2013年に発生したボストンマラソン爆弾テロ事件 (画像出典:wikipedia)

第7章では市民レベルの捜索救助活動として、救助者の安全第一を考えた捜索救助活動に焦点を当て、正しい現場のサイズアップ(活動判断)方法や捜索救助活動を実施する上での引き際や技術について解説した。

■【第7章】 市民レベルの捜索・救助活動(前編)
的確な状況判断能力を養い、知識と技術を習得することが重要
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2832

■【第7章】 市民レベルの捜索・救助活動 (後編)
救出成功のための目的と戦術を考える
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2875

今回の連載は危険物災害やテロ災害について寄稿する。まず前編は、一般市民レベルでどのように危険物テロ災害を認識すればよいのかを中心に解説する。

最近では、毎日のように爆弾テロであるとか、北朝鮮のミサイル発射が報道されているが、人為的なテロ活動の話題以前に、テロリストの武器としても使用されている危険物についての解説から始めよう。

今日、危険物はビジネス、工業、消費など、あらゆる場面で日常生活と切っても切り離せない密接な関係にあり、毎日のように膨大な数と量の危険物が生産され、貯蔵され、輸送され、使用されている。それらの物質は我々の生活の質の向上に貢献していると同時に、生命や環境に対して大きなリスクを抱えていることも忘れてはならない。総務省消防庁の発表によると、2015年度中に発生した危険物事故(危険物施設、無許可施設、危険物運搬中および仮貯蔵・仮取扱い中の火災および流出事故)は国内だけでも783件に上り、近代化に伴う新しい災害の形として定着化してきている。 

また3年後に迫った2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、テロに対する警戒とその準備は今や避けられない状況にある。これらの問題はプロのレスポンダーだけに限った話ではなく、一般市民レベルでもしっかりと認識した上で、それらに対する教育訓練と準備が必要になってくるのだ。なぜならば、テロの標的になりやすいのは次項で掲げられている事業所や施設に従事している従業員や通勤途中、あるいはオリンピックなどのイベントを観戦している一般市民なのだ。

実際、米国では全米防火協会(NFPA)が2008年にNFPA472(危険物/大量破壊兵器災害対応要員能力適正基準)を改訂し、入門編のアウェアネス(認識)レベルではその対象者を一般市民にまで広げ、教育訓練を始めている。 

地下鉄サリン事件やその他多くのテロ事案でもターゲットと犠牲者の多くが民間人であった(2011年から2013年の3年間で発生した即製爆弾によるテロ事案だけでも、死傷者数は6万人を越え、そのうちの81%が民間人であった)。危険物/テロ災害は一般市民・従業員にとって、もはや他人事(ひとごと)では済まされない問題なのである。筆者は皆が早くこのことに気付いて欲しいと強く願いながら、本章を執筆している。

【危険物とテロの定義】

読者の中には危険物災害とテロ災害は別のカテゴリーではないのか?との疑問を感じている方がいるかもしれないが、たとえ発生した事案が単なる事故であれ、あるいは故意的に行われた攻撃であれ、対応する側の視点から見れば、対応の基本的な概念やプロセスは同じなのだ。つまり危険物災害に適切に対応することができなければ、テロ災害にも対応することができないということである。

いわゆるテロ災害対応の登龍門が危険物災害対応と位置付けるとご理解頂けるだろうか。また最近のテロの傾向として、攻撃に使用する武器は工業(産業)用の化学剤などが使用される可能性も高まってきていることなども含め、危険物災害とテロ災害を同じ角度で検証し、その対応策を考えなければならないのだ。

■危険物とは

消防法第2条第7項では危険物を定義しているが、その他にも毒物および劇物取締法、高圧ガス保安法、労働安全衛生法、化審法、火薬類取締法、危険物船舶運送および貯蔵規則・船舶による危険物の運送基準等を定める告示・航空法施行規則航空機による爆発物等の輸送基準を定める告示・航空機による放射性物質等の輸送基準を定める告示・建築基準法施行令などによっても、それぞれ危険物の定義がなされ規制されている。