2020/08/24
グローバルスタンダードな企業保険活用入門
役員賠償、雇用慣行賠償、犯罪被害補償、専門職業賠償
雇用慣行賠償責任保険(EPL)
EPLは、雇用に関わる損害賠償責任を補償する保険です。
昨今のテレワークの増加や働き方改革により、従業員の意識も変化してきており、ひとたびボタンを掛け違えると、会社や上司は従業員から訴えられてブラック企業のレッテルを張られてしまいます。そうならないためには、トラブルが起きないような環境整備が最重要であることは言うまでもありませんが、トラブルが起きたときには弁護士や専門家に相談し、万全の対応をすべきです。このような弁護士費用などもEPLでは補償されます。
D&Oでも役員や管理職従業員の雇用関連賠償責任を補償しますが、あくまでも補償対象は個人です。EPLでは会社の責任に加え、役員や従業員の個人責任もカバーできるようになっています。
D&OにEPLの会社責任も補償される特約を付帯している契約を見受けますが、D&Oは本来役員個人を補償するためのものであり、EPLの会社補償で限度額を費消してしまうことを考えると、D&OとEPLは別途契約することをお勧めします。
パワハラ問題が発生すると、加害者本人だけでなく、上司、人事部、役員、会社、と責任が連鎖していく可能性があります。
日本の保険会社によるEPLでは、加害者の責任を補償対象外とする契約が見受けられます。これは、犯罪など反社会的な行為を助長するような保険は許されない、という伝統的なルールを重視する立場から、保険で補償されるとパワハラを助長してしまう、という危惧が理由と思われます。
他方、グローバルな感覚では、本人の賠償責任のカバーはむしろ必須です。会社が管理職に従業員の管理監督を任せているということは、ハラスメントの責任を負うリスクを管理職個人に負わせているということです。会社が管理職を守らなければ、危険な管理職の仕事を引き受ける人がいなくなる、ということでしょう。従業員の権利意識の強さの裏返しの問題です。
日本ではまだ、ハラスメントの加害者個人の責任が高額になる事例は少ないようですので、あまり重大な違いではありませんが、特に、海外の子会社をカバーする保険の場合には、この違いは重大な問題になる場合があります。子会社のある国や、その従業員の意識によっては、管理職個人の責任をカバーするかどうかが重要な問題(現地の管理職のモチベーションに関わる問題)になり得ますので、必要性も含め、慎重に検討してください。
EPLはけがや死亡に対する賠償責任は対象外となりますので、注意が必要です。このリスクは使用者賠償(EL)で補償されます。
従業員が、うつ病が原因となって自殺し、会社が損害賠償責任を負うことになった場合、死亡による損害についてはEPLでカバーされません。しかしこの従業員が、うつ病が原因となって会社を去ることになり、不当解雇を理由に会社が損害賠償責任を負うことになった場合、EPLでカバーされます。
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