【ニューデリー時事】カナダで起きた宗教指導者殺害事件へのインド政府の関与を巡り、カナダとインドが互いの外交官を追放し、非難の応酬に発展した。インドでカナダへの渡航自粛要請が出されるなど、両国関係は急速に悪化している。
 「インド政府はこの問題に真剣に取り組む必要がある。インドを挑発したり、事態をエスカレートさせたりしたいわけではない」。19日、カナダのトルドー首相はインドとの対立先鋭化を望まない姿勢を強調した。しかし、問題はすぐに収まりそうにない。
 きっかけは18日、カナダ国籍のシーク教指導者ハルディープ・シン・ニジャール氏=当時(45)=が6月に西部バンクーバー郊外で射殺された事件にインド政府が関与した疑いがあるとトルドー氏が発言したことだった。
 すぐさまインド政府は「ばかげている」と否定する声明を発表。自国の外交官がカナダから追放されたことに対抗し、インド駐在のカナダ外交官の国外退去を命じた。20日にはインド人へのヘイトクライム(憎悪犯罪)が増えているとして、カナダ渡航を控えるよう注意喚起した。21日にはカナダ国民向けのビザ申請手続きを「追って通知があるまで」停止した。
 殺害されたニジャール氏は、シーク教徒の多いインド北部パンジャブ州を中心とする独立国「カリスタン」樹立を目指す運動を支持していたとされる。インド政府から「テロリスト」として指名手配されていた。
 カナダに居住するシーク教徒は約77万人。インドを除けば国別で最も多く、政治に対し一定の影響力を持つ。インドはかねて国の分裂につながりかねない動きに神経をとがらせてきた。
 インドで今月開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、トルドー氏はモディ首相に問題提起した一方、モディ氏はカナダ国内の「反インド的活動」への懸念を伝えた。議論は平行線をたどったとみられ、サミット後、インドメディアは両国間の自由貿易協定(FTA)交渉が「政治的問題」で凍結されたと報じた。
 一方、両国と関係が深い米国は難しい立場に立たされたようだ。インドに事件の捜査への協力を求めているが、近年の蜜月関係に亀裂が生じる可能性もある。ロイター通信によれば、カナダは米国と緊密に連携し、インド政府の関与を割り出した。 
〔写真説明〕カナダで殺害されたシーク教指導者を描いたポスター=19日、カナダ西部ブリティッシュコロンビア州サリー(AFP時事)
〔写真説明〕カナダのトルドー首相(左)とインドのモディ首相=2018年2月、ニューデリー(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)