海外進出、今後3年内で2011年度比1.4倍の見込み
~進出先の文化・商習慣や法規制・制度に大きなカベ、行政支援への期待も高く~

株式会社帝国データバンク 産業調査部 政策支援課 経済動向研究チーム

国内市場が伸び悩むなか、企業の海外展開に対する意欲が高まっている。また、政府は新成長戦略や産業構造ビジョンにおいて、中小企業の海外展開を重要な政策課題と位置づけるなど、中小企業の海外進出支援を強化している。

そこで帝国データバンクでは、海外進出に対する企業の意識について調査を実施した。調査期間は2012年5月21日~31日。調査対象は全国2万2955社で、有効回答企業数は1万467社(回答率45.6%)。

【調査結果のポイント】
●今後2~3年で海外進出を見込む企業が2011年度比1.4倍
2011年度に海外進出した企業は9.8%。一方、今後2~3年の間で予定・検討している企業は13.7%。製造業やサービス業で多く、特に「精密機械、医療機械・器具製造」では約3割で全51業種中1位。

●海外進出を決めるポイント、「良質で安価な労働力の確保」が最多
海外進出を決定する際には「良質で安価な労働力の確保」を挙げる企業が35.0%で最多。一方、海外進出の意向がある企業では、進出先や近隣国需要の拡大とともに日系企業の進出実績も重視。

●海外進出のきっかけ、「国内市場の縮小」が45.1%で最多
自社が海外進出するきっかけについて、国内市場が縮小すると見込まれることと同時に、新たな事業の展開を図るために進出するという前向きなきっかけも高く、両者が海外進出の二大理由。

●海外事業の障害・課題、「文化・商習慣」「法規制・制度」の違いが3割超
自社が海外事業を行ううえでの障害・課題として、「文化・商習慣の違い」や「法規制・制度の違い」を挙げる企業がいずれも3割超。

●行政に期待する支援サービス、「法規制・制度調査支援」が最多
行政には「法規制・制度調査支援」が34.2%で最多。海外進出の意向がある企業では半数近くに達し、行政の支援に対する期待は大きい。

■今後2~3年で海外進出を見込む企業が2011年度比1.4倍
2011年度(2011年4月~2012年3月)における海外への進出(海外現地法人の設立、海外企業との業務提携、海外企業への資本参加・増資、活動拠点の新設・拡大など)の有無を尋ねたところ、「あった」(進出)と回答した企業は1万467社中1028社、構成比9.8%となり、1割弱の企業が過去1年間に海外に進出していた。一方、今後2~3年での海外進出について、「ある(予定・検討含む)」(進出意向あり)が同13.7%(1430社)と1割超の企業が海外への進出意向を持っており、2011年度と比べて1.4倍になっている。

今後2~3年で海外に進出する意向が「ある(予定・検討含む)」と回答した企業1,430社を業界別にみると、『製造』(同19.9%、588社)と『サービス』(同13.8%、212社)の2業界が全体を上回った。とりわけ、製造業では「精密機械、医療機械・器具製造」(同29.9%、20社)が全51業種中で最高となったほか、「機械製造」(同27.0%、120社)、「電気機械製造」(同26.8%、94社)、「繊維・繊維製品・服飾品製造」(同25.0%、28社)、「化学品製造」(同24.7%、97社)、「輸送用機械・器具製造」(同22.3%、21社)が2割を超えた。また、サービス業では「人材派遣・紹介」(同19.0%、11社)が高かった。

地域別では、『南関東』(同17.0%、581社)や『近畿』(同16.1%、282社)『東海』(同15.2%、177社)が高く、都市圏で海外進出意向が強くなっている様子がうかがえる。

具体的には、「グローバル展開は必須なので、積極的に諸外国と連携がとれる姿勢が大切」(通信付帯サービス、東京都)や「このまま国内で事業を継続すること自体が困難であり海外生産を含めた形で事業継続したい」(工業用樹脂製品製造、群馬県)、「現時点では興味関心はないが、可能性があるならばITインフラや人材の乏しい国・地域へのインフラ整備や人材投資を考えてみたい」(ソフト受託開発、静岡県)などの声が多く挙がった。一方で、「培ってきたノウハウを生かして国内で生産する方が賢い」(金属加工機械卸売、広島県)や「中小企業にとって自己努力だけでの海外進出は厳しい」(化学製品卸売、愛知県)、「国内産業の空洞化に繋がることも考慮して進めなくてはならない」(印刷、大阪府)といった、国内を重視する声や企業規模による限界、産業空洞化への懸念など海外進出を行わない理由を指摘するさまざまな意見がみられた。

