2016/11/10
誌面情報 vol49

防災やBCP(事業継続計画)担当者の頭を悩ますのが、従業員の危機意識を高める方法だ。どんなに重要性を説明しても聞き流されてしまうのはよくあること。しかし、ひょっとしたら、「伝え方」を変えるだけで、社員の防災意識が変わるかもしれない。
『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)『カイジ「命より重いお金の話』!」(サンマーク出版)などを執筆し、難解な経済の理論をわかりやすく届けているベストセラー作家・木暮太一氏に、人を動かすことができる「伝え方」について聞いた。
(編集部注:この記事は「リスク対策.com」VOL.49 2015年5月25日掲載記事をWeb記事として再掲したものです。)

・従業員の防災意識を高めるには、どのような説明の仕方が求められるのでしょうか?
防災に限らず、物事を分かりやすく説明するには、3つのポイントがあります。1つ目は、伝えたいことを相手が理解しやすいように順序立てて整理して伝えるということ。説明がバラバラで散らばっていたら相手は何を言われているのか整理できないので、目的と対策を箇条書きにしてみるなどの工夫をしてみる。2つ目は、相手が分かる言葉で伝えるということ。
いきなり、新入社員に専門用語で「BCPが大切」などと伝えても、当然理解されません。「BCPって何ですか」と聞き返せない人もいるはず。理解できていないことが、行動に移せるはずがありません。ですから、相手が分かる言葉に置き換え、かみ砕いて伝えることが大切です。
3つ目が一番重要で、興味を持ってもらうように説明するということです。どんなに整理して、分かりやすい言葉で伝えても、そもそも興味を持たないことを、人は聞き入れようとはしません。
例えば、既婚の中高年の方に対して、ウェディングの話題を分かりやすく説明したところで、聞いてくれる人は少ないでしょう。興味を持ってもらうためには、「自分にその事がどのように関係してくるのか」ということを理解してもらう必要があります。
中高年にウェディングの話を聞かせるなら、子どもや孫が結婚する場合をイメージさせるような手法が有効でしょう。同じように、防災についても、あなたがどのように関係しているのかを示してあげる必要があります。これら3つのポイントを満たすことが大切です。
・この3つを順序立てて伝えればいいのでしょうか。
いいえ、違います。「伝えたい」対象によって、順番も重きも異なります。相手に応じて、課題となっているポイントを見極め、伝え方を変えてください。例えば、ある程度防災の知識を既に持っている人に対して伝えるなら、3番の「興味を持たせる方法」が特に求められるでしょうし、小さなお子様を持つ母親で防災の意識はとても高いのだけれども、何をやっていいのか理解できていないような方に対しては、1番の「整理して伝える」や2番の「分かりやすい言葉を使う」ことを重視して伝えるべきでしょう。
・特に3番は難問のように思います。
理由は2つあるように思います。1つは、防災の定義が広すぎて、何を指しているかよく分からない。東日本大震災のような大災害をイメージしているのか、ちょっとした火事なのか、もしくは電車が止まったときの社内対応なのか、説明を聞いている立場からすると、何に備えろと言われているかが理解しづらいのです。
もう1つは、今の話に聞こえないということです。特に大災害をイメージしろと言われても、「今でしょ」ではなく、「今じゃなくていいでしょ」ということになってしまう。
「災害は忘れたころにやってくる」とはよく言ったもので、“災害に備えるのが大事です”と言われて反論する人はいませんが、では、いつ来るかと問われれば、たぶん「今じゃない」と皆が思っている。防災対策が必要なことは、誰でも理解できるでしょうが、今の問題と受け止めてもらえなければ、結局、自分とは関係のない、興味の持てないことにされてしまいます。
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