2020/01/07
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
長期的な取り組みが必要
本報告書では、海面上昇の影響によってこのような被害が発生しうるという前提のもとで、州議会に対する政策提言がまとめられている。しかしながら、海岸沿いにある土地や施設などの多くは私有か、もしくは地方自治体が所有・管理しているものであり、また土地の用途に関する方針や計画を決めているのも地方自治体である。したがって、海面上昇への適応策も本来は沿岸の地方自治体が主体となって進められるべきものであり、州が直接的に実施できる施策は限定的となる。したがって本報告書はこのような前提をふまえ、地方自治体による適応策を州がいかに後押しすべきか、という観点でまとめられており、この姿勢が本報告書の副題でも示されている(注5)。
上のような方針に基づいて、本報告書の結論としてまとめられている提言は次の 4 項目である。
1) 地域規模での適応を促進(foster)する
・気候変動の影響にどのように対応するかという問題に関して、共同で計画を立案したり、お互いに学び合ったりするような、地域における気候変動への適応に関する協調的なグループを設立し、支援する。
・海面上昇がその地域に引き起こす主要なリスクに取り組むための沿岸での適応計画や戦略の開発を奨励する。
・地域における計画で特定されているプロジェクトを構成するための資金拠出によって、(海面上昇への)適応のための、地域における取り組みの導入を支援する。
2) 現地での計画づくりや適応のためのプロジェクトをサポートする
・脆弱性のアセスメントや、適応計画、および特定されたプロジェクトに関する詳細計画を実施するための、市や郡に対する援助を増やす。
・沿岸での適応プロジェクトを、新しい手法の試行、公共資源の保護、重要なインフラに対するダメージの低減、脆弱なコミュニティにおけるニーズに関する注意喚起など、幅広い援助によってサポートする。
・どのような適応戦略が効果的かを学ぶために、州が資金拠出した実証プロジェクトに対する、実施後のモニタリングを促進する。
3) 情報、援助(assistance)、および支援(support)を提供する
・地方自治体に対して、気候変動の影響への適応に関する技術的なサポートや情報を提供するための「カリフォルニア気候適応センター」と「地域サポートネットワーク」を設立する。
・海面上昇のリスクや適応戦略に関する経済的な分析を行う際に地方自治体が活用できるような、標準的な方法論およびテンプレートを開発する。
・カリフォルニア天然資源省(California Natural Resources Agency)に対して、許認可プロセスがより効率的になるかどうか、レビューおよび報告を行うよう指示する。
4) 海面上昇に関するリスクとその影響に対する一般市民の認識を高める
・海面上昇に関する一般の認識を広め、沿岸部の物件を購入する際にカリフォルニア住民がリスク情報に基づいて判断できるように、不動産取引における、沿岸部の洪水に関する情報開示を要求する。
・州が資金拠出を行った適応計画およびプロジェクトに対して、海面上昇に関する社会の認識向上を促進し、適応のためのステップを受け入れることへの理解を促すことを要求する。
・一般の方々が適応のための行動を起こすことの切迫性を訴えるために、海面上昇によって引き起こされる脅威に関する認識向上キャンペーンを実施するよう、州政府(departments)に指示する。
一般論として、気候変動による影響はその進行が長期間にわたって徐々に進行していくため、その影響や脅威の深刻さが分かりにくく、かつ気候変動への適応に関連する事業においては長期的な取り組みが必要となる。したがって政府や地方自治体をはじめとして単年度会計を基本とする組織では、気候変動への適応に関する事業の予算化やその結果に対する評価が行いにくい場合が多いであろう。このような分野に関して、地方自治体に対して州がバックアップすることの必要性を訴える本報告書は有意義であり、カリフォルニア州に限らず多くの沿岸地域、および沿岸部に多くの地方自治体を抱える日本政府にとっても、多くの示唆が得られるのではないかと思われる。
■ 報告書本文の入手先(PDF 48 ページ/約 0.9 MB)
https://lao.ca.gov/Publications/Report/4121
注 1) 原文では「local government」と書かれており、州より小さい群や市を指す。
注 2) これらの数値には、例えば西南極氷床の氷が溶けるといった極端な現象が発生した場合の影響は考慮されていない。したがって状況によってはこれらを上回る海面上昇が発生する可能性がある。
注 3) 恐らく Web サイト上だと図が小さくて分かりにくいと思われるので、詳しくご覧になりたい方は本報告書をダウンロードしてご覧いただきたい。
注 4) 本報告暑中では言及されていないが、サンフランシスコ国際空港(オークランド国際空港の対岸にある)も全体的に水没すると予測されていることが図2 から読み取れる。
注 5) 本報告書の副題は「How the State Can Help Support Local Coastal Adaptation Efforts」(州はどのように(個々の)地域における(海面上昇への)適応のための努力を支援できるか)となっている。
(了)
- keyword
- 世界のレジリエンス調査研究ナナメ読み
- 気候変動
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
-
情報セキュリティーは個人のリスク目線では通用しない
学生時代からパソコンを使いこなしてきた人が新入社員に多くいる昨今ですが、当然、個人と会社ではセキュリティーの重心が違います。また、人事異動で新たに着任した社員も、業務が変われば情報資産との関わり方が変わり、以前と同じ意識でのぞめばよいとは限りません。新年度にあたり、情報セキュリティーのルールは特に徹底したいところです。
2024/05/10
-
-
サイバーインシデント対応の基本知識と準備
本勉強会では、一般的な情報セキュリティインシデントとサイバーインシデントの違いや、その初動対応について事前に準備すべきことと合わせて、自社で手軽に訓練・演習を実施するためのポイントを解説します。2024年5月8日開催。
2024/05/09
-
-
炎上の原因はSNS上の振る舞いのみにあらず
新年度から仲間に加わった新入社員は「デジタルネイティブ」と呼ばれ、友人とSNS で交流するのがあたり前の世代です。が、学生時代と違い、社会人になれば取り巻く環境が変わり、自身の立場も変わる。うかつな投稿が「炎上」につながるケースは少なくありません。新人研修のテーマにSNSリスクを組み込むなどして教育を徹底したいところです。
2024/05/08
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年5月7日配信アーカイブ】
【5月7日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:令和5年度企業の事業継続及び防災に関する実態調査
2024/05/07
-
-
-
家庭の防災は企業BCPとつながっている
昨今は社員の自主防災力向上に努めている企業も多いでしょう。この時期は災害時のルール周知に余念がないと思いますが、ポイントとして提案したいのが、家庭の防災と企業BCP のつながりをしっかり伝えること。「家庭と会社は別」と考えがちですが、家庭の防災力を上げないと企業の事業継続力も上がりません。メッセージを出すよいタイミングです。
2024/05/02
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方