出典:The Renewed View on Firefighting(火災防御の再検証)2018

これまで排煙方法における場所やタイミングなどについて、世界各国の消防局で賛否両論があった。大学の火災研究施設などもエビデンスベースで参加し、さまざまな議論がなされてきた。

このたび、オランダの消防科学研究所が発表した「The Renewed View on Firefighting (火災防御の再検証) 2018」によると、①屋根に垂直排煙のための開口部を作る、②窓やドア等を利用して、水平排煙のために閉じている開口部を破壊して作る、③人工的に排煙を促し、火災建物の屋内を通気すること―によって、火点への酸素の流入が促され、確実に火災が拡大することが実証されたという。

また、急性期の火災防御活動において、もっとも優先すべき重要なことは①「不換気(建物をできるだけ閉鎖しておく)」、②「迅速な放水による内部冷却」、③「火点への直接放水」であることも同時に発表された。

■The Renewed View on Firefighting(火災防御の再検証)2018
(※現在、翻訳中。11月中旬以降に完了予定)
https://www.ifv.nl/kennisplein/Documents/20180423-BA-The-Renewed-View-on-Firefighting.pdf

同論文では、新たな火災防御は、以下の5つの基本原理から成っている。

1.慌てて消防活動を開始せず、必ず、止まって、考えて、行動すること。
2. 建物外部から火点を確認して、まずは、外部からの消火を実行する。
3. 以下の3つがポイントになる:
 ①火点の位置は、特定できるか?
 ②火点は、外側から直接、放水消火できるか?
 ③十分に冷却できる室内容積か?

火点が外側から確認することができ、十分に冷却できる室内容積ならば、建物の外側から容易に消すことができる。

もし、この3つが可能でないならば、建物は開放炎上しており、部分的には倒壊状態に近いか、室内容積が広い建物であり、トランジショナルアタック(先制防御)は通用しないため、従来の無秩序に近い防御戦術をとらざるを得ない。
4. 通常、トランジショナルアタックを行う火災は、小規模の建築(例えば家または小さな部屋からなる建物)を防御するときで、十分な内部冷却ができる室内容積の建物である。
5. 潜在的な火災による発熱率を推定して、十分な火点エリアの室内冷却を行い可燃性ガスを減らす。


以上、すべての火災に通用するとは限らないが、この5つを熟知することが、火災現場活動における安全・迅速・確実な火災防御につながる。

タイムラインによる活動判断

一般住居の火災現場に到着した先着隊の決定は、最初の一線となるホースラインを引き伸ばす場所である。

火災対象物の正面玄関側から火災が発生した場合、開口部が入口ドアの近くで構造物に他の開口部がない場合、360度サイズアップによって、簡単に火点の位置を特定することができる。

また、開口部が限られて煙が排出していない状態、中性帯の視認状況、火点がその区画にあると判定された場合には、直接的で迅速な火災抑制、他の開口部を開けない確実な防御区画保持、防御予測などのトランジショナルアタック(先制防御)によって迅速に火災鎮圧に導くことが可能である。

下記のビデオシナリオでは、上記の開口部が特定されている火災シナリオにおけるトランジショナルアタック(先制防御)の具体的な防御手法を紹介している。特にビデオの0:46からの消火方法が参考になる。


Transitional attack with fire showing near the entry point.(出典:Vimeo)

開口部から火炎が吹き出した状態における先着隊のトランジショナルアタック(先制防御)の手順

1、最初の第1線を先着隊の現場到着から1分以内に伸ばして火点直近に放水体制を取る。
2、唯一の開口部の窓枠下、または、左右どちらかにできるだけ近づいた状態で低姿勢放水体制を取る。
3、開口部の中央に向かって、可能な限り鋭角(ほぼ垂直)方向に屋内冷却のための棒状注水(酸素流入予防のため)を開始。
4、内部の火煙の状態(色や匂い)、温度、煙のボリューム等を観察しながら、注水を継続し、もし、変化がない場合は、ノズルの向きや角度を変えて、より効果的な防御ターゲットを探す。
5、煙の色が白く変わり、火炎が窓から吹き出していない状態になったら、一旦、注水を止めて、TIC (Thermal Imaging Camera・サーモカメラ)等を用いて内部観察し、冷却状態を見る。
6、十分に火点が冷却されたのを確認したら、玄関などから屋内侵入し、内部の延焼状況を見ながら、セカンドホースラインを増やすなどの判断を行って、防御区画を行いながら要救助者などの検索を開始する。
※空気呼吸器は常に着装状態。


このビデオでは、消防における火災防御研究において、数々の現場経験者の体験に基づき、基礎的な戦術的考察を行っている。

その上で、消防隊がその任務を達成するために限られた人員と装備で何をどのようにするかを考えさせ、火災防御の効率性、有効性を高め、知識を増やすことを目的に実験を繰り返し、さまざまな火災現場におけるデータを集積し、建物の構造と形状、先着隊のタイムライン、後着隊とのコンビネーション防御など、実践的的な火災防御活動の考慮事項をパッケージ化している。

サイズアップ時の無線による現場到着報告について

CAN report(キャンレポート)と呼ばれるが、基本的に下記の3つの内容を360度サイズアップしながら報告する。

1.    The Conditions that can be observed,
現場覚知状況:
・報告している現場の場所
・建物階数、部屋数、用途
・火災の現状(火点の位置、可燃物の特定、煙の状態、延焼の有無等)
など
2.    The Actions you take or do not take, and
活動宣言
・活動の優先順位
・消火開始
・屋内冷却
・人命検索及び救助
・延焼防止
・外部からの放水中止
など
3. The Needs you have.
必要支援活動
・水圧やホースラインの増加
・後着隊への活動指示
・追加装備指示
・開口部の破壊抑制指示
・無線チャンネルの変更
など

