コロナ禍で打撃を受けたインバウンド(訪日客)など観光需要が急回復する中、宿泊業界が働き手確保に苦慮している。7~8割のホテル・旅館が人手不足に陥っているとの民間調査もあり、需要取りこぼしへの懸念が高まっている。
 ホテル・旅館業の約100社を対象にした帝国データバンクの調査では、人手不足だと答えた企業の割合は昨年後半から一段と上昇。4月は正社員で75.5%、パートや派遣など非正規社員で78.0%となり、状況は深刻化している。
 ホテルや旅館はコロナ禍で従業員を減らし、多くが他業種に移った。足元では全国旅行支援や水際対策撤廃で観光客が戻ってきたが、今度は需要増に人手が追い付かず、フロントスタッフや配膳、清掃の業務逼迫(ひっぱく)に直面している。
 ただ、従来と同じ賃金や待遇で人材を呼び戻すのはもはや困難で、予約や客室稼働の抑制を余儀なくされる例も多い。JTBが6日発表した夏休みの旅行動向では、国内旅行者数がコロナ禍前水準に戻るとも見込まれるが、「需要取りこぼしなどで業績回復ペースが伸び悩む可能性がある」(帝国データ)と危惧される。
 観光業の生産性向上が急務となる中、日本旅行業協会(JATA)は今月から、宿泊施設と旅行会社間の煩雑な連絡を効率化する業界横断的なシステムの運用を始める。
 災害時の被害状況のほか、部屋タイプやチェックイン時間といった基本情報など、個別に行ってきたやりとりを一元化。「大幅に作業量を削減できる」(広報)という。限られた人材の有効活用につなげる狙いで、インバウンド対応での多言語化も視野に入れる。
 もっとも、人手不足の根源は他業種より低い賃金水準や将来不安にある。観光業界では新卒採用にも苦戦しており、JATAの高橋広行会長(JTB会長)は「業界の成長性をしっかり見せなければならない」と危機感をあらわにする。 
〔写真説明〕東大寺の参道を歩く観光客ら=6月1日、奈良市
〔写真説明〕観光客でにぎわう浅草・雷門前=5月22日、東京都台東区

(ニュース提供元:時事通信社)