSNSリスクを組み込むなどして教育を徹底したいところです。
2024/05/08
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年5月7日配信アーカイブ】
【5月7日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:令和5年度企業の事業継続及び防災に関する実態調査
2024/05/07
-
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方