火災防御はできるだけシンプルに考え、また、できるだけ、カタカナや英語を使わずに、日本語で教え、研究した方が多くの消防隊員に伝わりやすいのではないかと思う。

トランジショナルアタック(先制防御)は、ほとんどの先進国の消防学校で、入校してすぐにその火災防御理論と実戦訓練がカリキュラムとして行われるほど、基礎的なものである。

ただ、すでに現場に出ている消防隊員は、どの国でも今まで先輩達が教えてきた戦術や理論を受け継がねばならず、「今更だけど、今までやってきた事って間違いなんだって」とは言えない状況下にある場合が多い。

また、教え方も部分的な消火手法だけを教えるのではなく、火災現場活動における全体的な活動の流れをパッケージ的に教えた方がわかりやすいのではないかと思う。

消防装備にAIが取り入れられる時代、「火災は科学で防御する(The fire defends it in science)」と言われているとおり、消火設備付き防犯監視カメラが発明され、火災の熱を感知し、数秒もかからず、消火に必要な水や放水角度などを計算し、初期消火してしまう複合用途設備も開発されようとしている。

さらに、その一部始終を録画し、通報し、放火犯に対しては顔認識し、警告を発したり、行方を追ったりするようになることも夢ではない。

昔に比べて、さまざまな消火技術のエビデンス認証レベルが高まっているなか、日本の消防学校のカリキュラムも教科書も訓練施設や訓練手法もすべて具体的にアップデートする時期に来ていると言う声を多くの学校教官から耳にする。

すぐに頭を切り換えて訓練カリキュラム化することは難しいかもしれないが、まず、小隊長レベルから、新しい考え方を少しずつ受け入れて、具体的な火災防御活動手法や手順を隊員達に身につけさせ、次の火災に備えていただきたいと心から思う。

11月21日(水)、静岡県消防学校の警防課程において、午前中3時限「火災防御訓練のためのシナリオ作成ワークショップ〜親シナリオと子シナリオの作り方」、午後4時限「火災防御のタイムラインと現場無線交信要領ワークショップ」を行うことになった。

内容は下記の予定。

「これからの火災防御訓練の手法と準備」火災防御訓練のためのシナリオ作成ワークショップ〜親シナリオと子シナリオの作り方
概要:基本的な火災防御訓練に必要なコンセプトを相互確認後、机上・図上訓練に生かすための現実的な火災防御のシナリオ作成を親シナリオと子シナリオ(付加想定)に分けて行い、最終的に班ごとに作成したシナリオと付加想定を発表&評価し、参加者全員がすべての成果物を各所属に持ち帰り、訓練に生かすことができる。

1時限目:最新の火災防御手法の動向と消火の科学についてなど
2時限目:火災防御訓練の効果的なシナリオ作りとゴール設定
3時限目:グループワークによるシナリオ発表と相互評価

「火災防御のタイムラインと現場無線交信要領ワークショップ」
概要:参加者の8人程度が訓練実施者、その他の参加者が訓練評価者となり、訓練評価は火災防御のタイムライン資料を用いて加点式で行う。

また、評価者のうち3名はホワイトボードにクロノロジー(時系列)で、入電時からの無線による発話の時間と内容を記録する。

活動隊員は、各班で指揮車、ポンプ車2台、救急車、はしご車、救助車、消防団などに活動担当を決め、火災防御のタイムライン資料を用いて、入電時から〜火災現場に出動途上〜火災現場到着〜現場活動開始〜各隊の消防活動〜引き上げまでを発話しながら進める。

最初に先着隊小隊長が、出動途上における黒煙の覚知や道路状況、煙の方向など、各隊に提供する必要がある現場情報を実際に無線機を用いて発話し、航空写真地図と消防車のミニカー6台を用いて、現場活動判断&指揮要領等、人命救助手順、消火手順、延焼防止手順をすべての活動隊員が無線で発話しながら、相互の現場活動を確認しながら、火災鎮滅までを15分程度で、できる限り行う。

1時限目:火災防御のタイムラインの説明と活動手順&根拠について
2時限目:火災防御のタイムライン訓練実施
     各15分訓練&評価後、活動隊員の振り返りと評価者からの
     加点評価発表等15分 計30分x2回
3時限目:火災防御のタイムライン訓練実施
     各15分訓練&評価後、活動隊員の振り返りと評価者からの
     加点評価発表等15分 計30分x2回
4時限目:火災防御のタイムライン訓練実施
     各15分訓練&評価後、活動隊員の振り返りと評価者からの
     加点評価発表等15分 計30分x1回
     全体講評 30分 フリーディスカッション

なお、訓練の様子や成果物はすべて動画・静止画の撮影&コンテンツのコピーなど活用可。

もし、上記と同じ内容の訓練を所属消防本部、消防団&消防隊等署団合同訓練等で、受講されたい研修企画担当者は、下記のメールアドレスまでご連絡いただきたい。

以下、関連記事:
■火災防御のタイムラインについて。Time is Life (時は命なり)~火災防御は時間との闘い~
http://www.risktaisaku.com/articles/-/10196

■5つのFBI (Fire Behavior Indicators=火災対応指標)を覚えよう!~より具体的な火災図上訓練の手法について~
http://www.risktaisaku.com/articles/-/3949

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
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