【パリ時事】コロナ禍を教訓に、新たな感染症のパンデミック(世界的大流行)に備える体制づくりの議論が世界保健機関(WHO)で大詰めを迎えている。これまでの交渉で、WHOによる「緊急事態」宣言に先立って加盟国に早期行動を促す「警報」の導入案が浮上。ただ、資金・技術力に乏しい途上国への支援では協議が難航しており、5月27日からの「世界保健総会」までに合意できるかは不透明だ。
 WHOは、緊急事態宣言の手続きなどを定めた「国際保健規則」改正と、感染症の公平な予防・対策の実現に向けた「パンデミック条約」締結を目指している。こうした取り組みにネット上では「WHOは加盟国にロックダウン(都市封鎖)やワクチン接種を命じる」といったうわさが拡散。テドロスWHO事務局長は「偽情報やうそ、陰謀論だ」と全面否定する。
 予期せぬ感染症などが発生すると、WHO事務局長は加盟国の通報を基に、専門家の意見を踏まえて「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言するか検討してきた。規則改正案では、宣言を見送る場合でも「早期行動警報」を出し、パンデミックへの注意を喚起する方策が打ち出された。
 あいまいさが指摘されてきたパンデミックの定義については、当該国で「保健システムの対応能力を超えた」状況などと明記。その上で、緊急事態宣言の際は事務局長が「パンデミック緊急事態」に当たるかも判断するよう提案している。
 もっとも、早期警報には途上国を中心に「渡航制限につながりかねない」という慎重論がある。加盟国の規則履行を点検して順守につなげる制度創設や、途上国向け金融支援の仕組みも今月26日までの討議でまとまらなかった。「ムードはいい。(ゴールは)近くなった」(作業部会共同議長)とされ、各国は5月16日に折衝を再開する。
 一方、条約を巡る話し合いでは、ワクチン特許使用料の減免や、治療薬開発に不可欠な病原体情報の提供に対する見返りを求める途上国と、大手製薬会社を抱える日米や欧州などが対立。双方は溝を残したまま、今月29日から「延長戦」の交渉に臨む。 
〔写真説明〕世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長=18日、ワシントン(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)