首都を襲った大地震と火災で、未曽有の大災害をもたらした関東大震災。100年前に焼け野原となったまちを再生していく過程で、都市ガスが整備され、普及していく契機になったとされる。今後、首都直下地震が再び東京を襲うリスクが懸念される中、都市ガス業界は設備の耐震化を進めるなど安全性の向上に余念がない。
 国内の都市ガス事業の誕生は、「文明開化」により近代化が進んだ明治初期にさかのぼる。横浜・馬車道通りに日本初のガス灯がともったのは1872年。日本実業界の父と呼ばれる渋沢栄一が85年に東京瓦斯会社(現東京ガス)を創立してからは、街灯だけでなく、暖房や炊事の用途にも徐々に広がりを見せていった。
 しかし、当時の家庭の大半は引き続き炊事にかまどやしちりんを利用していた。昼食の支度時間を襲った関東大震災では、台風による強風の影響で火災が瞬く間に広がった。内閣府の報告書によると、東京市(当時)で確認された出火元98件のうち、60件がかまどやしちりん、火鉢が原因だったという。
 ガスの出火元も9件で確認されたものの、日本ガス協会の資料によると、「多くの人が家庭用のガス器具の火を消してから避難した」と指摘されている。「全国的にガスは安全と評判になった」ことが、その後の普及につながったとみられる。震災から2年後の1925年には旧ガス事業法が施行され、新たなまちづくりとともにガスの整備が加速した。
 都市ガス業界は地震発生時の被害を最小限に抑えるため、その後の度重なる自然災害を経て設備の耐震化を進め、部分的にガスの供給を遮断する仕組みを構築してきた。
 ガス導管は伸縮性の高い「ポリエチレン管」を採用し、2030年までに95%の導入を目指す。各家庭に設置されている「マイコンメーター」(安全機能付きガスメーター)は震度5強程度の揺れを感知すると供給を自動的に停止し、ガス漏れがなければ各家庭で復旧できる機能が付いている。
 ただ、首都直下地震が起きればガスの復旧には約6週間かかるとされており、ライフライン停止を想定した備えも課題となりそうだ。 
〔写真説明〕横浜・馬車道通りのガス灯(日本ガス協会提供)
〔写真説明〕東京瓦斯大森製造所の被災状況(東京ガス提供)
〔写真説明〕東京瓦斯芝製造所の発生炉の被災状況(東京ガス提供)
〔写真説明〕伸縮性の高いガス導管「ポリエチレン管」(日本ガス協会提供)
〔写真説明〕各家庭に設置されているマイコンメーター(日本ガス協会提供)

(ニュース提供元:時事通信社)