【ロンドン時事】英国の首都ロンドンで8月29日から、排ガス基準に適合しない車に通行料を課す「超低排出ゾーン(ULEZ)」が市のほぼ全域に拡大される。現在は市中心部周辺に限られており、拡大後の面積は3倍となる計算だ。カーン市長は「大気汚染と気候危機、交通渋滞の三つの課題に取り組む」と意気込むが、新たに対象となる行政区などは「市民の負担増につながる」と反発、法廷闘争を仕掛けている。
 ULEZは、ジョンソン元首相が市長だった2015年に「世界初」の取り組みとして発表された。後任のカーン氏が引き継ぎ、19年4月に運用が始まった。通行料は日額12.5ポンド(約2300円)で、支払わなかった場合は最大180ポンド(約3万2800円)の罰金が科される。ガソリン車の場合、05年施行の欧州排ガス規制「ユーロ4」を満たしていない車両が対象。21年10月には市中心部を囲む環状道路の内側までゾーンが拡大された。
 ロンドン・マラソンのトレーニング中にぜんそくを発症した経験を持つカーン氏は「有害な大気汚染は生死の問題だ」と強調。現行のULEZ内に住む400万人に加え、「さらに500万人がよりきれいな空気を吸える」と拡大の意義を訴える。排ガス基準に満たない車の廃車費用を補助するほか、低所得者らへの適用に猶予期間を設けるといった負担軽減策も講じた。
 ただ、ゾーン拡大の影響を受ける五つの行政区・郡が計画差し止めを求めて高等法院に提訴するなど反発は強い。月内にも言い渡される司法判断によっては、計画が不透明になる可能性もある。今月20日にロンドン北西部の選挙区で行われた下院補選では、カーン氏が所属する労働党の候補が保守党候補に敗北。ULEZへの不満を反映した結果とみられている。 
〔写真説明〕「超低排出ゾーン(ULEZ)」の標識=4月、ロンドン(EPA時事)
〔写真説明〕「超低排出ゾーン(ULEZ)」拡大への反対運動=6月25日、ロンドン(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)