海外での安全対策にどれだけの時間が割けますか?


海外で安全対策を講じて犯罪に巻き込まれないようにするためには、渡航前の情報収集が重要なことは言うまでもありません。なぜなら、犯罪に関する特定の地域・日時・イベント等がわかっていれば、それらに近寄らないことが最善の予防策になるからです。とはいえ、海外に赴任、出張する目的は、ビジネス・アジェンダの遂行という重要な業務、例えば、数億円単位の取引を成功させる、工場誘致に向けた商談を固める、現地法人の売り上げを倍増させる、社運をかけたプレゼンテーションをする、などでしょう。そのような渡航者にとって、渡航先における安全対策の位置付けの優先順位は、必ずしも高くないのが本音かもしれません。
このようにビジネスのことで頭が一杯の場合、渡航者は、「これまでの知識と経験を生かして、直観を信じて危険な地域や場所には近寄らないから大丈夫」などと思い込んでいるかもしれません。もちろん、危険を察知できる「嗅覚」をお持ちの百戦錬磨の渡航者もいらっしゃるかもしれません。しかし、そもそも海外渡航の経験が少ない場合、訪問したことのない国・地域へ行く場合、急きょ出張先の変更を指示される場合などでは、普段は犯罪に巻き込まれる可能性が決して高くない日本で生活しているため、前述の「これまでの知識と経験」、「直感」、「嗅覚」はあまり期待できないのではないでしょうか。
今回は、事前に渡航先に関する治安情勢を入手、理解する時間がない最悪の場合を想定し、渡航先で一般犯罪に巻き込まれにくくする着眼点について御紹介したいと思います。

犯罪に巻き込まれる可能性がある場所の見極め方

(1)地域の清掃が行き届いていない

(イメージ:写真AC)

通常、自治体が地域の清掃を担っているなら、地域内は一様に清掃が行き届いているはずです。それでも現実で特定の地域が汚くなるのは、住民の環境美化意識の差が現れていると言えます。地域住民によるコミュニティへの帰属意識が低く、全体の環境に関心を持っていないと衛生環境が悪化しコミュニティが荒廃します。その結果、犯罪への抵抗感が薄れていくと言われています。このことから、地域の衛生・清掃状況は、その場所の治安状況を見極める上で、一つの指標になるでしょう。なお、筆者が米国のいわゆる高級住宅街に住む知人から聞いたところによると、その地域では自宅前の芝生の手入れが自治会で決められており、少しでも手入れされていなければ自治会から指摘されるとこのことでした。このように環境美化意識の高い地域は、犯罪発生率が低くなると言えるでしょう。

(2)長期の違法駐車・放置車両が多い

(イメージ:写真AC)

前述の衛生・清掃とも関連しますが、地域のコミュニティにおいて、長期間、違法駐車や放置車両が多いことは、一般的に、その地域の住民の遵法意識が低いことを示していると言えます。また、警察当局によるパトロールや違法駐車の取締りが行えないほど、その地域の治安が悪化している可能性もあります。違法駐車くらいと思われるかもしれませんが、前述の清掃状況と同様に、違法駐車・放置駐車の存在は、住民がコミュニティに関心を持っていないことを示しています。所有者不明の当該車両の破壊が発端となり、近隣の車両も破壊され、地域全体が荒廃し、結果的に犯罪多発地域になり得ると言えます。なお、筆者の米国人の知人は、米国の場合、地域に駐車している車両のクラスやメンテンナンス状態を見ることによって、地域の治安がわかる一種のバロメーターになるとも言っていました。

(3)店舗・住居に鉄格子が入っている

(イメージ:写真AC)

海外、特にアメリカでは自身で安全を確保する自衛意識が高いと言われています。このことから、防犯対策上、窓ガラスを割られての強盗や窃盗等の犯罪を回避するため、店舗や住居に鉄格子を設置している場合が見受けられます。ガソリンスタンド、地下鉄、コンビニ等で支払いを行う際のレジ前にも鉄格子が入っている場合もあります。日本において防犯対策上、あからさまに鉄格子を設置している地域はないでしょう。しかし、海外では、店舗や住居に鉄格子が設置されていることは、その場所における窃盗等の犯罪が多いという一つの指標になり得ます。

(4)暗い・細い通り

 

大通りは、人や車両の往来も多くて人の目があり、また、防犯カメラも設置してある場合が多いです。しかし、海外の場合、大都市でも一つ裏の細い通りに入れば、暗くて人通りも少ないことがあります。犯罪者の心理から「(警察に)捕まりたくない」のは当然で、人に見られて通報されない、犯罪の足跡を残さないようにします。よって、犯罪者は、暗くて人通りの少ない細い道を犯罪場所に選ぶことになるでしょう。特に、途中に左右に抜け道のない細い通りは、前後を挟むと逃げ道がなくなるので、犯罪者にとっては絶好の場所になり得ます。よって、渡航者は、不案内な都市では、近道だからと言って小さい路地に入ることなく、基本的に大通りを選ぶことがより安全と言えるでしょう。なお、海外では、そもそも夜間の外出は大通りでも危険が伴う場合があり得、また、大通りでも自身の携帯電話で地図等を見ながら歩くことは、注意力散漫になり、犯罪者に間隙を与えることになるため、注意が必要です。