2019/09/24
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
サイバー事故は顧客獲得にも影響
この問題意識がより具体的に現れているのが図1である。「C-Suite」とはCEO、CFO、COO、CIOなど、経営を司っている責任者の総称である。サイバーセキュリティ事故によって、回答したC-Suiteのうち48%が自社が新たな顧客を獲得する能力が損なわれ51%が自社のレピュテーションが損なわれたと答えている。
また図2は、誰の意見(または認識)が組織のセキュリティに関する意思決定に最も影響を及ぼしているかという問いに対する回答の結果である。調査においては各選択肢に順位をつけて答えさせたようであり、図中の緑色の部分は、その選択肢を1位か2位に位置づけた回答者の割合を示している。
まずトップに役員や取締役が来るのは当然として、本報告書では顧客や協業相手、および規制当局が重要な位置を占めており、これらが部門長(Line-of-business leaders)と同等以上の影響力を持つとみなされている点に着目している。
しかしながら顧客や協業相手に対しては、内部情報を直接示してコミュニケーションをとることができないため、現在の自組織のセキュリティの現状を説明することが困難である。したがってセキュリティ能力を測定し、具体的なデータを社外に示せるようにすることが重要になるのであろう。
本報告書ではセキュリティ能力を測定する具体的な手法については特に触れられておらず、恐らくForrester Consulting社かBitSight社が彼らのビジネスとしてそのような手法を提供しているのだと思われるが、セキュリティ能力の測定のしかたを改善することによって回答者が期待している効果が図3のように示されている。
なお図3に「Improved SPM」と書かれているが、ここでのSPMは文脈上「Security Performance Management」の略ではなく「Security Performance Measurement」の略であることに注意されたい。
セキュリティ能力の測定のしかたを改善することによって、自社のセキュリティプログラムに対する役員や取締役からの信頼が高まることが期待されるのは当然といえる。しかしながら同様に事業継続、従業員や顧客のプライバシーと安全、レピュテーションにおいても改善が期待されていることが示されている。
これは見方を変えれば、情報セキュリティがサイバーセキュリティ事故やプライバシーだけでなく、事業継続やレピュテーションなども含めて広範囲に影響をおよぼすということが認識されていることの現れであると言えよう。
本報告書ではこれら以外にも、セキュリティ能力の測定がセキュリティプログラムの効率向上や予算獲得に寄与するといった興味深いデータもあり、セキュリティ能力マネジメントがどのようにビジネスに寄与するかを示すことが試みられている。情報セキュリティ対策に問題意識を持たれている読者の皆様にご一読をお勧めしたい。
■ 報告書本文の入手先(PDF16ページ/約0.4MB)
https://info.bitsight.com/forrester-study-security-performance-management
注1) 市場調査会社であるForrester Research社(https://forrester.com/)の子会社である。
注2) 筆者が「security performance management」でGoogleにて検索したところ、Forrester Research社とBitSight社のWebサイトしかマッチしなかったので、彼らが独自に提唱している概念かもしれない。もし一般的に用いられている適切な訳語があれば、ご教示いただければ幸いである。
注3)調査にあたっては恐らく同社の顧客など取引先に回答を依頼していると思われる。ちなみに本報告書の Appendix A(調査手法の説明)に、回答者に対して若干の謝礼(small monetary incentive)が支払われているとの記載がある。
(了)
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