今後、海外への進出を想定している企業は全体の13.7%存在する。国内需要が伸び悩むなかで、とりわけ「精密機械、医療機械・器具製造」を含む製造業で海外進出を視野に入れている企業が多かった。

■海外進出を決めるポイント、「良質で安価な労働力の確保」が最多
自社が海外進出を決定した(決定する)際のポイント(海外進出を行っていない企業は、進出する場合にポイントになると考えられるもの)について尋ねたところ、「良質で安価な労働力が確保できる」が1万467社中3659社、構成比35.0%(複数回答3つまで、以下同)で最多となり、3社に1社が挙げた。次いで、「現地の製品・サービス需要が拡大」(同19.9%、2084社)「納入先を含む他の日系企業の進出実績がある」(同18.8%、1973社)、「品質・価格面で、日本への逆輸入が可能」(同17.8%、1860社)、「現地政府の産業育成、保護政策」(同17.7%、1857社)などが続いた。

今後2~3年で海外に進出する意向が「ある(予定・検討含む)」企業1430社では、「現地の製品・サービス需要が拡大」(同39.2%、560社)が4割近くで最多となった。さらに、「良質で安価な労働力が確保できる」(同31.7%、453社)、「納入先を含む他の日系企業の進出実績がある」(同31.6%、452社)が3割超となった。また、「品質・価格面で、日本への逆輸入が可能」も同21.6%(309社)あり、海外で生産した製品やサービスを日本で販売することを視野に入れた海外進出も5社に1社がポイントとして挙げた。

企業からは、「経済成長率が日本に比べて格段に高い」(遊技場、東京都)や「小売の市場規模・質が一定水準にある」(婦人・子供服小売、東京都)といった声のほか、「天災への対応」(機械工具製造、茨城県)など東日本大震災やタイの洪水被害の経過を受けて、自然災害の有無も海外進出を決める要素とする意見が挙がった。

実際に海外進出の予定があったり検討している企業では、進出先や近隣国需要の拡大とともに日系企業の進出実績を重視している様子がうかがえる。さらに能力の高い労働者の確保も同時に海外進出の決め手として考えている。

■海外進出のきっかけ、「国内市場の縮小」が45.1%で最多
自社の海外進出のきっかけについて尋ねたところ、「国内市場の縮小」が1万467社中4723社、構成比45.1%(複数回答、以下同)で最多となったほか、「新たな事業展開」(同40.4%、4232社)も4割超の企業が挙げた。国内市場が縮小すると見込まれるために海外へ進出するという必要に迫られたきっかけと同時に、新たな事業の展開を図るために進出するという前向きなきっかけがともに高かった。次いで、「取引先の海外進出」(同22.5%、2350社)、「労働力の確保・利用」(同14.8%、1552社)が続いた。

今後2~3年で海外に進出する意向が「ある(予定・検討含む)」企業1430社では、「国内市場の縮小」(同54.8%、783社)と「新たな事業展開」(同52.8%、755社)がともに半数を超えた。また、「取引先の海外進出」(同35.7%、510社)を3社に1社が挙げたほか、「ボリュームゾーンなどの市場・販路開拓」(同22.2%、317社)も海外進出のきっかけとなっていた。

海外への進出は国内市場が縮小することへの対応がきっかけとなる企業が非常に多い。とりわけ、海外進出意向のある企業では半数超が要因として挙げている。同時に、新たな事業展開のために海外に進出するという企業もほぼ同程度あり、両者が海外進出の二大理由となっている。

■海外事業の障害・課題、「文化・商習慣」「法規制・制度」の違いが3割超
自社が海外事業を行ううえでの障害や課題について尋ねたところ、「文化・商習慣の違い」が1万467社中3538社、構成比33.8%(複数回答3つまで、以下同)で最多となり3社に1社が挙げた。また、「法規制・制度の違い」(同30.5%、3192社)も3割を超えていた。次いで、「言語の違い」(同27.1%、2837社)「現地情報の収集」(同18.5%、1941社)「海外事業展開の戦略立案」、(同16.8%、1762社)が続いた。

