ニュートン・コンサルティング株式会社 代表取締役社長 副島一也

2012年ロンドンオリンピックの危機管理の取材に続き、今回はリオデジャネイロオリンピックの取材に同行させていただきました。前回のロンドン大会はオリンピック開催の約1カ月前のタイミングで現地に入りましたが、今回はリオオリンピック・パラリンピックが閉会した1週間後にリオに入りました。

リオ2016オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(リオ2016組織委員会)の建屋の中は既に撤収が始まっており、人も日に日に少なくなっていく最中に、大会までの備えや、開催期間中に実際どんなことが起きたのかなど多くのことを聞くことができました。ロンドン大会のことも思い起こしながら今回の取材を振り返ってみたいと思います。

多くの観光客が行き交う海岸沿いの道路

ロンドンオリンピック危機管理

ロンドンオリンピックでは、あらゆるリスクが想定されていたように思います。例えば、脆弱な交通システムへの対策。地下鉄は小さな車両で、冷房は無く、よく止まります。ロンドン市内の道路はいつも渋滞しています。その他にも、テロやサイバー攻撃の危険も高まる一方で、水害、停電、インターネット回線故障なども少なくありません。そんな中でイギリス政府や組織委員会では、一般市民向けに、地下鉄のあらゆる場所に「大会開催中に別ルートを用意しよう」というポスターを掲げ、企業に対しては「できるだけ休暇を取って活動を抑制しよう、BCPを用意しておこう」と呼びかけていました。

その効果があってか、大会開催中、ロンドン市内の混雑は思った以上に緩和されました。チケットが売り切れだったはずの観客席は満席にならず、何倍にも価格が上がったはずのホテルも通常料金で泊まれるところが散見されました。繁華街のウエストエンド地区においては、レストランの売り上げが平常時を下回った店も多いと聞きました。

イギリスでは地下鉄を改修するのは構造的にも財政的にも現実的ではないとされています。だからこそ、政府や組織委員会では今の状況が変わらないことを前提に、個人の責任として、別ルートを考えることなどを呼びかけ、市民もまた、それを受け入れたのでしょう。その点、日本では、国や主催者が過重な責任を求められる傾向が強いように思います。

そうした中である一定の評価をするならば、全く個人的な意見ですが、危機管理は適切になされたと思います。ただし、安全が守られる一方で、国内外からの観客を最大化し、ビジネスを最大化することには苦戦したと言わざるを得ないのではないでしょうか。

課題が山積したリオデジャネイロ

さて、リオですが、いざ行くとなると、多くの知人に「大丈夫か、危険だぞ」と散々言われました。確かに日々、各地で起きる銃撃戦や、犯罪リストの内容は事実だし、気を付けなければならない場所に違いはありません。

しかしながら、いざ現地に行ってみると、ラテン系のフレンドリーな人々が温かく迎えてくれる観光地であり、世界中から多くの人がやって来て楽しんでいます。十分に安全とは言えませんが、渡航前に刷り込まれたリオのイメージは今思えば風評被害とも言えるレベルで、そのために、多くの日本人、もしくは同様に他の国の人々がリオへの渡航を断念することにつながっているのは残念と感じたことは最初に申し上げておきます。

真っ白な砂浜が広がるイパネマのビーチ