原発事故時の住民避難や被ばく防護策の在り方を示した原子力災害対策指針(防災指針)について、原子力規制委員会は見直しに向けた議論を始めた。ただ、能登半島地震で改めて課題が浮き彫りとなった、自然災害と原発事故の「複合災害」への具体的な対応については今回の検討対象には含まれない見通し。東京電力福島第1原発事故から13年を迎える中、専門家は「国の備えは不十分だ」と懸念を示している。
 東日本大震災と原発事故後、最大で約16万人が県内外へ避難した福島県。震災関連死は2343人と全体の6割を占めた。県は「事故に伴う遠方避難や、複数回の避難所移動などによる影響が大きい」と指摘する。
 事故後に作られた防災指針では、重大な事故が起きた場合、5キロ圏内の住民避難を優先し、5~30キロ圏内はまず自宅などに屋内退避するとしている。だが能登半島地震では退避先となるはずの家屋が多数倒壊。停止中だった北陸電力志賀原発周辺では、避難路となる国道や県道11本のうち7本が寸断されたほか、避難の目安となる放射線量を測るモニタリングポストが一部で測定不能となった。
 規制委は指針見直しの議論で、屋内退避の具体的な運用方法を指針に盛り込む方針だが、屋内退避自体の是非や避難時の課題などは対象としていない。山中伸介委員長は2月、「自然災害への防災はわれわれの範囲外だ。対応は各自治体で判断されることだと考えている」との考え方を示した。
 住民避難の具体的な手順や方法は、規制委の指針を基に内閣府が設置する地域ごとの協議会や自治体による避難計画で定められる。内閣府の担当者は「どの災害でも、家屋が倒壊した場合は近くの頑丈な指定避難所に移動する計画となっている」と説明。「原発事故が起きている中、屋外に長くとどまる状況は考えにくい」としている。
 東京大大学院の関谷直也教授(災害情報論)は「余震が何度も続く大規模地震では、耐震性の確認されない建物で屋内退避はできない」と指摘。「現実的にうまく行かない場合の方策を考えるのが災害対応だ。複合災害に対する現在の想定は不十分で、さらなる検討を進める必要がある」と述べた。 
〔写真説明〕記者会見する原子力規制委員会の山中伸介委員長=6日、東京都港区
〔写真説明〕北陸電力志賀原発=7日、石川県志賀町

(ニュース提供元:時事通信社)