国内最大規模の訓練で実効性検証

ひたちなか総合病院

人口約15万人、茨城県第4の人口を誇るひたちなか市。隣接する日立市とともに製造業が盛んなこの土地で、日立製作所ひたちなか総合病院を中心に、ひたちなか市と保健所、ひたちなか市医師会、ひたちなか薬剤師会、さらに民間の日立オートモーティブシステムズ社が連携して新型インフルエンザパンデミックに対応したBCPを構築し、合同訓練を行った。

「医療のBCP

は単独の病院だけでは絶対に完結できない」と力強く語るのは、ひたちなか総合病院・永井庸次病院長だ。今年1月21日に内閣府と共同で関係機関も参加し、新型インフルエンザ等対策初期対応訓練を実施した。全人口の約25%が罹患し、致死率は0.35%〜2%、従業員の欠勤率は最大40%程度を想定する新型インフルエンザ等対策政府行動計画等に沿いつつ、ひたちなか市内の企業から新型インフルエンザの感染が疑われる患者第1号が見つかるシナリオを独自に追加し訓練を行った。企業の産業医からの連絡を受けた保健所は、ひたちなか総合病院に感染の疑いのある患者の受け入れを要請。ひたちなか総合病院では患者を受け入れ、検体を摂取し保健所に渡すとともに、患者を感染病床に院内搬送した。病院が中心となり参加組織が連携しながら新型インフルエンザの発生に対応する訓練としては、国内最大規模のものとなった。 

永井院長は「新型インフルエンザ、大規模災害どちらの場合にも病院では入院患者と緊急搬送患者への対応を優先するため、一般外来を縮小せざるをえない。すると、外来を受け入れる開業医の先生に負担をかけることになる。今は院外処方が基本だから薬剤師の協力も欠かせない」と連携の必要性を強調する。

東日本大震災で水が不足 
ひたちなか総合病院がBCPの見直しに本格的に取り組んだのは2013年だった。以前より日立製作所が作成した新型インフルエンザと大規模災害を想定したBCPを応用して計画は策定していたが、2009年のH1N1新型インフルエンザパンデミックと2011年に起きた東日本大震災では有効に機能しなかった。 

東日本大震災が起きたのは2010年6月に免震構造の新棟に移転してから9カ月後のこと。震度6弱の揺れがひたちなか市を襲い、市内では建物の倒壊や道路の亀裂、地割れなどが起こり、沿岸部では津波の被害もあった。地元自治体の施設には最大で約1万人が避難した。 

災害拠点病院でもあるひたちなか総合病院は免震構造のため建物の被害はなかったが、図書室の本は散乱した。それでも、停電やライフラインの寸断で業務を続けられなくなった近隣の産婦人科の入院患者約30人と医師や看護師を受け入れ、出産まで対応した。

オール電化で自家発電設備も設置しているが完全復旧までには約2週間がかかった。最も影響が大きかったのが断水だったという。11日間の断水で手術すらできない状況に陥った。「災害拠点病院で貯水していたのは300トンで、普通なら1日150トン使う。それを50トンに減らし、給水車を借りて毎日水を補給した」(永井院長)。震災後はこの教訓から、水の確保にいち早く動いた。敷地内に井戸を掘り、自前の給水施設を建設し今後に備えている。

役割と権限を明確化 
ひたちなか総合病院では、東日本大震災の混乱が少し落ち着いた2011年7月から大規模災害と新型インフルエンザBCPの抜本的な改革に踏み出した。それまでのBCPから大きく見直したのは役割と権限だと永井院長は語る。 

「病院は外科、内科など診療科ごとの縦割りです。普段なら問題ありませんが、これでは大災害に対応できない」(永井院長)。 

そこで、診療科を横断する組織として委員会の役割と権限を明確にした。例えば感染対策委員会は副院長がトップを務める。新型インフルエンザの流入では、同委員会に全権を委ねることで、病院全体が同じ方向を向いて対応できるようになるとする。医師、看護師、薬剤師、検査技師、介護士など異なる専門職の意見調整は簡単ではなかったというが、それでも職員が一体となり2013年12月には事業継続マネジメントシステムの国際規格であるISO22301の認証を取得した。  

同時に、保健所、ひたちなか市医師会、ひたちなか薬剤師会、民間企業などに呼びかけ、連携して地域医療体制を継続できる体制を構築した。例えば、ひたちなか総合病院で外来が受け入れなかった際の対応がとれるよう、医師会は市と共同で行っている休日・夜間診療所の当番体制を拡充し、一般的な症状であれば医師会が対応し、重篤な患者はひたちなか総合病院がバックアップし受け入れられるようにする。薬剤師会は処方された薬を確実に渡す一方、薬の在庫をうまく活用、コントロールできるようにする。また、日立製作所の工場が多数あるひたちなか市では、海外の生産拠点に出張する人も少なくないことから、企業内で健康管理等を行う産業医は、新型インフルエンザにも対応できるようにする。  

2009年のH1N1パンデミックでは世界保健機関(WHO)、米国疾病予防、管理センター(CDC)、専門家やマスメディアから病原性の強さや致死率、ワクチンの効果など様々な情報が発信され、現場は混乱した。「国と県、市も同じ情報であっても表現を微妙に変えバラバラに発信したので対応に苦慮しました。今後は情報の一元化を図り、ひたちなか保健所からの確実な情報をもとに対応することに統一しました」と担当者は話す。 

厚生労働省は2012年3月から各医療機関に「BCPの考え方に基づいた病院災害対応計画の作成手引き」を提示し、災害対策本部の設置や、備品などのチェックリストを示しマニュアルを構築し備えるように促している。とはいえ、ただ通達に従ってBCPを構築しただけでは実効性が伴っているとは言えない。「大災害だろうと新型インフルエンザだろうと産業界のサプライチェーンと同じように連携してBCPに取り組める体制を構築し、絶えず訓練を行う必要性がある」と永井院長は警笛を鳴らす。


医療クラウドで情報共有 
茨城県は人口あたりの医師数が埼玉県に次いで全国で2番目に低い。ベット数約300床のひたちなか総合病院は地域の医療を支える重要な中核病院だ。「各組織と意見交換ができて、情報の流れを確認できたのは大きい。緊急時に限らず普段から相談できるようになった」と連携訓練で中心的な役割を果たした事務長の飯島和秀氏は連携のメリットを語る。現在は発電を停止しているが、ひたちなか市の隣の東海村には日本原子力発電が持つ東海第二原子力発電所もある。「今後は原子力対応も想定する必要がある」とする。さらに、将来的には医療と介護、福祉をBCPで連携させ、クラウドシステムなどICT(情報通信技術)を使って各組織が独自に持っている医療情報を突き合わせることも計画中だ。「ICTをうまく活用し、セーフティネットからこぼれる患者がでないようにしたい」と永井病院長は今後の意気込みを話している。