能登半島地震で大きな被害を受けた石川県内で、建物の公費解体に必要な罹災(りさい)証明書の発行が思うように進んでいない。被害規模に比べて調査の人手が足りないためだが、七尾市では被災店舗の片付け中だった男性が死亡する事故も起きた。自費解体する住民も出ているほか、収入の途絶えた商店主からは「身動きが取れない」となりわい再建へ不安の声が聞かれた。
 自治体の調査で「半壊」以上と認定されると、公費による解体・撤去が可能となる。石川県によると、17市町での家屋被害は少なくとも6万7000棟余り。2月12日時点で罹災証明書の申請約5万5800件に対し、交付率は42.6%にとどまっている。
 街道沿いに国の登録有形文化財の建物などが複数立ち並ぶ七尾市の一本杉通り。婦人服と紳士服の2店舗を営む道下正樹さん(62)は、応急危険度判定でともに「立ち入り危険」とされた。紳士服店はショーウインドーが割れるなどして休業を余儀なくされている。
 1月5日に罹災証明書を申請したが、1カ月以上がたっても発行されないまま。公費で解体できない「一部損壊」となった場合は、別の建て替え方法を考えなければならず、「身動きが取れない。収入がないので早く営業したい」と焦りを募らせる。
 2月10日には、大きな被害を受けた近くの老舗しょうゆ店で片付け作業中の60代男性が、倒れたブロック塀の下敷きとなり亡くなった。道下さんは「証明書の発行が遅れて解体できないと、自力で片付けようとしてけがをする人が増えるのでは」と懸念する。
 「待っていては遅い」と語るのは、団体職員の40代男性だ。一本杉通りで70代の母親が住む木造住宅が倒壊し、1月9日に申請した。しかし隣家に倒れかかって危険と判断。2月上旬、交付を待たずに自費で解体した。
 各市町は県外自治体の応援を得て調査を進めているが、七尾市税務課の担当者は「申請件数が多く、倒壊した建物の調査や手続きが間に合っていない」と明かす。「調査を2月中にほぼ終え、3月以降は発行に注力したい」と話す。 
〔写真説明〕罹災(りさい)証明書の発行が進まず、先行きの不安を語る道下正樹さん=12日、石川県七尾市
〔写真説明〕罹災(りさい)証明書の発行が進まず、先行きの不安を語る道下正樹さん=12日、石川県七尾市

(ニュース提供元:時事通信社)