イアン・ブレマー自身も、「Gゼロ世界ではグローバルなリーダーシップを発揮できる国家が存在しないことから、適応性や柔軟性、行動力があり、また1つのものに過度に依存せず、さまざまなリスクを分散できる国家(ピボット国家)というものがGゼロ世界の勝者になれるだろう」と述べていることから、例えば日本自身も石油の輸入先を中東一極から中央アジアやアフリカ、中南米へ多角化させたり、資源開発でロシアとの経済協力を強化したりするなど、今まで経済交流が手薄だったような地域・国家と新たな関係を構築し、戦略的な経済開拓政策を実施していくことが望まれる。安倍政権のメンバー達は、発足当時から経済をキーポイントに今日までロシア、サウジ、UAE、トルコ、カザフスタン、ミャンマー、メキシコ、ペルー、ブラジル、サウジアラビア、ウクライナ、ポーランドなど多くの国々を訪問し、安全保障や経済、エネルギー分野での独自の関係強化に努めているが、これは日本の長期的未来を考慮すれば非常に有効な経済戦略である。

イアン・ブレマーの論理が現実になるかは分からない。しかしその前兆は既に表面化していることから、日本企業の多角的な海外進出は一層強化されるべきであろうし、何より日本経済の発展を考えればそうせざるを得ないだろう。しかしGゼロ世界は内戦やテロの増加、資源獲得競争の激化など多くの不安定要因も内在していることから、今以上にセキュリティ面の強化が必要になってくる。進出する特定地域・国家の政治事情や治安情勢を熟知し、何か起こった場合の危機管理対策を構築しておくことは、Gゼロ世界を生き抜いていく上では回避できない。そのような意味で日本版NSC(国家安全保障会議)の運用開始や危機管理分野における官・民の協力関係を強化することは、今日の日本社会にとっての急務であろう。

報告者紹介:和田 大樹

(わだ・だいじゅ)

 

1982 年4月生まれ。専門分野は国際政治学、外交・安全保障政策、国際テロリズム論、国際危機管理論などで、現在は国際テロやG0世界論、グリーン経済と紛争リ スクの関係などを中心に研究し、外国の研究機関や学会をはじめ、専門誌や新聞、論壇誌、企業誌、警察・公安誌などに論文や解説を発表。発表論文に、 “Perspectives on the Al-Qaeda”(CTTA March.2011, ICPVTR,南洋工科大学)。今日大学で講師やフェローを務める一方、学会の主任研究員やコンサルティング会社のアドバイザーなどを兼務。所属学会に日 本国際政治学会や国際安全保障学会、日本防衛学会。

 

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