今後2~3年での海外進出を考えている企業でも、「法規制・制度の違い」(同38.4%、549社)や「文化・商習慣の違い」(同32.2%、461社)が高かった。また、「提携先・パートナーの発掘」は同23.3%(333社)と4社に1社が挙げており、海外事業を行ううえでのパートナー探しを課題と考えている企業も多い。

具体的な声としては、「現地の法規制(労務)が日本と根本的に違った」(菓子小売、愛知県)や「印刷業者が海外の需要を求めて進出することは言葉の壁が大きく、非常に困難がともなう」(印刷、東京都)、「現地での人材確保が難しい」(化学工業製品製造、岐阜県)、「あまりに為替相場で左右され、本業以上に難しさを感じる」(一般製材、愛媛県)、「3年前、パートナーの選択ミスで中国ビジネスを撤退した」(測定器・分析機器・試験機製造、茨城県)など、海外事業を行ううえで抱えている障害や課題は多岐にわたっており、企業は幅広い分野の課題解決を模索している様子がうかがえる。他方、「海外に出る以上は、いかに現地に根を下ろすかが大切」(経営コンサルタント、千葉県)や「国内でやってきた以上に自社の強み、ポジションを明確にしておく必要がある」(鋳鋼・鍛工品・鍛鋼製造、鳥取県)といった点を指摘する意見もあった。

■行政に期待する支援サービス、「法規制・制度調査支援」が最多
自社が海外事業を進めるうえで、行政(国・自治体)に期待する支援サービスについてニーズの高いものを尋ねたところ、「法規制・制度調査支援」が1万467社中3578社、構成比34.2%(複数回答3つまで、以下同)で最多となったほか、「情報収集・相談支援」(同32.1%、3362社)を3社に1社が挙げた。次いで、「リスクマネジメント」(同24.4%、2558社)、「人材育成支援」(同21.6%、2257社)、「市場動向調査支援」(同19.1%、1996社)が続いた。

今後2~3年で海外に進出する意向が「ある(予定・検討含む)」企業1430社では、「法規制・制度調査支援」が同46.2%(660社)と半数近くに達した。海外事業を行ううえでの障害や課題でも多くの企業が法規制・制度の違いを挙げており、自社での課題解決に困難さを感じているなかで、行政の支援に対する期待は大きい。

企業からは、「他国にひけを取らない確かな技術を持った中小企業もあり、国・自治体には中小企業が海外進出するための支援をお願いしたい」(配管冷暖房装置等卸売、福島県)といった、強い技術を有する企業に対するバックアップを望む声のほか、「業種別の海外進出の展開性の説明機関があると具体的に理解しやすくなる」(建設、東京都)、「中小企業には分からないことばかりなので、広範囲に相談できる国の機関が欲しい」(細幅織物製造、東京都)、「渡航、現地調査など初期費用の助成金を拡充して欲しい」(電子部品製造、兵庫県)、「輸出の際の手続きの簡略化が進めば、取引量も増加する」(飲食料品卸売、北海道)などの意見も挙がった。一方、「国内で頑張っている企業もしくは海外から日本に戻ってくる企業にこそ支援・協力して欲しい」(金物類製造、新潟県)や「海外事業展開を進めると国内雇用の低迷に影響するのではとの違和感がある」(パッケージソフト、新潟県)といった声もみられた。

国内市場が低迷するなかで、海外に活路を求める企業は多い。一方で、海外での事業展開においては多種多様な困難に直面している様子が浮き彫りとなった。同時に、人材の不足や資金面、情報不足などで次なる一手を躊躇している中小企業も多く、国や自治体による支援サービスを求める声も多岐にわたる。企業からは産業空洞化を懸念する意見も多く挙がっており、国内経済対策や雇用を維持する対内投資の施策も行う必要がある。そのうえで、企業がさまざまな問題を解消するための施策を積極的に行うことの重要性は一段と増している。


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転載元:帝国データバンク<TDB景気動向調査2012年5月特別企画>