まわりは壊滅していても自社の被害は軽微。そんなBCPになるのはなぜか(イメージ:写真AC)

ざんねんなBCPの「あるある」が発生する原因と対処を考える本連載。第1章は「リソース制約と事業継続戦略の検討・見直し」のなかに潜む「あるある」について論じます。前回は序章として、地震用BCPについてよく聞く不安と、それに対する筆者の考えを述べました。今回は「想定の範囲内ならなんとかなるかも」というBCPの「あるある」を取り上げます。

第1章 リソース制約と事業継続戦略の検討・見直しの「あるある」

(0)はじめに

・まわりは壊滅しているのに、当社の被害はなぜか軽微で全員無事

以下は、中堅の製造業で総務部門に所属するBCPご担当者様との会話です。

「あれ?おかしくないですか?」

担当者「何がでしょう?」

「被害を想定するとき、内閣府の首都直下の地震を参考にしていますね」

内閣府中央防災会議(平成25年12月19日公表)都心南部直下地震(首都直下のM7クラスの地震)

担当者「はい。そうです」

「BCPを見ると御社は無事に事業継続できるように見えます。本社や工場の被害は軽微で、従業員さんもほとんど出勤可能となっています」

担当者「はい。そうです」


「公表されている被害想定をBCPに転記してあるので、どんなに大きな地震なのかはわかっていると思いますが、実際に徹底的な耐震強化ができているとか、従業員の住まい、パートナー企業やサプライヤーに対して何か特別な対策を取っているんですか?」

担当者「いえ特に…でも、こうでないと当社のBCPが成立しないんです」

このやり取りのように、公的な被害想定をそのまま転記して、何の考察もないまま都合よく「事業継続ができるレベルにリソースが残存する」ことにしてしまうのはよく見られる事象です。

リソースが極端に制限されるシビアな状況では「事業継続ができない」ことがうすうすわかっているにもかかわらず「事業継続ができる」という物語を書こうとする(書かなければならない)からですが、このような事象が起こる原因は、突き詰めてみると二つあると考えます。

「事業継続物語」の読者である経営層はハッピーエンドを求めている?(イメージ:写真AC)

一つは「事業継続」という物語の読者がハッピーエンドを求めていること。「事業継続」という物語の読者が、ハッピーエンドな「事業継続計画書」という書物を手に入れることで、我が社は大丈夫だという安心感を手軽に得て、取引先からのBCP策定の要求にもサッと応えてしまおうという意識が働いてしまうからでしょう。

御社の「事業継続計画書」の読者や、役員会と称した会議に集まってくる読者集団には、こんな特徴はありませんか。

・「事業継続ができません。思い切った戦略が必要です」といった報告は受けたくない

・訓練では「無事に事業継続ができました」という報告が好き

・事業を見つめ直し改善できる機会を得ているのに、自分の会社の危機を危機としてとらえていない

・新たなアイデアが出ることを期待していない。アイデアが出たとしても自分事としてとらえることができず、よくて「保留」

・コストをかけたくない。「それをやっていくら儲かるんだ」がいつもの言葉