日本権益に対するテロの脅威

(イメージ:写真AC)

2023年5月19日から同月21日までの間、主要国首脳会議(G7広島サミット2023)が広島県で開催されました。「イラク・レバントのイスラム国(以下、ISIL)」等のイスラム過激派がテロの標的とする国の首脳等の来日も見込まれたことから、警察当局は、警戒警備が重要という認識1の中、戦時下のゼレンスキー・ウクライナ大統領が電撃的に訪日し、テロに対する態勢が一層強化されました。このようにテロの脅威が身近に感じられる国際的なイベントが日本で開催されたことを踏まえて、現在、日系企業の海外拠点数が7万を超えると言われる中2 、あらためて、日本権益がテロによって狙われる可能性について考えてみたいと思います。

過去のテロ事件を見てみると、例えば、2015年のシリアにおける邦人殺害テロ事件では、ISILによって配信された動画において日本政府がテロの標的として名指しされ、今後も日本人をテロの標的とすることが示唆されました。その後も、ISILはオンライン機関誌「ダービク」等において、日本や邦人をテロの標的として繰り返し名指ししています3。また、外務省は、2016年7月のバングラデシュ・ダッカにおける爆弾テロ事件を踏まえて、「日本人はテロに巻き込まれるだけでなくテロの標的とされ得る」、「中東・北アフリカのみならず先進国を含む世界各地でテロが起こり得る」などと評価しています4。これらを踏まえると、確かに、日本権益に対するテロの脅威は存在すると考えるのが妥当であり、実際に日本人が巻き込まれた事件として、最近では(一部前述したとおり)、2015年のシリアにおける邦人殺害テロ事件および同年のチュニジアにおける襲撃事件、2016年のダッカ襲撃テロ事件、さらには2019年のスリランカ同時爆発テロおよび同年のアフガニスタンにおける邦人銃撃テロ事件が挙げられます。

本当にテロの脅威って存在するの?

他方で、過去には、バリ島爆弾事件(2002年)、マドリード同時爆弾テロ事件(2004年)、ロンドン同時爆破事件(2005年)、ムンバイ同時テロ事件(2008年)、ジャカルタホテル爆破事件(2009年)、ボストンマラソンテロ事件(2013年)、パリ同時テロ事件(2015年)、マンチェスター・アリーナテロ事件(2017年)等の社会の耳目を集める大規模なテロ事件発生しました。これらと比較すると、最近は、テロ事件の規模等が比較的小さいため、海外展開する企業の危機管理担当者や現地の従業員等の感覚として、「テロって、本当に起きるの?」と懐疑的な見方が拡散しつつあるのではないでしょうか。

ここで、他の先進国は自国権益に対するテロの脅威をどのように判断しているかを見てみたいと思います。

•米国:国内外における米国の個人と利益は、今後1年間、テロリズムによる持続的でますます多様な脅威に直面することになる5
•英国:英国はイスラム過激派にとって優先順位の高い標的であり、彼らは我が国、そして海外の利益と市民に対して大きな脅威を与える6
•豪州:(テロ)グループの動機となった暴力的過激派の信念は根強く残っており、今後も少数のオーストラリア人を魅了し続ける7

これらを見ると、豪州当局は、自国権益に対するテロの脅威がやや低いと評価しているようにも見受けられますが、いずれにせよ、自国権益に対するテロの脅威は依然として存在すると評価しています。もちろん、歴史、文化、人種、政治制度等が違うこれらの国と日本との脅威の度合いを一概に比較することはできませんが、総じて、日本の評価と同様です。このことから、海外展開する企業の危機管理担当者や現地の従業員等は、日本を含む先進国の権益に対するテロ脅威は存在する、と再認識する必要があります。