2019/02/13
インタビュー
人口減少や都市圏への人口集中により、全国で増え続ける空き家。「古い家は冬寒い」と現代の住まい手からは敬遠されることが多いなか、「暮らしかた冒険家」の伊藤菜衣子さんは、北海道札幌市にある築32年のご実家を「断熱リノベーション」することで、現代の平均的な新築住宅を上回る高い断熱性をもつ住宅に蘇らせた。2016年9月の入居から3回目の冬。当サイト連載でお馴染みのアウトドア防災ガイド・あんどうりすさんとともに札幌市の伊藤さん邸を訪ねた。
古民家からエコハウスへの再移住
あんどう(以下あ): 札幌市の(2018年)11月30日午後2時過ぎ。外の気温はほぼ0℃と冷たいですが、このリビングは驚くほど暖かいですね。
伊藤(以下伊): いま室温が21.7℃。リビング南側窓が21.3℃です。このまま日が暮れても、窓際のテーブルで過ごしても冷気を感じません。冬の室内で「寒さ」という不快感を持つことが極端に減っていく、という感覚です。
断熱性が高いので、冬は常時8畳用のエアコンを弱モードで運転させながら、冷え込む朝晩に薪ストーブで薪5~7本くらい入れて1時間ほど暖めています。それでも電気代は真冬の1月でエアコンと他の家電・照明をあわせても1万5000円ぐらい。冬の北海道で8畳用エアコン1台であたたまる家ってすごいな、と改めて思います。
あ:2011年3月は東京で暮らされていたんですよね。
伊:そうですね。東日本大震災をきっかけに、それまで何不自由なく暮らすことに違和感を持つようになり、自分の暮らしがどう成り立っているのかをゼロから確かめたくて、熊本に引っ越しました。
熊本では築100年を超える、廃墟のような古民家を借りて、DIYでリノベーションして暮らしました。冬の暖房は薪ストーブ1台のみ。これが想像を超える寒さでした。どれだけ節約しても1日50本分くらいの薪を使っているのに、暖まるのは(ストーブに近い)背中だけで、室内が全然暖まらない。「もったいないから暖房は最小限に」と、「毎日我慢して生活したくない」という想いがいつも対立していました。
熊本の古民家があまりに寒かったので、次第に「冬暖かい家」にアンテナが張り巡らされるようになったんですね。そうしたら、フェイスブックで知り合いの建築家で東北芸術工科大学教授でもある竹内昌義さんが手がけた「山形エコハウス」という高断熱高気密のモデルハウスがあって、それがすごいらしいということを知りました。実際に見せてもらいに行って感動したことが、現在の家づくりの始まりです。当日はこのモデルハウスとともに、同等性能で建てられた住宅など4軒を実際に見学させてもらいました。
山形では体感したエコハウスの心地よさに驚くとともに、この家の薪の消費量が、当時熊本の古民家の3分の1だったことが衝撃でした。そして実際にエコハウスに暮らす奥さんが何とも穏やかだったことも、当時の私に強烈な印象に残りましたね。
東日本大震災直後の数日間、山形エコハウスに皆が集まってコーヒーをいれているだけで、暖房がなくても十分暖かく過ごせたということも聞きました。3月といえばまだ外は雪が降って、毎朝布団から出られない季節。災害時にそんなに優雅に過ごせる。
防災は100%あるかわからないことに対する備えだから、そのために日常を犠牲にできない、というのも確かです。でも山形のエコハウスでは、それを何の無理もせず日常と災害時に同時にメリットをもたらしてくれる。このことにすごく可能性を感じ、私は「エコハウスしかない」と確信するようになったのです。
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