日本の新型コロナ危機管理対応のこれまでの流れを総括(写真:写真AC)

これまで5回にわたり日本の危機管理の課題、問題性を指摘し、改善の方向性を示しつつ、自己防衛の考え方を筆者なりに示してきた。ここで少し総括してみたい。

新型コロナ危機管理対応の変遷

大きな流れでいうと、コロナ禍当初、安倍政権時はまったく未知の脅威の状態から、主にはダイヤモンドプリンセス号の事案を通じてかなりの部分の実態を把握し、感染予防対策としての3密対策、ソーシャルディスタンスを提言している。これは世界に先行する日本の大きな成果であり、危機管理の観点からも現実に起こっている事態を正確に把握することができたのである。

正確な事態把握がいかに肝要であるかを示した実績である。この貢献者は、実は尾身氏であり脇田氏だと思っている。現在、分科会として批判も受ける政治家のような立場だが、専門家として大きな貢献をしているのも事実である。

ただし、海外の危機的情報もあり、確証が得られない状態で政治的には安全に舵を切らざるを得ず、1回目の緊急事態宣言を発出したのはある意味仕方がなかった。

過激な方向に動かされた世論(写真:写真AC)

引き継いだ菅政権も同様のウイズコロナ路線を継続するが、メディアを中心とする過激な批判に世論が動かされ、分科会も攻められる立場になり、専門家集団から政治判断集団に変貌し、遂に世論に負ける形で2回目の緊急事態宣言、以降の感染抑止原理主義ともいえるバランスを欠いた私権制限が常態化される事態につながった。

そして現岸田政権はワイドショーに迎合するかのように、再びまん延防止に舵が切られた。オミクロン株は感染力が高いとはいえ、過去のインフルエンザの流行期は1週間の患者が200万人を超えていたとされることと比較すればいまだ桁が違う。重症化率や死亡率に関してはインフルエンザ同等かそれ以下とも思える報告が各所から提出され、分科会も50歳以下で既往症のない人のリスクは低いと明言しているにも関わらず、だ。

再び全国的な「まん延防止」へ(写真:写真AC)

本来、感染症の専門家の立場では、感染抑止、感染によるリスクを最小化する提言が主となるのは当然である。しかしながら、それは社会全体としては部分最適でもある。総合的に全体最適思考で判断するのは政治の仕事のはずだが、どうも政治責任を回避する大衆迎合的な判断に終始していると見えるのは筆者だけだろうか。

世界が規制緩和、経済復興に向かう状況で、いまだ経済を疲弊させる方向に向かい、増税すら匂わされる状況である。プライマリーバランスというが、バランスシートでの経営視点で見る限り、まだまだ投資拡大するべき日本の実態ではないだろうか。経済界はいまこそ、声を大にして異を唱えるべき時ではないだろうか。