2019/03/13
講演録
2011年3月11日の東日本大震災で、福島第一原子力発電所と同様に地震・津波の被害を受けながらも、炉心損傷に至ることなく全号機の冷温停止を達成した福島第二原子力発電所。現場指揮にあたったのが当時所長だった増田尚宏氏だ(現日本原燃株式会社 社長)。危機的な状況の中でも落ち着いて的確に現場をまとめあげたリーダーシップは海外でも評価され、ハーバード・ビジネス・スクールの授業でも取り上げられているという。その増田氏が当時を振り返った。
少し前に遡りますが、2007年に起きた中越沖地震では、地震により中央制御室の照明用のルーバーが落ちたり、置いてあった荷物が散乱したりしました。そこで福島第二では、物が動いたり、落ちたりしないようにすることは徹底していました。運転員が、揺れているときでも操作できるように手すりも付けていました。正直なところ、当時私は、原子力発電所なんて、揺れに一番強く造っているわけですから、そんなことやらなくていいと思っていたのですが、3.11を経験して、本当にやっておいてよかったと思いました。実際、所員もこれをやっていたおかげで安心して操作できたと言ってくれましたし、ちょっとしたことですが、わずかな改善でも地道にやっておくことが大事だと思いました。
結果的に第二も大きな被害を受けたわけですが、津波は日本海溝の形に合わせて福島第二に3時半頃、そして福島第一にその直後に到達しました。今写真を見ると、道路もがれきで見分けがつかないような状態だったことがわかります。
押し波の威力
当初、気象庁の発表は、津波の高さが3メートルと言っていました。
原子力発電をやっている人間からすると、津波は、引き波になると、冷やすための海水がなくなり、とてもきつい状況になるので、どちらかというと引き波が大事だというのが常識とされていました。しかし、3.11では、引き波よりも、海から押し上げてくる波の力が強く、道路などをつたって、がれきと一緒にどんどん波が押し寄せてきて、ドアを変形させ、ドアから内部にまで水が入りこみました。4~5メートルの水位なら、中に水は入らないので大丈夫だと思っていましたが、実際に来た津波は、海抜12メートルエリアに建っている3階建ての建物の1階部分まで被害がおよび、海抜にして15~17メートル程度まで津波が遡上したのです。
原子力発電所は、電気が使えなくなると、すぐにディーゼル発電機が立ち上がります。写真を見ると、最初は排煙が出ているのが確認できます。ですから、おそらく最初は発電機が立ち上がったにもかかわらず、その後、海水でやられてしまったのだと思います。
駐車場の車もすべて流されました。テレビカメラを見ていたら、消防車が移動していたので、運転して動かしたんだと思ったら、津波で流されて使い物にならなくなっていました。
夜10時、余震が収まった状況を見計らって、真っ暗な中でしたが、現場に行ってくれという指示をしたのです。実際は、こんな瓦礫だらけの状況だとは思っていなくて、真っ暗だとは思いましたが、津波が来て波に洗われた場所に皆に行ってもらうという感覚でした。現場に行った作業員からは、事故後、数カ月たっても「二度とあんな場所には行きませんよ」と言われたほどです。ただ、あの時、彼らが行ってくれたおかげで、我々は助かったのです。
前後しますが、地震の直後に停電して真っ暗になったとき、一人の所員がすかさず懐中電灯を1個持ってきて、私の席のところだけを灯してくれました。それが事故対応のスタートです。そんな状況の中で、冷やす機能がなくなったという報告を受けました。
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年3月19日配信アーカイブ】
【3月19日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:副業・兼業のリスク
2024/03/19
-
リスク担当者も押さえておきたいサイバーセキュリティ対策の最新動向
本勉強会では、クラウド対応のサイバーセキュリティ対策の動向を、簡単にわかりやすく具体的なソリューションの内容を交えながら解説します。2024年3月8日開催。
2024/03/18
-
発災20分で対策本部をスタートする初動体制
総合スーパーやショッピングモールなど全国各地のイオン系列の施設を中心に設備管理、警備、清掃をはじめとしたファシリティマネジメント事業を展開するイオンディライト(東京都千代田区、濵田和成社長)。元日に発生した能登半島地震では、発災から20分後にオンラインの本社災害対策本部を立ち上げ、翌2日は現地に応援部隊を派遣し、被害状況の把握と復旧活動の支援を開始しました。
2024/03/18
-
-
能登半島地震における企業の対応レジリエンスの実現に向けて
能登半島地震で企業の防災・BCPの何が機能し、何が機能しなかったのか。突きつけられた課題は何か。復興に向けどのような視点が求められるのか。能登で起きたことを検証し、教訓を今後のレジリエンスに生かすため、リスク対策.comがこの2カ月の取材から企業の対応を整理しました。2024年3月11日開催。
2024/03/12
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年3月12日配信アーカイブ】
【3月12日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:東日本大震災 企業のハンズオン支援
2024/03/12
-
-
-
能登の復興は日本のこれからを問いかける
半島奥地、地すべり地、過疎高齢化などの条件が、能登半島地震の被害を拡大したとされています。しかし、そもそも日本の生活基盤は地域の地形と風土の上に築かれ、その基盤が過疎高齢化で揺らいでいるのは全国共通。金沢大学准教授で石川県防災会議震災対策部会委員を務める青木賢人氏に、被害に影響を与えた能登の特性と今後の復興について聞きました。
2024/03/10
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方