現実の街並みをデジタル空間に再現し、地震発生から5分以内に想定される津波被害を算出して住民避難に役立てる。産官学でこうした防災・減災への挑戦が進んでいる。「デジタルツイン」という技術を活用。街並みや地形、地震に関する複数のデータを組み合わせ、被害の大きさや範囲などの予測を図面で視覚的に示せるのが強みだ。
 NECや東北大、大阪大などが開発するシステムは、地震が起きた際の海底の断層運動などを基に浸水範囲や、交通網と建物の被害を推定。自治体などが素早く救援体制を整えることを支援する。
 津波発生の可能性があれば、緊急対応として両大学のスーパーコンピューターをシステムへ自動的に接続して分析。1月の能登半島地震では、現時点で対応可能な新潟県以北の被害予測を18分で分析し、政府に提供した。
 NECによると、現状では、地震検知から被害予測、図面などの配信までにかかる時間は20分以内だが、2028年3月までに5分以内への短縮を目指す。南海トラフ巨大地震で大きな被害が想定される高知県では、同システムを既に災害訓練に活用している。
 開発に携わるNECの撫佐昭裕さんは「人的被害を減らすには初動が肝心だ」と強調。将来的には能登地震で課題に浮上した帰省に伴う人の移動やインバウンド(訪日客)の動向などを含むリアルタイム人口との連動や、自動運転車や車いすの運行管理を検討していくと意気込む。
 防災・減災へのデジタルツインの活用は各地で進む。神戸市とNTTドコモ、理化学研究所は23年1月から、「富岳」を活用して人の流れをシミュレーションし、帰宅困難者の安全な誘導・退避を目指す取り組みを開始。市民向けに周知する広報動画を作る計画だ。JR東日本は、管内を運行する列車の位置や気象状況などの社内外の情報を自動収集し、一つの地図上に表示するシステムを開発。災害時の避難判断などに活用している。 
〔写真説明〕南海トラフ地震が発生した場合、高知市中心地での浸水の深さを表示したシミュレーション図(NEC提供)

(ニュース提供元:時事通信社)