3.組織・人事施策の問題
福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)の報告書は、「この事故が人災の性格を色濃く帯びている(中略)人災の本質は東京電力の備えにおける組織的怠慢にある」 と断じています。さらに 「今回の 事故とその後の対応を見る時、東京電力は責任感を 著しく欠いていると言わざるを得ない」 とも述べています。東京電力福島原子力発電所における事故調 査・検証委員会の中間報告書でも、 「原子力の災害 対応当たる関係機関や関係者、原子力発電所の管理 ・ 運営に当たる人々の間で、全体像を俯瞰する視点が希薄であったことは否めない」 と述べています。  

一方、日本銀行決済機構局の「東日本大震災におけるわが国決済システム・金融機関の対応」には、 MHBKの事故について「当該障害は、今回の地震や津波に直接起因するものではないが、義援金が一部口座に大量に集中し、その後の対処ミスとあいまって障害を大規模にしたと報告されている」と記述されています。  

みずほ銀行のシステム障害特別調査委員会報告書でも「システム障害発生前および発生後間もない時期の担当者による基本的な過誤(例えば、リミット値の認識不十分、システム全体の理解不足、これらによる回復作業時間見積りの誤りや DJS〈バッチ の日替わり処理〉切替等の判断の誤り等)によるところが大きいものと認められる。しかしながら、さらに、このような基本的過誤をもたらし障害の影響を拡大させた原因を検討すると、システム機能上の 不備、未然防止に至らなかったシステムリスク管理態勢上の不備、 復旧対応における緊急時態勢の不備、 人材の育成・配置の遺漏並びに経営管理および監査の不備等が指摘され(後略) 」とし、さらに「一連 の障害を通じて、システム全体を俯瞰でき、かつ、 多重障害の陣頭指揮を執り得るマネジメントの人材 も不足していたといえよう」と言っています。  

いずれの場合も、事故発生後の対応について経営者および社員のリスクマネジメントや BCP、危機 管理に関する教育や訓練の不足、人材の育成の不十分さを指摘しているのです。

共通する問題点は、企業・官庁の組織において、 広域の壊滅的災害および複合災害に対する備えと、 人材の育成が不十分であったということです。    

この原因としては、企業の経営者を含むトップにおけるリスク管理に対する理解の不足、さらには官庁・大企業の人事政策が、主としてゼネラリストの養成に重点が置かれていたことが考えられます。  

私は約 25 年間リスクマネジメントにかかわってきて痛感することは、中小企業のみならず、大企業でも(なおさら)リスクマネジメントの実行に当たり、技術論が先行し、経営的視点(全体像を俯瞰する視点とも言えます)が不足していることです。これは現在多くの経営者にリスクマネジメントの本質に対する理解が不足している結果であり、官庁・大企業の人事政策が高度の専門家を官庁・大企業内で育成するシステムになっていないことが問題です。 わが国の人材育成計画を根本的に再検討すべきではないでしょうか。  

東日本大震災の教訓の最大のものは、 わが国官庁 ・ 大企業の危機管理能力の限界・問題点が明らかになったことです。想定外の議論や、安全神話のような議論に惑わされず、リスクを直視してリスクマネジメントや危機管理を実行すべきだと思います。