【ワシントン時事】日本などが議長国を務め、世界貿易機関(WTO)の有志国が参加する電子商取引交渉が困難に直面している。議論をけん引する米国が昨秋、IT規制論の高まりを背景に、国際的なデータ流通を促すルールへの支持を撤回し、一部の交渉が進まない状況に陥ったためだ。年内妥結を目指すが、先行きは見通しにくい。
 電子商取引交渉では、データの取り扱いや電子署名など、デジタル経済の共通ルール構築を目指す。月末にアラブ首長国連邦(UAE)で開かれるWTO閣僚会議でも議論される見込みだ。
 「データ自体が商品となり、価値を持つようになった。どのようなルールが必要なのか、考える必要がある」。米通商代表部(USTR)のタイ代表は2月中旬の講演で、方針転換の理由を話した。自身が利用する腕時計型端末を例に挙げ、「データが日々生み出され、誰かが管理し、商業利用している」と説明。人工知能(AI)などの普及で、データの持つ意味が変わったと訴えた。
 問題となっているのは、データの国外移転制限の禁止や、ソフトウエアの「ソースコード」(設計図)の開示要求の禁止など、データ流通への政府介入に歯止めをかける項目。多くのIT企業を抱える米国が積極的に進め、2019年に署名した日米デジタル貿易協定にも盛り込んだ。
 米国では近年、AIの急速な発展などを背景に、IT規制論が台頭。敵対国による軍事利用も懸念されている。米議会は、AI規制の法整備を検討している。USTRは昨秋、政府介入を防ぐ国際ルールが、国内の規制論議の足かせにならないようにする必要があると判断し、促進策への支持撤回を表明した。
 電子商取引交渉は19年に交渉が始まり、90カ国・地域が参加する。昨年末にサイバーセキュリティーや個人情報保護など13項目で実質妥結したが、そのほかは「異なるアプローチや機微が残るため、議論にはさらに多くの時間が必要だ」と指摘した。
 タイ代表は、交渉を続ける姿勢を示すが、IT規制への賛否は米国内で割れており、議論収束には時間がかかりそうだ。 

(ニュース提供元:時事通信社)