介護保険事業計画に「災害に対する備えの検討」が新設

今年の7月27日に開催された社会保障審議会介護保険部会において、新たな基本指針(案)が示され、市町村、都道府県が作成する介護保険事業計画の任意記載事項に「災害に対する備えの検討」が「感染症に対する備えの検討」とともに新設されました。内容は次のとおりです。

日頃から介護施事業所等と連携し、避難訓練の実施や防災啓発活動、介護事業所等におけるリスクや、食料、飲料水、生活必需品、燃料その他の物資の備蓄・調達状況の確認を行うことが重要である。このため、介護事業所等で策定している災害に関する具体的計画を定期的に確認するとともに、災害の種類別に避難に要する時間や避難経路等の確認を促すことが必要である。

残念ながら、このような介護事業者の備蓄の充実や避難確保の水準では、災害時の高齢者の命と尊厳は守れません。被災地で大幅に増える新規要介護高齢者、うつ状態から関連死に至ってしまう状況を踏まえると、少なくとも事業継続計画(BCP)の作成により、代替施設での事業継続や他事業者との連携、応援職員の確保などは進めていただきたかった。そして、幸いにも無事であった福祉施設は、福祉避難所となってより積極的に高齢者を支えることが求められます。

また、在宅の要介護者の災害への備えが明記されていません。前述のように、在宅での関連死が多いというのにです。

それでも、介護保険制度が施行されて20年、初めて「災害に対する備え」が新設された意義は決して小さくありません。いえ、小さくしてはいけません。

これまでは要介護者であっても、災害対策は災害対策基本法の所管であり、介護保険法ではほとんど考慮されてきませんでした。しかし、介護保険法第1条の目的には「(要介護状態になった)これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう(中略)介護保険制度を設け」とあります。

先にあげたように、災害が要介護高齢者の心身を衰弱させることは明らかですから、介護保険法の対象になり得ると考え、積極的に防災計画・訓練、緊急避難、避難生活、生活再建のステージにおいて地域社会と協力して要介護者の命と尊厳を守る姿勢が求められます。

これを機に、災害医療と同様に災害介護、災害福祉の議論が進み、高齢者、障がい者などの要配慮者、そしてすべての国民の命と尊厳が守られる制度につながることを切望します。