パナソニック オペレーショナルエクセレンスの青江多恵子氏(右)と日本マイクロソフトの熊田貴之氏(左)

​パナソニックグループは、日常的に業務で使っているTeams上で、発災時に素早い情報共有を実現するシステム「災害ポータル」を開発し、運用を開始した。誰もが普段から頻繁に利用しているTeams上で稼働するシステムのため、災害時にも簡単に使うことができる。またローコード開発ツールであるMicrosoftのPower Appsを使うことで負担を抑えることにも成功した。2020年の試作を経て、2021年から情報システム部門に先行導入し、現在、グループ全体に展開中である。現場が求めるツールを目指し、現在もアジャイル式開発の最中にある。さらに同社の災害ポータルは、現場の意識改革を引き起こしている。

顕在化した情報共有での課題

パナソニックグループでは、2021年から日常的に使うグループウェアであるマイクロソフトのTeams上で稼働し、発災時にグループ内で素早い情報共有を実現するシステム「災害ポータル」を情報システム部門に先行導入、運用を開始した。開発担当のパナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社情報システム本部に所属する青江多恵子氏は「念願のシステム」と話す。このシステム開発は、青江氏の東日本大震災やタイの大洪水など災害時の経験が契機になっている。

2011年、青江氏が本社リスクマネジメント室に配属されて間もない3月に、東日本大震災が発生した。続く10月にはタイで大洪水が起こった。青江氏はいずれも全社緊急災害対策本部(現:グループ緊急対策本部)の事務局の一員として、力を尽くした。

「グループでは、東日本大震災で初めて全社的な災害対策本部を設置しました。緊急対策本部にはメール、電話、FAXなどから膨大な被害状況の報告が届き、被害情報を集約、共有するために、多くの時間を要しました。意思決定を迅速化するためには、被害情報集約の効率化が必須と考えました」と青江氏は振り返る。

その後、東日本大震災やタイの洪水での経験を経て、あらゆる危機に対応できる「結果事象型」のBCPである「パナソニックグループBCM構築ガイドライン」を作成、国内外約200の事業場のBCPの策定およびBCMの構築を支援した。それでも災害時の情報共有には不安を残したままだった。

2013年に情報システム部門に異動した青江氏は、BCP/BCMのICT化を担当した。東日本大震災などの経験を踏まえ、スピーディな情報収集と共有を可能とするシステムの導入を模索したという。しかし、条件に合致するものは見つからなかった。

導入における条件は日常的に使っているツールであること。災害時だけに稼働するシステムでは、使い方を忘れかねないという危惧があった。また、災害という特殊な条件でのみ利用するシステムのために多くの予算を割くのは容易ではなかった。「展示会などへの参加も含め、たくさんのツールを検討しました。良いシステムはたくさんありますが、リーズナブルで、かつ、パナソニックの現場に合うシステムは、なかなか見つかりませんでした」と話す。

転機が訪れたのは、新型コロナウイルスの流行だった。社内の一部でコミュニケーションツールとしてTeamsを日常的に活用し、その使い勝手の良さが共有されはじめていた。青江氏も、以前からTeamsには注目していたが、普及以前では災害対策用のためだけにライセンスを付与するには、コストがかかりすぎた。

ところが、新型コロナウイルスの流行により社員の在宅勤務が増えたことを機に、Teamsの全社員による利用が加速した。そこで青江氏は、Teamsを活用したシステム開発を上司や部門メンバーに相談。マイクロソフトのPower Apps を使えば、それほどコストもかけずに、災害時に情報共有を可能にするアプリが簡単に作成できるとのアドバイスを得た。