約10.5万人の死者・行方不明者を出した関東大震災から9月1日で100年を迎える。首都圏を襲った大災害は日本経済に混乱をもたらし、後の金融恐慌を招く一因となった。一方、現在の東京は政治、経済の中枢機能や人口が当時よりさらに集中。30年以内に70%の確率で首都直下地震が起こるとされる中、「波及的な影響のリスクを高める結果となっている」(2023年版防災白書)と懸念される。
 1923年の関東大震災では、首都圏で住宅約29万棟が全壊・全焼。内務省(当時)や警視庁庁舎も焼失するなど国家機能が一時まひした。建物などの直接被害額は約55億円と、当時の国民総生産(GNP)の約37%に相当。被害額が国内総生産(GDP)比で約2%だった95年の阪神大震災や、約3%だった2011年の東日本大震災と比べてもインパクトは大きかった。
 関東大震災後は「帝都復興計画」に基づく約3300ヘクタールもの区画整理事業で、現代の東京の「骨格」となる幹線道路や公園を整備するなど成果を挙げた。だが、被災企業救済のため発行した震災手形が不良債権化。4年後の金融恐慌につながるなど影響は長期に及んだ。
 一方、政府が13年に出した首都直下地震の被害想定では、死者数は最大約2.3万人、直接被害額は約47兆円に上ると推計。交通遮断や停電に伴う企業の生産・サービス低下でさらに約48兆円の経済被害が見込まれる。合計すると国家予算にも匹敵する規模だ。
 関西大学社会安全学部の永松伸吾教授は、仮に足元でこうした被害が起きた場合、復興需要も加わって「物価上昇と円安圧力がさらに大きくなることが予想される」と指摘。直ちに日本経済に壊滅的な影響が出るとは考えにくいとしつつも、「長期的な衰退傾向を加速させるだろう」と分析する。
 首都直下地震の影響が甚大となる背景にあるのは、東京へのヒト・モノ・カネの一極集中だ。関東大震災前に総人口の約13.7%だった東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の人口は、20年には約29.3%に拡大。コロナ禍で企業の中には地方移転する動きも見られたが、上場企業の5割は依然として都内に本社を置くのが実態だ。
 東京都は昨年改定した被害想定で、帰宅困難者が約453万人、避難者は約299万人にも達すると予想。都内の本社機能停止で企業の事業全体が停滞して倒産する恐れや、海外企業の日本撤退の可能性を挙げた。
 山梨大学地域防災・マネジメント研究センターの秦康範准教授は「日本のように特定の都市にすべてが集まるのは世界でも異常だ」と強調。直下地震で「国が傾きかねない」と語り、首都機能移転などリスク分散の必要性を訴える。 
〔写真説明〕東京・上野周辺を空から撮影(『東京市「東京震災録」』より)
〔写真説明〕現銀座4丁目交差点付近の焼け跡(『東京市「東京震災録」』より)
〔写真説明〕人々が行き交う銀座4丁目交差点=4月16日、東京都中央区

(ニュース提供元:時事通信社)